大阪掖済会病院は、113年の長きにわたり地域の医療を支え続けてきた歴史ある病院です(2026年時点)。2026年4月からは手外科・外傷マイクロサージャリーセンターを中心とした専門的な診療体制を構築し、指や手足の切断、重度外傷、四肢再建といった緊急性の高い治療から日常的な手の不調まで柔軟に対応。大阪府内にとどまらず、近畿各地の医療機関や救命救急センターから患者さんの紹介を受けています。
同院の院長である五谷 寛之先生に、同院が果たすべき役割や、安全性を追求した手術体制、そして地域医療への思いについて詳しくお話を伺いました。
当院の運営する法人である日本海員掖済会は145年以上という非常に長い歴史を誇る組織であり、私たち大阪掖済会病院も113年の歩みを重ねてきました。当院が立つ地にはかつて外国人居留地が存在し、洋館が立ち並んでいたという歴史を持っています。
港湾の発展と共に歩んできた当院ですが、時代の変化に伴って大阪の中心的な地域の1つとなり、周囲には大規模な急性期病院が次々と誕生しました。
近年、より効率的な地域医療が求められるなか、近隣の医療機関との機能分担を進め、当院は病院としての機能を整理することにしました。その結果、2026年4月からは地域の医療環境の変化を踏まえ、病院の機能を整理しながら、整形外科や手外科・外傷マイクロサージャリーセンターを中核とする体制づくりを進めています。
私は2026年4月に院長へ就任いたしましたが、それ以前の上席副院長、特命院長時代から病院の運営に深く関わってきました。
したがって、4月から組織を急に作り変えたわけではありません。従来から私たちが築き上げてきた強みを、さらに大きく伸ばしていくための自然な流れであると捉えています。
近隣の日本生命病院や住友病院、多根病院、大野記念病院や大阪市立総合医療センターといった医療機関とも良好な関係を築いており、内科的な病気への対応を含めて密接な連携をしながら、地域全体で患者さんを支える環境を整えています。
当院の大きな特徴であるマイクロサージャリーとは、手術用顕微鏡を覗きながら、非常に細い血管や神経を特殊な糸と針でつなぎ合わせる技術です。工場などでの事故による指や手足の切断、大きな事故による重度外傷、さらには失われた機能を回復させる四肢再建や組織移植において、この技術は欠かせません。
当院には日本手外科学会が認定した手外科指導医・専門医、日本整形外科学会が認定した整形外科専門医(以下、整形外科専門医はこれを指す)が5名在籍しており(2026年5月時点)、中河内救命センター、千里救命救急センターなどの三次救急施設から緊急の搬送要請が日常的に届きます。救急隊や地域の救命救急センターとの間には非常に強固な連携が確立されており、当院で緊急の受け入れを積極的に行っている状況です。患者さんがお越しになるエリアは大阪府全域にとどまらず、奈良や和歌山、兵庫、京都といった近畿各地の広範な地域からいらっしゃっています。
私自身、長年にわたり手外科やマイクロサージャリー、再建医療の現場に身を置き、情熱を注いできました。昨年(2025年)までは日本マイクロサージャリー学会の理事長を務め、現在はアジア太平洋再建マイクロサージャリー学会(APFSRM)の事務総長を務めています。
近畿の手の研究会などを通じて他大学の先生方とも深く結びついており、今後も近畿周辺で手の外科を行う先生方とお互いに助け合いながら、この医療を必要とされる方に安心していただけるよう、技術の進化に貢献したいと思っています。
重度な四肢のけがの搬送が多い、というお話をしますと、一般の方々からは、大けがをした人しか行ってはいけない病院なのだろうかと誤解されてしまうことがあります。しかし、決してそのようなことはありません。私たちは日常生活の中で誰もが直面する可能性のある、身近な手の不調なども真摯に対応しています。
実際、外来にお越しになる患者さんの症状は実に多様です。手のしびれや指の痛み、あるいは一般的な腱鞘炎やばね指、手根管症候群、変形性関節症といった病気に悩む方々がたくさん当院にいらっしゃっています。さらに現在は、高齢化に伴う骨粗鬆症が原因で起こる骨折の治療にも力を尽くしています。
近年増えているのが、中高年の女性に多くみられる手の不調、メノポハンドです。これは閉経後の女性が女性ホルモンの低下により手指の痛みやしびれなどを起こすもので、生活の質を大きく低下させる要因となるものです。
このような不調に対し、私たちは薬物療法やリハビリテーションといった保存療法から必要に応じた手術療法まで、選択肢を適切に組み合わせてその方に合ったアプローチを提案しています。
