インタビュー

ペインクリニックにおける治療方法

ペインクリニックにおける治療方法
井関 雅子 先生

順天堂大学 医学部 麻酔科学・ペインクリニック講座 教授 (大学院医学研究科疼痛制御学 教授併任)

井関 雅子 先生

この記事の最終更新は2016年04月17日です。

記事3:ペインクリニックにおける検査・痛みの診断方法」では「痛み」を総合的にみて、疾患を診断する方法をお伝えしました。ここでは実際の治療方法について、順天堂大学医学部附属順天堂医院 麻酔科学・ペインクリニック教室 教授の井関雅子先生にお話し頂きました。

痛みの治療にとって大切なことは、

●患者さんにとって適切なアプローチを行うこと

・同じ疾患でも、患者さんによって適切と考えられる治療法が異なる

・同じ患者さんでも、時期によって適切と考えられる治療法が異なる

● 患者さんに最良の痛みを緩和する治療が提供できるように心がけること

・薬物療法、神経ブロック療法(高周波熱凝固法 脊髄刺激法なども含む)、理学療法、認知行動療法など治療を適宜組み合わせることが効果的である場合もある(単体の治療が効果的である場合もある)  

・様々な診療科や医療従事者の協力が有効な場合もある

と私は考えています。

ペインクリニシャンは痛み治療に関するエキスパートですから、上記のように患者さんの状態や原因に応じて、薬物療法・神経ブロック療法、理学療法(運動器のリハビリテーションなど)・臨床心理士を中心とした認知行動療法(心のケア:ものの受け取り方や考え方に働きかけて気持ちを楽にする心理療法)など、的確な治療方法を考えます。

私は麻酔科医ですから、神経ブロック療法の適応が高い患者さんには、積極的に活用しておりますが、基本的には、中立的な立場から治療法を選択するよう心がけています。

「仕事をする時、オピオイド(強力な鎮痛薬)を服用すると頭がぼんやりとしてしまうから困っています」という方、帯状疱疹の急性痛・術後痛・骨折後の痛みをお持ちの方などには、痛みが続く期間を長引かせない方がよいので、神経ブロック療法を行うことがあります。

また、原因不明の痛みをお持ちの方も受診に来られます。「記事3:ペインクリニックにおける検査・痛みの診断方法」でお話ししたように、しっかり検査・問診・診断を行い炎症などが起きていないかを調べ、もし何も原因がなければ「大丈夫ですよ」とお伝えして安心して頂きます。原因が無い場合でしたら普通は自然に治っていきますし、それでも痛みが気になる方がおられた場合は、投薬の相談も適宜行います。

先ほども申し上げましたが、場合によっては、種々の方法を組み合わせた治療を行うことで、相乗作用が得られたり、単一治療による副作用を軽減することが可能になります。患者さんの治療に対する希望を聞き、「患者さんにとって、どのような治療やどのようなケアをするのがベストか」という視点に立って考えるのがペインクリニックの意義ではないでしょうか。むしろそれが軸といっても過言ではありません。医療をたくさん与えるのではなく、「患者さんの生活にプラスにはなるけれども、害にはならない程度の治療」を目指しています。

技術的な面で申し上げますと、神経ブロック療法を含め、痛みにおける治療全てを、さらに安全に有用に患者さんに提供することも私たち専門医のミッションです。例えば注射ひとつにおいても、いかに痛くなく注射できるのかということも追求しています。「痛み」の専門医ですから、注射といえどもそれを追求することも大事なことなのです。

慢性の痛みは辛いですから、痛みとの上手なつきあい方という「心のケア」を行っています。その「心のケア」というのは、「日常生活を快適に過ごすためのお手伝い」とでもいいましょうか。

当院では患者さんによっては、臨床心理士と一緒に治療を行う場合もあります。臨床心理士の役割としては、もちろん様々な心理検査を行い、心理面を掘り下げるという業務もあります。しかし当院の臨床心理士には、患者さんの日常生活における考え方の指導・行動量の調査・指導などを行ってもらっています。例えば、患者さんが頑張って動きすぎていないかとか、逆に動く量が少ないとかなどをみています。

患者さんは「痛み」の治療のためペインクリニックに通院しているのに、なぜそのような治療を行わなければいけないのかと最初は疑問に思われます。しかしそれが患者さんご自身にフィードバックされる治療であると理解されると、みなさん熱心に受診されるようになります。臨床心理士と医師と患者さんの三位一体の治療も実はペインクリニックにとっても重要な役割を果たしているのです。

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