インタビュー

急増する新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎とは?赤ちゃんの嘔吐や血便の原因疾患

急増する新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎とは?赤ちゃんの嘔吐や血便の原因疾患
野村 伊知郎 先生

国立成育医療研究センター 免疫アレルギー・感染研究部 上級研究員/生体防御系内科部 アレルギー...

野村 伊知郎 先生

この記事の最終更新は2017年08月22日です。

日本では1990年代末頃から、0~1歳の赤ちゃんに嘔吐や血便などの症状が現れる「新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎」が急激に増加しています。この病気は食物アレルギーのひとつですが、原因となることの多い牛乳などを摂取してから症状が現れるまでには日数がかかるため、保護者の方も飲食物が原因となっているとは気付きにくいという特徴があります。年間約2000人もの赤ちゃんが新たに発症しており、2015年には指定難病となった新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎とはどのような病気なのか、国立成育医療研究センター生体防御系内科部アレルギー科の野村伊知郎先生にご解説いただきました。

何らかの食物を摂取することで、胃腸などの消化管に炎症が起こる指定難病・好酸球性消化管疾患は、食物アレルギーのひとつです。多くの方がイメージされる食物アレルギーとは、鶏卵やナッツ類を口にした後、数分から2時間以内に蕁麻疹や呼吸の苦しさなどの症状が生じるものでしょう。このような即時型の食物アレルギーは、食物に含まれるアレルゲン(抗原)とIgE抗体が結合することで起こります。

一方、非即時型の食物アレルギーである好酸球性消化管疾患の症状は、数時間あるいは数日間かけて、胃や腸などの消化管に限局して現れます。このようなアレルギー反応を非IgE依存性食物アレルギー反応といいます。また、好酸球性消化管疾患も「非IgE依存性消化管食物アレルギー」と称されることがあります。

この病気の発症にIgE抗体は主体的に関与してはおらず、症状の発現には時間がかかることもあって、原因となっている食物の分析を行なうことは難しいといった難点があります。

好酸球性消化管疾患という名称は、この疾患を発症した患者さんの消化管粘膜を検査すると好酸球数の増加がみられるケースがあることに由来しています。そのため、内視鏡で消化管粘膜を採取し、顕微鏡で好酸球の有無を確認する検査は、診断の有力な補助となります。ただし、すべての患者さんの消化管に好酸球がみられるわけではないため、あくまで診断の補助と考えることが大切です。

好酸球
生まれて5日目の赤ちゃんの結腸粘膜、ピンク色に染まる多数の好酸球がみられる。 画像提供:野村伊知郎先生
提供:PIXTA

1990年代の終わり頃から、日本では赤ちゃんの非IgE依存性消化管食物アレルギー(好酸球性消化管疾患)が急増しました。

本記事のテーマである「新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎(新生児-乳児消化管アレルギー)」とは、このうち0~1歳児に起こるものを指します。

新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎の約6%は、生命が危機にさらされるほど重症化しています。そのため、適切な治療と医療費の助成が受けられるよう、厚生労働省は2015年4月に本疾患を指定難病としました。

このほかの非IgE依存性消化管食物アレルギーには、幼児から成人に起こる好酸球性食道炎や好酸球性胃腸炎があります。この2つの疾患の詳細は記事2『新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎と好酸球性食道炎・好酸球性胃腸炎の治療』に記しますが、新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎を起こしていることに気づかれないまま成長し、慢性的な好酸球性胃腸炎へと移行している例もあるのではないかと考えられます。

新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎は、1990年代終わり頃に日本で急激に増えはじめ、現在では毎年約2000人の赤ちゃんが新たに発症しているとされています。なぜ日本を中心に急増したのか、その原因は今もってわかっていません。

1990年代後半よりも以前から食物アレルギー自体は増加していたものの、消化管アレルギーはまれであったため、多くの小児科医にとっては医学部教育や臨床経験で触れてこなかった未知の疾患であり、情報を求めて私たち研究班が作成した治療指針にアクセスされる医療者も増えています。

新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎の原因となる食物とその割合は以下のとおりです。

・牛由来ミルク:95%

・母乳:20%

・米:10%

・大豆:10%

・卵:5%

牛由来ミルクとは市販されている普通ミルクを指します。通常は原因となる食物は1品目のみで、多い場合でも2~3品目に限られます。母乳によりアレルギー反応を起こしていた患者さんのお母さんが牛乳などの摂取を中止することで、患者さんの症状が消失することもあります。この場合は、母乳哺育を継続することができます。

提供:PIXTA

新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎の2大症状は嘔吐と血便ですが、いずれの症状もみられないまま全身状態が悪化していく例もあります。※詳しくは次項をご覧ください。