手の痛みや違和感というものは、日常生活のあらゆる動作に支障をきたし、大きなストレスを生むものです。少しでも気になる症状があれば、どうか我慢をなさらずに、お気軽に私たちの外来へ足を運んでください。
当院が頑なに守り続けているのが、手術における安全制を徹底的に重視した体制です。たとえ局所麻酔で行うような短時間の小さな手術であっても、あるいは骨に入った釘やネジを抜くだけといったシンプルな内容であっても、執刀医が1人だけで手術室に向かうこと基本的にありません。当院の整形外科医は全員が専門医の資格を有しており、どのような手術であっても2人以上の医師が立ち会うようにしてます。
さらに、看護師の配置についても直接介助と外回りを合わせ、最低4人のチームを組織しています(2026年5月時点)。周囲からは人手の面でコストがかかりすぎているのではないかと指摘されることもありますが、医療事故を極力防ぎ、患者さんの安心を担保するためには、この一線を崩すわけにはいかないという強い信念を抱いています。
麻酔の方法についても、患者さんの心身の負担やご要望に細やかに耳を傾ける方針です。全身麻酔をはじめ、神経の伝達をブロックする伝達麻酔、局所麻酔に至るまで、病態や患者さんのご希望に応じて柔軟に選択できる体制を整えています。
こうした確かな診療環境をもとに、近年は国内はもとより、海外の人材の教育にも力を入れています。当院は外国人修練医の受け入れ指定病院となっており、タイを中心にベトナムやアフガニスタンなどからこの10年間で3か月以上の長期研修生を20人以上、短期も含めると50人ほどの留学生を受け入れてきました。彼らは当院で学び、実際に執刀を行うことができる資格を取得していきます。国内外の若い医師たちへの教育と培ってきた技術の継承は、当院が持つ重要な社会的責任であると考えています。
日々の診療や手術を支える設備についても、私たちは独自の工夫を凝らして環境を整えています。手術用顕微鏡に関しては、世界最高倍率を誇る三鷹光器の手術用顕微鏡をはじめ4台の顕微鏡を導入しています。これも、当院の強みの1つです。
さらに、3D技術を搭載した顕微鏡の活用にも取り組んでいます。これは偏光グラスを着用してモニターを見ながら手術を行うもので、顕微鏡を覗き込むために無理な姿勢を取り続ける必要がありません。首や腰への負担を大きく軽減できるため、医師の健康を守り、結果として長時間の細密な手術を安定して行うことにつながっています。
私は実際の臨床現場にて、3Dプリンターを用いた術前シミュレーションを以前から導入してきました。シミュレーションでは、手術前に患者さんの骨の立体モデルを作成し、どのようにアプローチするかを詳細に計画することで、実際の治療をより確実なものにします。
さらに、以前は国の研究費を受け、工学系の研究者とともにマイクロサージャリー用の手術ロボットの開発もしました。今は糸と針で血管を縫う方法に代わる方法があるのではないかと、新たな研究をしています。
また手指の骨を延長することを可能にする創外固定器を用いた手術も積極的に行なっており、事故により短縮した手指の長さを伸ばしたり、ただまっすぐ伸ばすだけでなく最終的にカーブをつけて使いやすくしたり、足趾の移植と組み合わせて機能と整容にすぐれた手指の再建にも力を注いでいます。
このような開発への意欲の背景には、よりよい治療を追求し続ける思いがあります。私自身、フランスへ2年間留学し、解剖学をはじめとする研究に取り組んできました。そうした海外での交流や学術的な積み重ねが、新しい技術の開発につながったと感じています。
繰り返しとなりますが、当院は決して救急車で運ばれてくるような大けがをされた方だけを迎える場所ではありません。指先の小さな痛みや、朝起きたときのしびれといった、誰もが抱える日常的な手の不調に対しても、私たちはまったく同じ情熱を持って向き合っています。
また、地域の開業医の先生方や近隣の総合病院の先生方から当院の医師が直接つながるホットラインを整備し、患者さんを受け入れられる体制を維持しています。内科的な病気などの合併症がある場合でも、周囲の素晴らしい医療機関や当院の常勤・非常勤医師が、がっちりとスクラムを組んで対応しますので、どうぞご安心ください。
手の機能というものは、人が人間らしく豊かな生活を送るために、なくてはならない大切なものです。私たちは、皆さんが笑顔で健やかな毎日を取り戻せるよう、スタッフ一丸となって全力でサポートいたします。手の痛みやしびれ、けがなどでお困りの際は、1人で悩まずご相談ください。
様々な学会と連携し、日々の診療・研究に役立つ医師向けウェビナーを定期配信しています。
情報アップデートの場としてぜひご視聴ください。