三井記念病院 整形外科 部長の星地 亜都司(せいち あつし)先生は、整形外科手術領域のコンピュータ支援手術のパイオニアであり、臨床研究などに携わってこられました。コンピュータ支援手術は非常に有用である一方、ますます医者の技術が求められると星地先生はおっしゃっています。コンピュータ支援手術とはなにか、メリット・デメリットについてお話しいただきます。
コンピュータ支援手術では、手術前に撮影した患者さんの患部のCTスキャンデータをコンピュータに取り込み、3D化します。その3Dモデルデータで正確な手術のシミュレーションを行い、その結果を用いた手術を行うものです。後述しますが、すべり症や関節リウマチによる頸椎や腰椎のずれを修正し固定するためには、スクリューとよばれる金属片を骨に埋め込みます。(記事3「頸椎の手術とコンピューター支援手術」)
首や腰の骨の付近には重要な血管や神経系がはりめぐらされているため、そのスクリューが血管や神経を傷つけないよう、正確に骨に挿入することが求められます。コンピュータ支援手術では、患者さんの患部の3Dモデルデータから、スクリューの挿入の方向や角度、深さなどを解析し、シミュレーションを行うことができます。これまでは手術者の経験や勘だけが頼りであった手術に、データによる裏付けが加わり、さらに安全性の高い手術が行えるようになりました。
コンピュータ支援手術では、手術者の経験や勘が頼りであった手術に裏付けが加わったということを、前項で述べました。手術中に正確な位置にスクリューが挿入されているかを確認できることに加え、手術前に本番の手術の計画をつくり、事前に練習できるということも非常に大きなメリットです。事前に練習をしておくことで、当日やるべきことを迷わずに行うことができます。
一方、デメリットもあります。それは医者がコンピュータを信用しすぎてしまうことで起こります。コンピュータといえども万能ではありません。故障が起こる危険性もあります。コンピュータを信用しすぎるあまり、故障や「何かおかしいぞ」という異変に気づかずに手術を継続することは非常に危険です。コンピュータ支援手術は、「支援」という言葉が入っているとおり、あくまで医者の技術を支援してくれるものなのです。この手術は、コンピュータの支援がなくとも手術を行える技術をもった医者が行うことで有用となるのではないでしょうか。
コンピュータ支援手術はもともと脳神経外科手術の分野で活躍してきました。それが、頸椎や腰椎などの整形外科手術の分野にも発展し用いられるようになりました。徐々に広まりつつあるものの、コンピュータ支援手術が受けられる施設はそれほど多くありません。しかし今後さらなる安全性の高い手術が求められ、それに伴って施設数が増えていくのではないでしょうか。
社会福祉法人三井記念病院 副院長/整形外科部長
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