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インタビュー

新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎と好酸球性食道炎・好酸球性胃腸炎の治療

新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎と好酸球性食道炎・好酸球性胃腸炎の治療
野村 伊知郎 先生

国立成育医療研究センター 免疫アレルギー・感染研究部 上級研究員/生体防御系内科部 アレルギー...

野村 伊知郎 先生

0~1歳の赤ちゃんの消化管に炎症が起こる(1)新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎と、幼児~大人の食道や胃腸が障害される(2)好酸球性食道炎、(3)好酸球性胃腸炎。

「好酸球性炎症症候群」と総称されるこれら3つの病気は、多くの場合何らかの食物を原因としています。一般的な食物アレルギーに軽いものと重いものがあるのと同様に、認知度の低い好酸球性炎症症候群もまた、激しい腹痛や極度の体重減少など、非常に深刻な症状を引き起こすことがあります。全国的に行われている好酸球性炎症症候群の治療と、現在日本では2施設でしか行なうことのできない好酸球性食道炎・好酸球性胃腸炎の食物除去治療について、国立成育医療研究センター生体防御系内科部 アレルギー科の野村伊知郎先生にお伺いしました。

0~1歳の赤ちゃんが牛乳などの牛由来ミルクや母乳を摂取することで起こる消化管の食物アレルギー、「新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎(新生児-乳児消化管アレルギー)」は、容易には確定診断にたどり着けないという点で、医療者にとっても難しい病気といえます。

診断のためには、次に記す5つのステップを経る必要があります。

赤ちゃんに嘔吐や下痢、血便や体重の増加不良などの症状がみられる場合、新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎の可能性を疑い診療を始めることが、最初の1歩となります。重症度を判定し、緊急性が高いと判断した場合は即座に(3)に記す食物除去を開始することもあります。

また、疑いを持った時点でクラスター分類(記事1『急増する新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎とは?赤ちゃんの嘔吐や血便の原因疾患』)により、消化管のどの部分に障害が起きているのか推定しておきます。

新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎と同様の症状を呈する疾患は何百種類もあります。確定診断に至るまでには、これらすべてを否定するための鑑別診断を行なう必要があります。

代表的な鑑別疾患としては、中腸軸捻転や細菌性腸炎、炎症性腸疾患や新生児メレナなどが挙げられます。

ミルクの入った哺乳瓶

必要な栄養素を維持した状態で、牛由来ミルクや母乳の摂取を中断するなど、原因となっている可能性がある食物の除去を行います。

原因食物の95%は牛乳などの牛由来ミルクですので、代替として治療ミルク(高度加水分解乳やアミノ酸乳、乳製品を母が除去した母乳など)を使用します。

食物除去のみで症状が消失し、体重や健康状態がみるみる回復する患者さんも多々おられます。

確定診断のための原因食物負荷試験は、症状の改善と体重の回復を待って行なうことが理想的です。必要な栄養素を確保できるような措置を続け、負荷試験を実施できる状態まで体重が回復しているかどうか定期的に確認します。

原因と推定される食物を与え、病的な嘔吐や血便、下痢や発熱などの症状が誘発された場合、「陽性」と判定します。ただし、ゆっくりと進行する食物アレルギーである新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎は、数日のみの原因食物の摂取では症状が出現しないこともあります。そのため、真に陰性と判断できるのは、その食物を3週間程度摂取し続けても症状が出ない場合に限られます。

新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎の場合、採血により得られる血液(末梢血)や便粘液中の好酸球数が上昇することもあります。そのため、採血検査や便の検査も診断の補助となります。ただし、血液検査は偽陽性となることも多く精度が高いとはいえないため、あくまで補助的な検査として捉える姿勢が重要です。

嘔吐も血便もないクラスター3の診断には、消化管の細胞を採取して好酸球をみる上部下部内視鏡検査が役立ちます。ただし、生後間もない赤ちゃんに対する麻酔処置や内視鏡検査は、すべての施設で行えるものではありません。

