結節性硬化症は、てんかんをはじめ全身に多くの症状を起こす病気です。そのため、症状に合わせた治療が必要となり、病院内はもちろん他の地域の病院などとの連携も重要となります。
本記事では、聖隷浜松病院小児神経科主任医長で聖隷浜松病院てんかんセンターでの診察を担当されている岡西徹先生に、結節性硬化症の原因や治療法、診療体制についてご解説いただきました。
結節性硬化症は1880年にフランスの医師であるBourneville(ブルヌビーユ)が初めて報告した病気です。このときに報告された患者さんはてんかんと顔の皮疹がある方で、脳に通常の組織とは異なる結節状でやや堅い、塊になった脳組織があったため、後に「結節性硬化症」という病名がつけられました。その後研究がすすみ、全身に実に多くの症状を起すことがわかりました。以下に代表的な所見や合併症状を挙げます。
これらは部位や形は違うものの、基本的には良性の腫瘍あるいは過誤腫と呼ばれる病態です。この他にも細かな症状がいくつかあります。現れる症状の組み合わせは患者さんによってバラバラで、ほぼ全部揃って出現してしまう方もいれば、わずかにしか症状が現れない方もいます。
(画像提供:岡西徹先生)
結節性硬化症の大きな特徴として、それぞれの症状に「出現しやすい時期」があるということが挙げられます。
赤ちゃんのころに最も問題となるのは心臓の横紋筋種とてんかんです。てんかんの中でも、特に赤ちゃんの頃に発症するものはなかなか薬が効きにくいという傾向があります。2~3歳くらいになると発達の遅れや自閉症状に気がつかれることがあります。また、そのころからSEGAが出現しやすくなります。
SEGAは、脳に水が溜まる水頭症の原因になりうるため慎重な経過観察が必要です。5歳くらいからは顔面血管線維腫や腎AMLが出現しやすくなります。また、女性の患者さんの場合は、20歳をすぎると肺LAMが出現しやすくなります。(稀に男性の患者さんにも現れます。)腎AMLは出血のおそれ、肺LAMは呼吸不全になるおそれがあり、生命に関わりますので慎重に経過観察していきます。心臓の横紋筋腫は、新生児期以後は徐々に小さくなりますし、SEGAは30歳を過ぎて大きくなることは少ない傾向にある一方、腎AMLや肺LAMは年齢が上がっても新たに出現することがあります。
SEGAや腎AML、肺LAMに関しては症状や所見がない状態でも、概ね年に1回程度の検査が必要になります。外来で順次検査を行う場合もあれば、入院して一度に全て行う場合もあり、方針は病院ごとで異なります。
結節性硬化症は世界中のどの国でもみられますが、それぞれの国の調査ごとで発症頻度はバラバラです。日本では鳥取県の人口調査で7,000人に1人程度に発症し、日本の人口に換算して15,000人程度の患者さんがいると推定されています。
結節性硬化症の原因は、TSC1、TSC2という2つの遺伝子のどちらかが壊れることとわかっています。この2つの遺伝子は、本来体の中のmTOR(エムトール)という物質の働きをほどよく抑える役割を果たしています。mTORは体の細胞を増殖するために必要なのですがTSC1、TSC2が壊れてしまうとmTORが暴走してしまい、体のいろいろな細胞が過剰に増殖します。これが良性腫瘍や過誤腫の原因と考えられています。
頻度の高い合併症であるてんかんはこれらが直接の原因で起こるのではなく、脳の細胞の過剰増殖でできた皮質結節が二次的にてんかんを起すと考えられています。
結節性硬化症は常染色体優性遺伝という遺伝形式をもつ病気です。結節性硬化症の遺伝の傾向として、以下のことがわかっています。
・患者さんの子どもに遺伝する確率は2分の1程度
・患者さんの親のどちらかが結節性硬化症である確率は3分の1程度
親の発症頻度が低いようにみえますが、これは健康な親でも、精子や卵子の遺伝子だけに異常が起きて子どもに遺伝することがあったり、受精後早い段階での異常が起きて発症したためと考えられます。
・遺伝子検査は結節硬化症の診断における「サポート役」
また患者さんは基本的に遺伝子よりも症状の組み合わせで診断しますが、症状が揃って確定診断となった方でも、遺伝子検査では6~8割程度しかTSC1、TSC2の異常は見つかりません。遺伝子検査は重要ですが、あくまで診断のサポート役であるということの理解も必要です。
結節性硬化症は合併症に応じた治療法が基本となります。
これまで根治的な治療はないとされてきた結節硬化症ですが、エベロリムス、シロリムスといったmTOR阻害薬の登場で治療方法が大きく前進しました。てんかんについてはビガバトリンというお薬が2016年から使える様になり、点頭てんかんを合併した患者さんには大変有効です。また、薬が効かない場合はてんかん外科手術が有効です。日本では手術治療の導入が遅れていましたが、近年目覚ましく進歩していますので一部の施設ではかなり難しい状況の方でも手術治療可能です。
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結節性硬化症はいろいろな臓器の病気を合併します。複数の臓器に大きな合併症がある場合、患者さんは臓器ごとにいろいろな病院を受診していることがあります。それぞれの医師や施設同士の風通しがよければよいのですが、現実にはなかなかそうもいきませんので、エベロリムスの開始のような大きな方針決定がなかなか進められないこともあります。
そこで近年では、いくつかの病院で結節性硬化症の総合外来が開かれてきています。総合外来には一番主体となって患者さんを診るコーディネーター役の医師がおり、基本的にはその病院で各臓器の疾患を診療するように調整します。また、総合外来のある病院が県外など遠い場合、コーディネーターの医師が患者さんの地元の医師と連絡をとって、急性期の診療体制を整えることもあります。こういった院内の連携、地域の連携は、従来の専門医療の深化でできてしまった医療の落とし穴でしたので、それを見直す動きともいえます。このような結節性硬化症の総合外来が一つの地域に一か所以上存在することが望ましいと考えられます。
てんかんや腎不全といった特定の臓器の症状が特に重く、てんかん外科や腎移植など、特に専門性が高い施設での治療が必要な場合は、その治療を行う病院と地元の主治医との連携が必要です。
私の勤めている聖隷浜松病院は特に結節性硬化症のてんかんの治療に強いので、結節性硬化症に伴うてんかんの難治な患者さんを中心に多くの方を診察しており、外科手術もしております。その場合は私(小児担当)ともうひとりの脳外科の先生(成人担当)が、地元の先生と上手く連携できるように配慮して診療しております。
聖隷浜松病院てんかんセンター 小児神経科主任医長
日本小児科学会 小児科専門医・小児科指導医日本小児神経学会 小児神経専門医日本てんかん学会 てんかん専門医・てんかん専門医指導医
トロント小児病院のてんかんユニットを経て聖隷浜松病院にて小児の包括的てんかん診療を行っている。聖隷浜松病院てんかんセンターでは数あるセンターでも内科系治療と外科系治療を同時に考えながら診療する北米スタイルを実践する日本でも数少ない専門施設であり、とくに小児科系の医師としてこのスタンスで診療できるてんかん専門医は現在稀である。また結節性硬化症の包括診療とてんかん治療も総合外来を起ち上げて精力的に行ったり、医師教育としても長期キャリアパスを考えるための本を日本で初めて著し、ベストセラーとなっている。
岡西 徹 先生の所属医療機関
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