トリガーポイントは、「関連痛」を引き起こすことがあります。つまり、「痛みの原因となる部分」と「患者さんが実際に痛みを感じている部分」が異なるのです。これはどのような仕組みで起こり、また診断はどのように行われるのでしょうか。引き続き、木村ペインクリニックの木村裕明先生にうかがいました。
関連痛のメカニズムとしては、「収束―投射説」や「サイレント・シナプス説」などが提唱されていますが、まだ正確にはわかっていません。筋膜の連鎖も関連していると考えています。
トリガーポイントによる関連痛は、非常に重要な問題です。なかなか改善しない痛みの場合、この関連痛とトリガーポイントが離れているケースが多く見られます。関連痛とトリガーポイントが一致している場合は、患者さん自身でマッサージをしたりして治ってしまうこともありますし、治療するとしても簡単です。
問題は、トリガーポイントと関連痛が離れている場合です。患者さんが訴える痛みの場所と原因となるトリガーポイントが離れています。患者さんの訴えを聞いても、そのポイントは分かりません。では、この親玉のトリガーポイントをどうやって見つければよいのでしょうか。
まず、「関連痛パターン」というものがあります。ここには、関連痛とトリガーポイントのよくある関係が図示されています。そのほかに、私の所属しているMPS研究会では、動作分析によって罹患筋(痛みの原因のある筋肉)を診断する方法が研究されています。罹患筋がわかれば、その中にあるトリガーポイントの治療はそれほど難しくありません。
トリガーポイントは、症状の連鎖を引き起こす点にも特徴があります。トリガーポイントを治療せずに放置すると、筋膜が連続しているその他の部分にも緊張が生じて新たなトリガーポイントを生み、症状を複雑にし、長引かせることがあります。この連鎖を防ぐために、早期にトリガーポイントの治療を行うことが重要なのです。
このほかに重要なことは、トリガーポイントによるものでない「本物の神経痛」を除外することです。本物の神経障害は、日内変動(一日のうちに症状が変動すること)がなく、姿勢や動作によって痛みの程度が変わりません。また必ず神経の機能低下が持続的に見られます。神経の機能低下とは、運動神経の機能低下による麻痺、感覚神経の低下による知覚低下などです。
時間によって痛かったり改善したり、また、前述の機能障害をともなわない痛みは、本物の神経痛ではなく関連痛である可能性が高いと思われます。世間には、このようないわば「なんちゃって神経痛」が多くみられます。具体的には、以下のものです。
記事1:トリガーポイントとは?―原因不明の痛みの大半はトリガーポイントにある
記事2:関連痛とは? 痛みの場所と原因となるトリガーポイントは異なる場合が多い
記事3:トリガーポイントへの注射。生理食塩水の注入が効果的
記事4:トリガーポイントの治療。認知行動療法につなげ痛みをなくす
記事5:筋膜に着目したことが原点。筋膜間ブロック(スキマブロック)からスタートした筋膜性疼痛症候群の新しい治療
記事6:生理食塩水で筋膜をはがす、リスクの少ない新たな治療法
記事7:筋膜リリースの普及―生理食塩水によるエコーガイド下筋膜リリースが痛みをなくす
記事8:靭帯や腱などの結合組織(Fascia)への治療も効果的。筋膜リリースからFasciaリリースに注目が高まる
木村ペインクリニック 院長
木村ペインクリニック 院長
日本ペインクリニック学会 ペインクリニック専門医日本麻酔科学会 麻酔科認定医
ペインクリニックを開業して20年、痛み治療の名人として多くの患者に支持され、MPSの新しい治療法である、筋膜間ブロック(スキマブロック)、生理食塩水を用いた筋膜間注入法、エコーガイド下筋膜リリース等の治療法を考案。2009年より筋膜性疼痛症候群(MPS)研究会の会長に就任、研究会の会員は急速に増えており、2015年現在600名を超える。年2回の学術集会と会員専用掲示板(各種治療手技の動画や症例検討など、2年間の運用で書き込み数1万以上)で、MPSの治療法や診断について活発に議論を行い、また各地での講演活動等、精力的なMPSの啓発活動も行っている。
木村 裕明 先生の所属医療機関
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。