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トリガーポイントとは?原因不明の痛みの大半はトリガーポイントにある

    • インタビュー
    • 公開日:2015/09/05
    • 更新日:2017/01/11
    トリガーポイントとは?原因不明の痛みの大半はトリガーポイントにある

    痛みの原因を究明するうえで、「トリガーポイント」というキーワードは非常に重要なものです。トリガーポイントとは何を指し、どのように成り立っているのでしょうか。また「ツボ」との違いはどこにあるのでしょうか。トリガーポイントの専門家である、木村ペインクリニックの木村裕明先生にうかがいました。

    トリガーポイントとは何か?

    トリガーポイントは、最新の定義では「過敏化した侵害受容器」といわれています。正常な組織を損傷するか、損傷する恐れのある刺激(=侵害刺激)に反応する受容器が、過敏になった状態のことです。トリガーポイントは、関連痛や知覚過敏(しびれ)・違和感といった症状のほかに、感覚鈍麻・発汗・めまいなどの自律神経症状を引き起こすこともあります。

    このトリガーポイントによる痛みやその他の症状を引き起こす症候群を、筋膜性疼痛症候群(Myofascial Pain Syndrome, MPS)と呼びます。日本ではまだ筋膜性疼痛症候群という病気自体はあまり知られておらず、「筋痛症」とも呼ばれることがあります。
    (参考:白石吉彦先生記事「筋膜性疼痛症候群とは―原因が分からなかった痛みの正体」)

    トリガーポイントの好発(よく発生する)部位は、筋肉が骨に付着する部分、筋肉と筋肉が連結する部分、筋腱移行部、また力学的にストレスのかかりやすい場所などです。そして、その多くは筋膜に存在します。最近では、特に重積した(厚くなっている)筋膜にあることがわかってきました。またトリガーポイントは筋膜以外に、腱・靭帯・脂肪などの結合組織=Fascia(ファシア)にも存在します。

    トリガーポイントの歴史的背景

    約5300年前の人類最古の冷凍ミイラとして知られている「アイスマン」の背部や下肢には、刺青の跡があります。その位置は現代でいう「ツボ(経穴)」に一致しており、経穴治療をした痕であると推測されています。その後、古代中国でも鍼を用いて皮膚・筋肉を刺激する治療が3000年以上前に開始されました。

    西洋でも、筋肉から生じる関連痛は、1938年に John Kellgren (イギリス)によって報告されており、1988年にはアメリカ合衆国元大統領ジョン・F・ケネディの主治医、Janet G.Travell と共同研究者の医師であるDavid G.Simons が、筋膜性疼痛症候群(Myofascial Pain Syndrome; MPS)の概念を書籍(Travell JG, Simons DG ; 1983)で次のように提唱しました。

    Myofascial Pain Syndrome:トリガーポイント(Trigger Point)によって引き起こされる知覚症状、運動症状および自律神経症状(を呈する症候群)。

    しかし我が国の医学教育では、痛みの発生源として筋膜が想定されていません。結果的に、必要のない手術や過剰な内服薬(痛み止め、抗不安薬、抗うつ薬など)投与が数多く行われています。これらを是正することは、患者の利益になることはもちろん、医療費の適正な使用にも結びつきます。

    トリガーポイントが最注目された理由、エコーの進化

    エコーガイド下筋膜リリースを行う木村先生

    最近まで、トリガーポイント治療の効果は一定ではありませんでした。この原因は、医師が患者の訴える関連痛の部位だけに注射していることが多いためでした。本来は、患者が自覚しにくく症状の原因となっているトリガーポイント(active Trigger Point)に治療しなければなりません。また注射をする深さも、注射の感触、患者のヒビキ(反応)などに頼っていたため正確ではありませんでした。

    しかし、4~5年前から運動器エコーの進歩によって画像がより精密になり、トリガーポイントが存在することが多い筋膜の重積が鮮明に見えるようになりました。また、生理食塩水を使って筋膜をリリースする方法が非常に効果的であるという事実が、臨床医の間で広まりました。さらに、MPS研究会でも積極的に啓蒙活同をしています。これらの理由によって、トリガーポイントの治療を積極的に取り入れる医師が増えました。

    エコーを使うことによって、専門医でなくとも臨床で遭遇することが非常に多い痛みの治療が、安全・確実に行えるようになったのです。

    トリガーポイントが生じる理由、なぜできるのか?

    トリガーポイントが形成される要因は、主に「不動」と「使いすぎ」と考えられています。長時間同じ姿勢を維持したまま動かさないこと、あるいは同じ筋肉を酷使すること(オーバーロード)によって筋肉に微小な損傷や炎症が起こり、筋膜に癒着が起きます。そこにトリガーポイントが生じるのではないかと考えられます。

    その他にも様々な原因があるともいわれていますが、正確にはわかっていません。ただ、加齢によって体全体の水分が減ることで筋膜は癒着しやすくなります。経験的には、40歳からトリガーポイントができやすくなると考えています。栄養状態や糖質の過剰摂取も筋膜の癒着に関連がある可能性が報告されています。

    トリガーポイントとツボ、違いは?

