前の記事「脊椎分離症の手術-こどもに多い分離症とその手術について」では脊椎分離症のコンピュータ支援手術についてご説明しました。すべり症も同じくコンピュータ支援手術を用いる疾患のひとつです。また脊椎分離症やすべり症の治療には、金属片での固定のほかに除圧や薬物治療などがあります。本記事では、すべり症のコンピュータ支援手術について、さらに薬物治療のメリット・デメリットについて、三井記念病院 整形外科 部長の星地 亜都司(せいち あつし)先生にお話しいただきました。
「すべり症」は、椎骨が前後にずれている状態を指します。前項で述べた分離症に伴って起こるすべり症(分離すべり症)と、分離に伴わないもの(変性すべり症)とに分類されます。
椎間関節の分離によって脊椎の安定性が悪くなり、加齢によって椎間板が変性するなどして発症します。
椎間板の変性によるものが多く、腰部脊柱管狭窄症(「脊椎手術とは-症状と日常生活の不便さを考慮する」)の原因となっています。
脊柱管を通る神経がはさみこまれることで、足のしびれや間欠跛行(足のしびれや痛みで長時間歩くことができないこと)があらわれます。50代〜90代など、加齢により発症する可能性が高くなります。これまで述べてきたとおり、すべり症においても痛みやしびれによる患者さんの日常生活への影響やお困り度合い、画像による裏付けによって手術を検討します。間欠跛行では、「長時間歩かない」、「歩いたら休むを繰り返す」などの工夫をして手術をせずに生活されている方もいます。
しかし我慢を続けて神経の圧迫が進行すると、歩かなくてもしびれが起こったり、力が入らないなど重症化してしまうケースもあります。重症化してから手術を行っても、しびれや麻痺を完全に取り除くことが難しくなるため、我慢しすぎずに手術のタイミングについて医者と相談するとよいでしょう。
神経障害性疼痛という、神経が障害されることで起こる痛みがあります。近年、これに対する薬が発売され、使用される機会も増えてきています。しかし、薬を服用することで痛みは緩和できますが、神経の圧迫が治ることはありません。前項でも述べたように、薬で痛みを緩和しつづけ、いざ薬が効かなくなり手術となっても、すでに重症化してしまっているというケースも起こり得ます。患者さんの負担を考えると、医者も患者さんも手術ではなく薬物治療を選択したいと考えるでしょう。しかし薬物治療の潮時を適切に判断して、手術などほかの治療法を検討することも重要なのです。
すべり症の手術は、記事4「脊椎分離症の手術-こどもに多い分離症とその手術について」で述べた脊椎分離症と同様に、ぐらついて不安定な骨をスクリューで固定します。すべりが軽度の場合、圧迫している骨を削って神経の圧迫を改善する「除圧」という手術が選択される場合もあります。すべりや骨のぐらつきの程度で手術法を選択します。
すべり症の合併症、手術費用、術後の経過などは基本的に脊椎分離症と同様です。もっとも注意が必要な合併症は感染症で、ほかにもスクリューの挿入に伴う神経や血管の損傷があります。術後は、骨がくっついて安定するまでの約半年間はコルセットを装着し、腰に負担がかかる姿勢や運動は控えたほうがよいでしょう。
社会福祉法人三井記念病院 副院長/整形外科部長
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