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生理食塩水で筋膜をはがす、リスクの少ない新たな治療法

    • インタビュー
    • 公開日:2015/09/08
    • 更新日:2017/01/11
    生理食塩水で筋膜をはがす、リスクの少ない新たな治療法

    木村裕明先生は、原因不明とされることの多い筋膜性疼痛症候群の痛みに対して、「エコーガイド下筋膜リリース」などの新しい治療を行っています。現在の治療法に辿り着かれた過程について、前回の記事「筋膜に着目したことが原点。筋膜間ブロックからスタートした筋膜性疼痛症候群の治療」に引き続きお話をうかがいました。

    生理食塩水への着目

    画期的なアイデアは、試行錯誤の末に誕生するのではなく、偶然や閃きによることが多いようです。
    私にも、そのような幸運が訪れました。2012年5月のことです。当院の師長はときどき緊張型頭痛を起こし、僧帽筋と肩甲挙筋のスキマ(筋膜間)に局所麻酔薬を注入すると効くことが、わかっていました。

    なぜか生理食塩水(塩化ナトリウムを0.9w/v%含有する食塩水)が効く予感がしたので、動画を撮りながらスキマに注入しました。注入時に側頸部から頭部に関連痛が生じました。そしてその直後に頭痛が消失しました。予感はしていたのですが、あまりに劇的な効果に、私も師長も非常に驚きました。

    そこで、いろいろな筋肉のスキマに局所麻酔薬の代わりに生理食塩水を注入することにしました。もちろん非常に有効でした。また、今まで治療しにくかった神経の近くも治療できるようになりました。局所麻酔薬を使わないため、合併症の可能性もほとんどありません。

    そこで文献を調べてみると、筋膜間注入ではないのですが、一般的なトリガーポイント注射で生理食塩水が有効であったとする報告が、なんと1955年・1956年にありました。また1980年には、Lancetという有名な医学雑誌に、生理食塩水と局所麻酔薬の比較試験で「生理食塩水群の方が明らかに優位に鎮痛効果をもたらした。生理食塩水は安全でより効果の高い局所注射材と示唆される」と報告されています。この論文のことを、いろいろな先生にたずねてみましたが、誰も知りません。このような重要な論文が、歴史の彼方に消え去っていたのです。

    2013年には、この生理食塩水による筋膜間注入法に関する研究を行いました。現在、論文提出中です。

    生理食塩水の注入、エコーガイド下によってさらなる進化を遂げる

    2011年11月、第8回MPS研究会学術集会にて画期的な発表がありました。エコーガイド下にトリガーポイント注射をする場合に、トリガーポイントがエコー上白くみえる筋膜上にある可能性が示唆されたのです(超音波装置によるMPSの病態考察)。今まで、患者さんのヒビキや針先の感触に頼っていたトリガーポイントが見えるようになったのです。トリガーポイントの可視化という意味で非常に重要な出来事でした。

    その後、エコー上白くみえる筋膜で特に厚くなっている部分に、トリガーポイントが高率で存在することがわかってきました。厚くなっている部分は、薄い筋膜が重なっているように見えます。そこで「筋膜の重積」という言葉を使うようになりました。

    2013年より私もエコーを使い始めました。当初は、画像に写っているものがほとんど分からず、あまり使用しませんでしたが、運動器エコーの教科書などを勉強して、とにかくエコーを当ててみるようにしたところ、徐々に見えるようになってきました。今ではほとんどの患者さんにエコーを使用しています。

    2014年7月には面白い現象がみられました。大腿筋膜張筋に生理食塩水を注入している時のことです。針先を微妙にずらして注入すると、エコー上、白く厚くなっている筋膜が、薄紙を剥がすようにバラバラとなっていく様子が見られたのです。これは非常に興味深い現象で、新たな方法の発見となりました。
    この方法によって、注射直後より著明な鎮痛効果があっただけでなく、軟部組織の柔軟性改善(筋膜の滑走性の改善)もみられました。そこで、これを「(生理食塩水による)エコーガイド下筋膜リリース」と名付けました。この方法を用いることによって、いろいろな部位を治療できるようになったのです。

    この年の11月に、これらの手技をまとめたものを「群馬ペインクリニック懇話会」という研究会で発表しました。エコーで記録した動画の説得力は圧倒的で、非常に多くの先生に興味を持っていただきました。大学時に師事した名誉教授にも大変お褒めいただき、非常に嬉しく思いました。

    参考:ドケルバン病の治療 伸筋支帯の筋膜リリースのエコー画像

    記事1:トリガーポイントとは?―原因不明の痛みの大半はトリガーポイントにある
    記事2:関連痛とは? 痛みの場所と原因となるトリガーポイントは異なる場合が多い
    記事3:トリガーポイントへの注射。生理食塩水の注入が効果的
    記事4:トリガーポイントの治療。認知行動療法につなげ痛みをなくす
    記事5:筋膜に着目したことが原点。筋膜間ブロック(スキマブロック)からスタートした筋膜性疼痛症候群の新しい治療
    記事6:生理食塩水で筋膜をはがす、リスクの少ない新たな治療法
    記事7:筋膜リリースの普及―生理食塩水によるエコーガイド下筋膜リリースが痛みをなくす
    記事8:靭帯や腱などの結合組織(Fascia)への治療も効果的。筋膜リリースからFasciaリリースに注目が高まる

    木村 裕明

    木村 裕明先生

    木村ペインクリニック

    ペインクリニックを開業して20年、痛み治療の名人として多くの患者に支持され、MPSの新しい治療法である、筋膜間ブロック(スキマブロック)、生理食塩水を用いた筋膜間注入法、エコーガイド下筋膜リリース等の治療法を考案。
    2009年より筋膜性疼痛症候群(MPS)研究会の会長に就任、研究会の会員は急速に増えており、2015年現在600名を超える。年2回の学術集会と会員専用掲示板(各種治療手技の動画や症例検討など、2年間の運用で書き込み数1万以上)で、MPSの治療法や診断について活発に議論を行い、また各地での講演活動等、精力的なMPSの啓発活動も行っている。

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