院長インタビュー

患者さん本位の優しい医療を—道民のラストホープ札幌医科大学附属病院

患者さん本位の優しい医療を—道民のラストホープ札幌医科大学附属病院
山下 敏彦 先生

札幌医科大学 理事長・学長

山下 敏彦 先生

この記事の最終更新は2017年10月18日です。

札幌医科大学附属病院は、1950年から現在にわたり道民に寄り添う医療を長らく提供してきました。今回は、スポーツ医学から先進的な再生医療までさまざまな分野に力を入れている札幌医科大学附属病院の山下敏彦院長にお話を伺いました。

 

本記事は2017年8月のインタビューに基づいて執筆したものであり、現在の実態とは異なる場合がございます。


札幌医科大学

札幌医科大学附属病院の外観写真:札幌医科大学附属病院より提供

札幌医科大学附属病院は、一貫してハイレベルな診療と臨床研究・教育に取り組み、多くの実力ある臨床医を養成してきました。患者さんに対して優しい医療を提供する一方で、がん治療や再生医療など、先端的な研究も積極的に推進しています。

当院では、年間約7,400件の手術を行っています。さらに手術件数を増やせる外科医のキャパシティはありますが、2017年現在は手術室が足りない状況です。今後は手術室を拡張すると共に、ICUのベッド数を倍増する予定です。

また、2016年7月から始まった病院増築棟の建設など、病院の施設整備を進めています。病室のうち、大部屋は6人部屋でしたが、現代の患者さん方のニーズに合うよう4床化し、ユニットを用いてプライバシーの確保に配慮します。

また、医療安全や患者さんに向けたサービスなどさまざまなシステムを順次整備してきています。その成果もあり、当院は病院機能評価認定病院として認定され、高い評価を得ています。

札幌医科大学

「札幌医科大学附属病院増築棟完成予想図」札幌医科大学附属病院より提供

私たちは一般スポーツ選手やトップアスリートに対するスポーツ診療に取り組んでいます。医学部と保健医療学部(理学療法学科)が連携して、スポーツ選手のメディカルサポートに取り組んでいます。北海道という地域性から、スキージャンプやスピードスケートなど、ウインタースポーツのアスリートを中心にサポートしています。

日本オリンピック委員会(JOC)や日本スキー連盟などとも連携して、大倉山と帯広にあるナショナルトレーニングセンターも用いて、冬季オリンピックの日本代表選手などのメディカルサポートをしていることが特徴です。

また、当院にはスポーツ医学センターが設置されており、各種スポーツ団体との連携や、ワールドカップなどのスポーツ大会の医療救護支援もしています。札幌医科大学は、世界で活躍するアスリートたちの陰の立役者だともいえるのです。

当院は、がん診療連携拠点病院に指定されています。がんプロ(がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン)という、がんの専門医を養成するプロジェクトにも取り組み、がん診療に非常に力を入れています。

病理学教室が開発したがんワクチンは、先端的な免疫療法として、すでに外科、整形外科、皮膚科などにおいて臨床応用が行われています。

骨肉腫滑膜肉腫という病気がありますが、手術療法や、抗がん剤を使う化学療法が効かないケースがあります。そのような患者さんには免疫療法を検討します。がん細胞を攻撃する白血球やリンパ球などの細胞を活性化し、自分の体のなかでがんを治療します。活性化した細胞が、がん細胞を攻撃するための標識をみつけなければこの治療は実現できないのですが、当院の病理学教室ではその標識を発見しました。このような自分の白血球を活性化して、自分でがんを退治するという治療を推進しており、一部実用化しています。

現在における札幌医科大学附属病院の目玉は、再生医療です。本院には、神経再生医療科があり、フロンティア医学研究所の本望修教授が主宰しています。
当院での再生医療に用いられるのは、自分の骨髄内にある間葉系幹細胞(MSC:mesenchymal stem cell)という、多様な組織に分化できる細胞です。

最も実用化に近いところにあるといえるのが、脊髄損傷に対する幹細胞治療です。脊椎を損傷し、その中の神経がダメージを受けると、ほとんどの場合は回復することはありません。ラグビーやアメリカンフットボールの選手のなかにも脊髄を損傷して車椅子での生活を余儀なくされている方がいます。現在、脊髄損傷に対する根本的な治療法はないのですが、神経再生医療という希望があります。

