食道閉鎖とは、食道が狭窄(狭くなる)、あるいは行き止まりになっている状態で、生まれつき食道閉鎖が起こっている状態を先天性食道閉鎖症と呼びます。先天性食道閉鎖症は胎児期あるいは出生時に発見され、閉鎖の仕方によって5つのタイプに分類されますが、基本的にはミルクが飲めず誤嚥性肺炎を起こしやすいので、早期治療が求められます。また、先天性食道閉鎖症の半数は胎児診断から発見されるため、判明した段階で、治療を受ける施設を選択することが重要です。本記事では、名古屋大学医学部附属病院小児外科教授の内田広夫先生と、同院小児外科講師の田井中貴久先生に、先天性食道閉鎖症についてお話しいただきました。
先天性食道閉鎖症とは、生まれつき食道が胃とつながっていない病気です。先天性食道閉鎖症には複数の病型がありますが、そのほとんどは食道が途中で途切れて胃につながっていないため、生まれてきた赤ちゃんはミルクを飲むことができません。
先天性食道閉鎖症は、食道と胃、気管のつながり方によってA~Eの5病型に分類されます。
【各病型の補足説明】
A型:全体の5~10%に見られ、食道と胃が完全に離れてどこにもつながっておらず、食道気管瘻(食道の先が気管につながっていること)の合併を欠くもの
B型:ごくまれなタイプ。口側食道の先が気管につながっており、上部食道気管瘻が見られ、下部食道(胃の先)は無形成か盲端(食道の先端が閉じていること)であるもの
C型:全体の85~90%に見られ、胃の先の食道が気管につながっており、上部食道は盲端で下部食道気管瘻があるもの
D型:全体の1%前後に見られ、食道と胃のそれぞれの先が気管につながっている(上部食道気管瘻と下部食道気管瘻)もの
E型:全体の5%に見られ、食道と胃はつながっている(閉鎖していない)が、食道の一部が気管につながっている(食道気管瘻)もの
気管と食道は、発生初期には一緒になっており、妊娠4~7週ごろに分離します。この分離過程で何らかの異常が起こると先天性食道閉鎖症を発症するという説が、現在のところは有力です。
また、先天性食道閉鎖症はVATER症候群(ヴァータ―症候群:椎体異常、肛門奇形、気管食道瘻、橈骨奇形、腎奇形の先天異常が複数合併して起こる奇形)との関連が指摘されており、先天性食道閉鎖症の患者さんの一部にはこの遺伝子異常が見つかっています。そのほか、18トリソミーの部分的な症状の1つとして先天性食道閉鎖症が現れる場合もまれにあります。しかし、はっきりとしたことは分かっていません。
なお、先天性食道閉鎖症の赤ちゃんには心臓の異常が合併しているケースが多く認められます。心臓奇形の合併が多い理由は、発生学的な面から説明することができます。
先ほど、気管と食道は妊娠4週ごろに分離するとご説明しましたが、実はこの時期は、心臓が形成される時期と重なっているのです。4週で食道に異常が起きているということは同時にほかの臓器、つまり心臓にも異常が起きることが多いと考えられます。
先天性食道閉鎖症の典型的な症状は“ミルクが飲みこめない”ことです。
先天性食道閉鎖症の赤ちゃんはミルクを飲むことができず、飲み込もうとした後にブクブクと泡沫状の唾液を吐いたり、咳やよだれが出たりします。
また、気管食道瘻(食道の先が気管につながっていること。上図ではA型以外が該当する)がある場合は、胃液が肺に流れ込んだり、飲み込んだミルクや食物、唾液などが食道から気管を経由して肺に入ったり、食道が閉塞しているために飲んだものが口にあふれて誤嚥し、咳、窒息、呼吸困難、ひどい場合には肺炎を引き起こすことがあります。このとき、赤ちゃんの皮膚は青みがかった色に変色します(チアノーゼ)。
先天性食道閉鎖症の最大の問題は、胃から上がってきた胃液または飲み込んだ飲食物が気管に入って、肺炎を発症するリスクが高いという点にあります。先天性食道閉鎖症のほとんどの症例は下部食道と気管がつながっているため、特に胃から上がってきた胃液が肺に流れ込むことには最大限の注意を払わなければなりません。
先天性食道閉鎖症の赤ちゃんの場合には、鼻あるいは口から管(カテーテル)を挿入すると、“コイルアップ”という現象が起こります。コイルアップとは、挿入したカテーテルが食道盲端部で反転し、ひっくり返る現象です。
コイルアップは、E型の先天性食道閉鎖症以外には必ず見られる現象で、これが確認されればはっきり先天性食道閉鎖症と診断することができます。
E型の先天性食道閉鎖症の場合は、気管食道瘻があるものの、食道と胃がつながっているので、コイルアップが確認できません。このタイプの先天性食道閉鎖症は特に肺炎を繰り返すことで異常を疑われ、検査によって判明することが多い傾向にあります。E型先天性食道閉鎖症は患者さんの5%程度にしか見られないまれなタイプですが、子どもが肺炎を繰り返したり誤嚥が多いと感じる場合は、先天性食道閉鎖症の可能性を考える必要があります。
出生前に胎児診断を行ったときに羊水過多や胎児超音波検査時に極端に小さな胃が見つかり、胎児の段階で先天性食道閉鎖症と診断されることがあります。現在、約半数の先天性食道閉鎖症は胎児診断で分かるといわれています。
胎児期に先天性食道閉鎖症と診断を受けると親御さんはショックかもしれませんが、赤ちゃんが生まれてから先天性食道閉鎖症が見つかった場合、別の施設に移動して手術を受けることはかなり難しいことです。一方、胎児診断の段階で先天性食道閉鎖症が判明した場合は、治療する施設を事前に選択することができます。
先天性食道閉鎖症に対する胸腔鏡下根治術は2016年から保険適用となり、さまざまな医療機関で患者さんを受け入れています。しかし、先天性食道閉鎖症根治術は合併症が起こりやすく手術の難易度も高いため、手術を受ける際には施設を慎重に選んでいただきたいと考えます。
先天性食道閉鎖症は希少疾患であるため、全国的にも年間130例程度しか症例が確認されておらず、年に1、2例しか手術をしていないという施設も多くあります。手術の経験が多い施設であれば手術時間も短く、手術そのものも正確に行えることが多いため、経験豊富な施設で手術を受けるのが望ましいと考えます。
ここまで、先天性食道閉鎖症の分類と症状、施設選びのポイントについてご説明してきました。記事2では、先天性食道閉鎖症の手術治療についてご説明していきます。
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名古屋大学大学院医学系研究科 小児外科学教授
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内田 広夫 先生の所属医療機関
名古屋大学医学部附属病院 小児外科 講師、東邦大学医学部 非常勤講師
日本外科学会 指導医・外科専門医日本小児外科学会 小児外科指導医・小児外科専門医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本内視鏡外科学会 技術認定取得者(小児外科領域)日本小児血液・がん学会 小児がん認定外科医日本周産期・新生児医学会 認定外科医International Pediatric Endosurgery Group(IPEG) 会員The Pacific Association of Pediatric Surgeons(PAPS) 会員
小児医療の拠点である名大病院で、新生児を含む重症・難治性疾患の外科治療に数多く携わる。特に肝胆膵疾患の経験が多く、2015年には東欧から来日した女児の先天性胆道拡張症再手術に成功。胸腔鏡・腹腔鏡を用いた侵襲度の低い内視鏡手術にも高い技量を持つ。将来の小児医療をさらに発展させるべく様々な角度から日々診療と研究を続けている。
田井中 貴久 先生の所属医療機関
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