    トリガーポイントとツボ(経穴)は、約8割が一致していると言われています。トリガーポイントができやすいところを、先人が「ツボ」=経穴として治療したものでしょう。ここ数年、鍼治療においてもエコーを利用する先生が増えています。鍼治療もエコーを使用することによって急速に進歩していくと思われます。

    トリガーポイントを放置していると「関連痛」を引き起こすことも

    トリガーポイントは関連痛と呼ばれる痛みをひきおこすことがあります。どうしてこの関連痛が発生するのか、いくつか仮説はありますが詳しいメカニズムはまだ正確には解明されていません。

    関連痛と痛みの原因であるトリガーポイントが一緒であれば、マッサージなどで治療することが可能です。しかしこの関連痛は、トリガーポイントとなる場所と同じ場所に出るとは限りません。実際のトリガーポイントと痛みを感じる部分が離れていると考えられえる場合には、関連痛パターンを参考にしてトリガーポイントを判別します。

    トリガーポイントは放置すると症状の連鎖を引き起こすことがあります。筋膜の緊張状態が長引いて新しいトリガーポイントが生まれると、症状が複雑化する原因となります。症状の悪化を防ぐためにも、トリガーポイントは早い段階で治療する必要があります。

    • トリガーポイントの診断治療手順など、さらに詳しく知りたい方はこちらをどうぞ

    関連痛とは?痛みの原因となるトリガーポイントは異なる場合が多い

     

    トリガーポイントは注射で治療する

    トリガーポイントに生理食塩水を注入する治療

    トリガーポイントの治療方法には、健康保険が適応されるものとそうでないものがあります。健康保険が適応されるものは局所神経ブロック概念のもと、1994年に「圧痛点(圧迫したときに痛む点)に局所麻酔剤あるいは局所麻酔剤を主剤とする薬剤を注射する手技」という定義のもとで認可されました。

    これは「患者に痛みの一番強い部位を指先で示してもらい、施術者が同部を指で圧迫して索状硬結(Taut band:TB)として触れる過敏点を確認し、同部位に注射する」とされています。トリガーポイントと関連痛が離れている場合、この方法では十分な効果を期待することは難しいとされています。

    トリガーポイント注射は、痛みの緩和という従来の治療目的のほかに、筋肉を酷使するスポーツ選手にも一定の効果を確認できる方法として認識されるようになってきました。ウェイトトレーニングなどの負荷が原因となって生じた筋膜の癒着をトリガーポイント注射によって改善することで、パフォーマンスの維持や向上を期待できるうえ、局所麻酔不要というメリットがあるため、筋肉を酷使するスポーツをする人たちの間での知名度が上昇するといわれています。

    • トリガーポイントと関係の深い「神経ブロック」について、さらに詳しく知りたい方はこちらをどうぞ

    トリガーポイントの注射。生理食塩水の注入が効果的

     

    トリガーポイントの第一人者、木村裕明先生が考えるトリガーポイントの意義や注意点とは?

    日々多くの患者さんの痛みと向き合い、治療する木村先生

    トリガーポイントは、放置をすれば新しいトリガーポイントを発生させる原因にもなるため、トリガーポイントは早期の解消が必要とされています。「不動(動かさなすぎ)」と「使いすぎ」がトリガーポイントの原因と考えられています。

    治療にはトリガーポイント注射を行う以外にも、患者さんに対して「認知行動療法」を行う必要があると考えています。トリガーポイントは再発することもあります。患者さんにも痛みの原因が筋膜にあることを知ってもらい、日常の行動に変化を与えるようにすることができれば、患者さんが自分自身で痛みの状態をチェック・改善することができるようになるのではないのでしょうか。

    筋膜リリースを行うとき患者さんにもモニターを確認してもらうことで、痛みが改善される感覚を体感すると同時に、痛みの原因が筋膜にあることを理解していただきやすくなります。そして、痛みの再発を防ぐためにも日常生活のなかに取り入れてもらうよう指導します。

    トリガーポイント治療の注意点

    痛みの改善のためトリガーポイント治療を受ける方のうち約90%の患者さんに症状の改善が認められます。しかし、治療を受けたすべての患者さんに対して効果があるというわけではありません。とくに特定の薬を服用していることが痛みの原因と考えられる時には、この薬の服用量を減らす、もしくは服用をストップしていただきます。

    また、2~4週間治療をしても効果がみられないときには、ほかの原因が考えられますので、MRIなどによる検査を実施します。

    • トリガーポイントの注意点など、さらに詳しく知りたい方はこちらをどうぞ

    トリガーポイントの治療、認知行動療法につなげて痛みをなくす

     

    記事1:トリガーポイントとは?原因不明の痛みの大半はトリガーポイントにある
    記事2:関連痛とは? 痛みの場所と原因となるトリガーポイントは異なる場合が多い
    記事3:トリガーポイントへの注射。生理食塩水の注入が効果的
    記事4:トリガーポイントの治療。認知行動療法につなげ痛みをなくす
    記事5:筋膜に着目したことが原点。筋膜間ブロック(スキマブロック)からスタートした筋膜性疼痛症候群の新しい治療
    記事6:生理食塩水で筋膜をはがす、リスクの少ない新たな治療法
    記事7:筋膜リリースの普及―生理食塩水によるエコーガイド下筋膜リリースが痛みをなくす
    記事8:靭帯や腱などの結合組織(Fascia)への治療も効果的。筋膜リリースからFasciaリリースに注目が高まる
    記事9:Fasciaリリースの応用―坐骨神経痛様の下肢痛の治療

    木村 裕明

    木村 裕明先生

    木村ペインクリニック

    ペインクリニックを開業して20年、痛み治療の名人として多くの患者に支持され、MPSの新しい治療法である、筋膜間ブロック(スキマブロック)、生理食塩水を用いた筋膜間注入法、エコーガイド下筋膜リリース等の治療法を考案。
    2009年より筋膜性疼痛症候群(MPS)研究会の会長に就任、研究会の会員は急速に増えており、2015年現在600名を超える。年2回の学術集会と会員専用掲示板(各種治療手技の動画や症例検討など、2年間の運用で書き込み数1万以上)で、MPSの治療法や診断について活発に議論を行い、また各地での講演活動等、精力的なMPSの啓発活動も行っている。

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