骨髄のなかには、赤血球・白血球など様々な細胞があり、そのうち1/1,000あるものが間葉系幹細胞です。この間葉系幹細胞は、肝臓・骨・軟骨・神経など多様な組織に分化する能力があります。

患者さんの骨盤から骨髄液をとり、その中の間葉系幹細胞をCPC(Cell Processing Center)という細胞培養センターで増やします。1億個くらいまで間葉系幹細胞を増やし、それを点滴で体に戻します。

再生医療の多くは、幹細胞を直接損傷部などの病変部に投与するという手法を用いています。しかし、損傷しているところに直接注射を打つと、さらに障害を広げてしまうケースもあります。その点、本望教授の手法では点滴静注で投与し、幹細胞は血流に乗って損傷部分へいくので、侵襲が少なくて済みます。

当院では、2014年から国内初の医師主導治験を始め、その結果が注目を集めているところです。

札幌医科大学

「骨髄間葉系幹細胞治療の流れ」札幌医科大学附属病院より提供

これまでのところ、幹細胞投与により脊髄損傷患者さんの良好な機能回復が得られており、重大な副作用は生じていません。2016年に、われわれの用いている骨髄間葉系幹細胞製剤が、厚生労働省より「先駆け審査指定制度」の指定品目として認められました。これにより、臨床における実用化が近づいたと言うことができます。現在、認可に向けて鋭意準備をすすめているところです。また、今後は脳梗塞認知症パーキンソン病など他の疾患にも応用できるのではないかと日々研究を続けている最中です。

当院は、北海道全域に年間のべ2,000人以上の医師を派遣しています。研究をする人員、大学病院で診療にあたる人員、地方に派遣する人員をうまく分けた新しいシステムを整え、円滑に機能しています。

もともと道立大学ということもありますが、遠隔地や過疎地域の多い北海道において責任を持って医療を提供したいという気概をもち、医師派遣を続けています。

臨床研修・医師キャリア支援センターを整備し、研修医のサポートに力を入れています。初期研修だけでなく、後期研修も含め、新しい専門医制度も視野に入れた研修センターへと強化しています。様々な研修コースがあり、自由度の高い研修内容が特長です。様々な説明会などのイベントに参加して、全国から研修医に来てもらおうと努力しています。

看護キャリア支援センターという、看護師と看護学生のキャリア形成を支援するセンターを2014年に開設しました。看護学生のインターンシップ、看護師のキャリアアップのための研修、新人看護師の相談、出産して復職するための子育てサポートなど、幅広く手厚いサポートをしています。これらの取り組みが功を奏して、近年では定員を大きく超える応募がきています。

当院では、全国的にも珍しい理学療法士・作業療法士の研修制度を設けています。卒業後にもう一回勉強したいという理学療法士、作業療法士の皆さんの要望に応え、2012年に研修制度を作りました。年々好評を得ており、研修制度の定員は7名(2017年現在)ほどですが、それを上回る応募があります。医師のみならず、看護師や他のメディカルスタッフに対する支援にも力を入れているのが当院の特長といえます。

札幌医科大 スノーフェスティバル

職員手作りで行うスノーフェスティバルの写真:札幌医科大学附属病院より提供

札幌医科大学附属病院は、患者さん本位の優しい安心安全な医療をしていると自負しています。私たちを信頼して、安心して受診していただきたいです。

当院では、地域の病院・医院との連携を密にしています。2016年4月〜2017年3月までの1年間の紹介率(地域医療機関や他院から紹介されて来院した患者さんの割合)は77%、逆紹介率(急性期医療の終了後、札幌医科大学附属病院から地域医療機関へ紹介した患者さんの割合)は69%と高く、今後さらに地域の病院との連携を強くしたいと考えています。

今後も道民に密着した、道民に寄り添う医療を提供し、最後には札幌医科大学附属病院に行けばなんとかしてくれるという「ラストホープ」のような存在でありたいと考えています。私たちは、これからも道民のみなさまの健康維持・増進のため、職員一丸となって取り組んでまいります。

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