インタビュー

PCI(Percutaneous Coronary Intervention)の治療リスクと予後

PCI(Percutaneous Coronary Intervention)の治療リスクと予後
岡部 輝雄 先生

岡部 輝雄 先生

この記事の最終更新は2016年04月15日です。

日本におけるPCIの治療技術は世界でももっとも進んでいます。しかし、どんな治療も完璧に安全ということはなく、ある程度のリスクは生じます。PCIの治療リスクについて国際医療福祉大学三田病院心臓血管センターの岡部輝雄先生にお話をうかがいます。

ただし、救急で運ばれる心筋梗塞で行うPCIを除いた待機的に行うPCI治療においては、下記のような例をすべて含めて命に関わるような重大な合併症が起こる確率は0.5~1パーセント未満と言われています。

<急性冠動脈閉塞>

治療のために風船で広げた血管が、急激に縮んでしまい閉塞した状態になることがあります。また、風船で病変を広げた際に動脈硬化層が破裂してドロドロになった脂が飛び出し、そこに血栓が湧いて急激に血管が詰まってしまうことも稀に起こる可能性があります。

<ステント血栓症>

血管にステントを留置した直後から、ステント内に血栓が湧いてくるケースがあります。これを急性ステント血栓症といいます。この急性ステント血栓症を防ぐために、事前に血液をサラサラにするヘパリンナトリウムという抗凝固剤と、バイアスピリンやクロピドグレル、エフィエントといった抗血小板剤を使用しますが、中には、薬剤の効果を凌駕して血栓形成が起こる場合もあります。

また、ステントを留置すると、数ヵ月後に再びステント内で組織が増殖して血管を狭くしてしまう、再狭窄現象というものがある程度の確率でおこります。それを防ぐために、現在多くのステント留置例では、ステントの表面に薬剤(免疫抑制剤)がコーティングされている薬剤溶出性ステント(DES/ドラッグエリューティングステント)を使用されています。しかし、その薬剤の効果により長期間にわたってステント金属が露出したままであることは、血栓形成につながる可能性も指摘されています。また、薬剤の放出をコントロールするために、ステントの表面にはポリマーがコーティングされています。このポリマーは薬剤溶出後も残存し、遠隔期に血栓形成に関与しているとも言われています。

<塞栓症や脳梗塞など>

カテーテルを穿刺部から冠動脈入口部まですすめる段階で、カテーテルの先端で動脈壁に付着した動脈硬化層の一部を傷つけてしまうと、破片となって遊離し末梢に飛んでいく可能性があります。もし、四肢末梢の細い血管を詰まらせてしまえば、指が壊死してしまうことがあります。同じ理由で、脳血管に動脈硬化層の一部が飛んで脳梗塞などを引き起こす可能性もゼロとは言えません。

ただし、一般論で言えば、このような重篤な合併症が起こる可能性は、0.5~1.0%未満と報告されております。しかし、大切なことはこのような合併症が起こる可能性がゼロではないということを、患者さんご本人は勿論のこと、ご家族様一人一人が十分に納得された上で、治療に臨まれることだと思います。

<ステント留置部位の再狭窄>

従来、2000年代初頭までのステントは単なる金属ステントであり、留置後ステント内に組織増殖が始まり、およそ治療6ヶ月後をピークに35~40パーセント程度のケースでステント内が再び狭くなってしまうということがありました。これを再狭窄現象といいます。即ち、再治療の必要の生じるケースが比較的多く見受けられていたのです。

しかし、DESが使用されるようになってからは、その溶出される免疫抑制剤の効果により、再狭窄率は9~12ヶ月後をピークに全体として5パーセント程度にまで減少したと報告されていました。しかし、DESの適応症例が拡大し、複雑な形態を持った病変や、分岐部病変、糖尿病症例、透析症例などが治療されていくに従って、その再狭窄率の報告には10~30パーセントとバラつきが出てきたのも事実です。しかし、そうはいっても遠隔期再狭窄率は格段に改善していることに間違いはありません。

<治療した場所とは関係なく別に発生した病変>

治療したステント留置部位ではなく、まったく関係のない場所に新たに動脈硬化性狭窄が起こることがあります。残念ながらこのようなケースの発生率を予測することはできません。しかし、過去に動脈硬化性の血管病変を指摘されていたり、治療の既往がある人の場合には、食生活を含めた生活習慣が動脈硬化を促進しやすい状態にあったり、遺伝的背景や喫煙高血圧、糖尿病などの冠危険因子を多く有している傾向が強いといえます。

従って、新たな狭窄病変を起こしやすいと言えるのかもしれません。従って、PCIの治療後には必ず生活習慣改善の指導を行い、少しでもこれらのリスクを排除するための自浄努力に取り組んでいただくことが鍵と言えます。

<抗血小板剤>

DES留置後は、2種類の抗血小板剤を約6ヶ月~1年間飲み続けて頂くことになります。一定期間経過した時点で、ステント留置部位にてついての状態を画像検査等で確認後、多くのケースでは、1種類に減らします。服用する薬は、一般的にはアスピリンとプラスグレル塩酸塩、あるいはアスピリンとクロピドグレル硫酸塩の2パターンです。アスピリンを半永久的に服用していただくことが多いです。

<スタチン>

悪玉コレステロールは、血管を損傷し動脈硬化を引き起こす原因の一つです。スタチンは、その悪玉コレステロールを下げる役割とともに、動脈硬化によって損傷した血管内膜の働きを修復する役割を持っています。

<β遮断薬>

同剤は、心筋の収縮力を抑え、心拍数をゆっくりにする力を有しています。ステントを留置した以外の場所に未だ有意狭窄病変が残っている場合などに使用し、狭心症発作を起こりにくくする力を有しています。

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  • 日本循環器学会 循環器専門医日本内科学会 認定医

    岡部 輝雄 先生

    数ある施設のなかでもPCI治療後の生活習慣改善指導に力を入れる三田病院において、退院後も患者さんが良好な生活習慣を保てることを一番に考え診療にあたる。医師が主体となって生活改善への取り組みや経過観察のスケジュールを組むなどのサポートを積極的に行っている。

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