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インタビュー

公開日 : 2015 年 09 月 09 日
更新日 : 2017 年 05 月 08 日

筋膜リリースの普及―生理食塩水によるエコーガイド下筋膜リリースが痛みをなくす

木村ペインクリニック
木村 裕明先生

木村裕明先生が考案された、生理食塩水を用いた「エコーガイド下筋膜リリース」という方法は、急速に広まりつつあります。それに加えて木村先生はMPS(筋膜性疼痛症候群)という病気の概念がさらに広く知られていくべきだという考えをお持ちになっています。そこにはどのような意義があるのでしょうか。引き続き、木村先生にお話を伺いました。

急速に広まりつつあるエコーガイド下筋膜リリース

2014年から2015年にかけて、「生理食塩水で筋膜をはがす、リスクの少ない新たな治療法」でご説明した生理食塩水を用いたエコーガイド下筋膜リリースが急速に広まっています。

この要因は、MPS研究会会員の精力的な活動もさることながら、雑誌『THE整形内科』の編者でもある隠岐の島島前病院・院長である白石吉彦先生(白石先生プロフィール)や、実質的な運動器エコーの教科書である「超音波でわかる運動器疾患」の著者である皆川洋至先生らが、全国各地の学会や運動器エコーの講習会などで、ことあるごとにこの手技を紹介してくださっていることなどが考えられます。

また、2015年5月号の雑誌『THE整形内科』にも「エコーガイド下筋膜リリース」の記事が掲載されました。この本の中で、山梨市立牧丘病院院長である古屋聡先生は次のように書いてくださいました。
「生理食塩水によるエコーガイド下筋膜リリースは、究極に安全な手技であって、在宅医療における運動器診療に革命をもたらしつつある」。

まさに疼痛治療の革命が進行中ということが言えると思います。

参考:三角筋 上腕二頭筋短頭 筋膜リリースの動画

筋膜リリースによって認知と行動を変える

最近、長引く腰痛などの慢性の痛みの原因が脳の異常にあり、その治療法として認知行動療法が効果的であると言われています。また、必要以上に腰痛を恐れる必要がないとも言われています。

認知行動療法というのは、一般的には認知に働きかけて気持ちを楽にする精神療法(心理療法)の一種です。そして認知というのは、ものの受け取り方や考え方という意味です。もちろん最終的に痛みを感じるのは脳であり、認知行動療法も効果的な場合があります。しかし、最も頻度の多いFascia(靭帯や腱などの結合組織)の異常による痛みが、医療者の間でもまだまだ知られていません。

「ヘルニアが神経を圧迫している」
「脊椎間狭窄症によって神経が圧迫されている」
「手術しても痛みがとれるかどうかは、わからない」
「今は、手術するほどでもありません」
「いずれ歩けなくなるかもしれません」

このようなネガティブな言葉を聞いて、不安や恐怖を感じない人はいません。結果として必要以上に安静にしたり、行動を制限する人が多く見られます。

レントゲン写真、MRIなどの従来の画像所見と痛みが関連しないことは、すでに多くの研究で証明されています。手術は上手くいったが痛みのとれない患者が多かったので、今度はすべて脳のせいということになっているのです。「ちょっと待ってください、Fasciaによる痛みを忘れていませんか?」と言いたいところです。

最近、慢性痛において、脳の機能障害の原因が末梢にあるという論文が増えています。慢性痛でもやはり末梢に原因があるということは決して稀ではありません。臨床においても、半年も何年も続いた慢性の痛みが、ほんの小さな筋膜の重積をリリースすることによって劇的に改善することを、少なからず経験します。MPS研究会でも同様の報告があります。

加えて、もうひとつ重大な問題があります。慢性痛の原因がすべて脳の機能障害であるとした場合、認知行動療法でうまくいかなかったケースでは、薬物乱用につながる危険性が非常にあります。私の外来にくる患者さんでも、たんなるMPSにもかかわらず、鎮痛薬の他に抗不安薬、抗うつ薬、麻薬性鎮痛薬などが併用されていている例が、かなり多く見られます。

これらの薬物を併用することによって、高率にめまいやふらつき等の副作用が生じます。さらに、物忘れの悪化や、ふらつきによる転倒からの骨折などの例も見られます。 ですから私たちは、MPSに対する適切な局所治療と、そこから始める認知行動療法を薦めています。このような状況を考えると、MPSという病気の概念をもっと普及させる必要があると考えられるのです。