重症度は、軽症、中等症、重症、最重症に4大別されます。軽症であれば、ごく少量の血便が続くケースもあるものの、赤ちゃんの正常な成長発達に問題は生じません。重症度が上がるにつれ、「体重が増えない」「元気がなく、ぐったりしている」といった問題が顕在化していき、約6%の最重症例では消化管の穿孔(胃腸に穴があくこと)や体重減少・栄養状態の悪化による発達障害など、危険な症状がみられます。体重や体液が極端に減少している場合は、入院管理による集中治療を行い、点滴による栄養投与(中心静脈栄養)も考慮します。

原因となる食物を摂取してから2時間程度で症状が現れるというケースもありますが、多くは症状が出るまでに数日~10日間ほどかかります。そのため、お子さんに血便や嘔吐などの症状がみられたとしても、周囲は食物が原因であると気づかないことがほとんどです。

嘔吐と血便は新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎の症状のなかでも最も高頻度で現れる症状です。0歳の患者さん(※)を、これら2大症状の重症度と出生体重、発症した日齢などで分析した結果、新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎の患者さんは4つのグループ(クラスター)にわけられることが判明しました。

※発症初期の症状をみるため、1歳児は適応となりません。

このクラスター分類は、2011年の米国アレルギー学会雑誌にも掲載されました。

クラスター1は、嘔吐と血便、どちらの症状も現れているため、保護者の方が異変に気づきやすく、早い段階で診断・治療にたどりつきやすいグループです。ただし、炎症を繰り返すことによる消化管の穿孔などが、比較的早く生じるリスクもあります。

記事2『新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎と好酸球性食道炎・好酸球性胃腸炎の治療』でご説明する検査のひとつ「原因食物負荷試験」を行なうと、0.5~3時間で嘔吐が始まることもあります。

発症日齢が早く、出生後まもなく嘔吐を始める赤ちゃんもいるため、ショックを受けてしまわれた保護者の方へのフォローとケアも大切です。

クラスター2は、嘔吐や下痢を主な症状としており、血便を起こす頻度は低いグループです。クラスター2も、原因食物負荷試験を行なうと早くて0.5~3時間で嘔吐が始まります。

クラスター3は、嘔吐や血便といったわかりやすい症状がないため、全身状態が悪化して初めて病気に気づくこともある危険なグループです。主体となる症状は、体重の増加不良と慢性的な下痢です。

原因食物負荷試験を行ってから症状が誘発されるまでには、数日~3週間かかることが多いため、医療者が結論を急がず、根気よく負荷試験を続けることも大切です。

また、血液検査や検便だけでなく、赤ちゃんに対する内視鏡検査を行い、消化管の組織を採取しなければ診断をつけられないことも多いという難点があります。

クラスター3に分類される患者さんのなかには、本症であることに気づかれないまま集中治療を受けている重症患者さんも少なくありません。このグループの患者さんを早期に発見し治療介入するために、私は現在血液検査による診断法の開発に注力しています。

クラスター4は、血便を主な症状とするグループです。下痢や体重増加不良を起こすこともあります。原因食物を摂取しても嘔吐しないため、負荷試験を行ってから症状が誘発されるまでに24時間以上、長いときには約2週間かかるという特徴があります。ただし、粘液まじりの血便がみられるため、便粘液中の好酸球を調べる検査では陽性を示しやすい(診断に至りやすい)傾向があります。

便粘液中
便粘液中の好酸球集積像  エオジノステイン(ハンセル染色)野村伊知郎先生より提供
提供:PIXTA

クラスター分類を行なうことで、消化管のうちどの部位が障害されているのか、ある程度あたりをつけることができます。たとえば、嘔吐と血便が認められるクラスター1の患者さんは、食道から大腸に至るまで、全消化管に炎症などが起こっている可能性があります。嘔吐を主体とするクラスター2であれば上部消化管(食道・胃・十二指腸)が障害されていると推定でき、血便を主体とするクラスター4であれば下部消化管、特に大腸(結腸・S字結腸・直腸)が障害部位ではないかと考えることができます。また、嘔吐も血便もみられず、栄養吸収が障害されるクラスター3は小腸が中心であると推定できます。

このように、アプローチすべき場所をある程度絞り込むことができるクラスター分類は、適切な治療を選択するために有用です。

ただし、新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎の患者さんは、必ずしもいずれかのクラスターにきれいにわけられるわけではありません。なかには、複数のクラスターの特徴が重なって現れる方もいらっしゃいます。

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  • 国立成育医療研究センター 免疫アレルギー・感染研究部 上級研究員/生体防御系内科部 アレルギー科 医員(併任)

    野村 伊知郎 先生

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