成育医療研究センターには、これらの検査を安全に行なうためのノウハウが蓄積されており、豊富な経験を有する小児消化器専門医、小児外科医、小児麻酔科医がそろっています。

各病院の先生方には、嘔吐や血便が続く患者さんや、原因不明の体重増加不良を呈している患者さんでお困りの場合には、ぜひ当院に紹介していただきたく存じます。

医師が若い父母に話をしている

少量の血便が続く軽症の患者さんや、症状が継続した場合には成長発達に支障を来すと考えられる中等症の患者さんの治療は外来通院で行えることも多いです。通院で治療を行なう場合、ご家庭で原因食物を除去し、治療ミルクを代用していただく必要があります。また、授乳中のお母さんに牛由来ミルクの摂取を中断していただくこともあるため、保護者の方のご理解と主体的な治療参加は不可欠といえます。

しかしながら、生まれて間もないお子さんに嘔吐などの症状が現れている場合、保護者の方が心身ともに疲弊していることも少なくはありません。そのため、まずはご両親に力を取り戻していただけるよう、ケアや丁寧な病状の説明にも力点を置いています。

体重が一定の基準を下回っている重症例や、消化管の穿孔、深刻なショック症状などが起こっている最重症例の治療は、入院管理下で行います。特に全身状態が悪い場合は、発達障害など、起こってからでは元に戻せない不可逆的な障害を回避するため、早い段階で中心静脈栄養などを考慮します。

近年では、新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎の認知度も高まり、全国の多くの医療機関で適切な検査と治療が行われるようになりました。

そのため、成長発育障害などの重い合併症を起こしていなければ、新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎の予後は良好なものとなっています。現在では、1歳までに5割程度、3歳までに9.5割弱の患者で原因食物を摂取しても症状が出ない寛解状態となり、健康なお子さんと全く変わらない生活を送っています。

一方、幼児から成人における好酸球性消化管疾患である「好酸球性食道炎」と「好酸球性胃腸炎」は、診断・治療ともに開発途上にあり、患者さんの生活の質を低下させてしまうこともある難しい疾患です。

通常の治療で思わしくない経過をたどる患者さんについては、根本的な治療である多種食物同時除去治療と、引き続き行われる長期負荷による原因食物特定が、有効と考えられていますが、全国あらゆる医療機関で実施できる段階にはありません。方法を誤るとトラブルにつながるリスクもあるため、現在は成育医療研究センターと島根大学第二内科の2施設で、日本全国から来られた患者さんに入院していただいて実施しています。

のど元

好酸球性食道炎とは、食道に炎症が起こるために飲食物がつかえてしまったり、胸焼けや逆流を起こしてしまう疾患です。

医療機関にかかったとしても逆流性食道炎などと間違われやすく、さらに、ご本人が病気であると認識するまでに長期を要することが多いという難しさもあります。

たとえば、ある程度の年齢の方であれば、固形物が飲み込みにくいという自覚があっても、お茶などで流し込むといった対処をとることができてしまいます。そのため、発症後10年以上の時が経ち、食道に狭窄(狭くなること)が起こって初めて医療機関を受診される患者さんもいます。

胃から大腸にかけて広い範囲の消化管が障害される好酸球性胃腸炎は、激しい腹痛や腹水、嘔吐や下痢を主な症状とする好酸球性消化管疾患のひとつです。好酸球性胃腸炎は、ある一時期のみに重い症状が現れる間歇型(かんけつがた)と、長期にわたり症状が続く持続型にわけられます。

潰瘍性大腸炎クローン病など、よく似た疾患が多々あるため、確定診断をつけるまでには数か月かかることもあります。

また、体重が減少し、活動性が極端に低下しているものの、医療者に好酸球性胃腸炎という疾患が知られていないために、「よくある気の病のようなもの」と判断されてしまい、長い期間治療を受けられなかった患者さんもいます。

好酸球性胃腸炎は子どもにもみられますが、発症のピークは20歳と50歳にあります。また、軽症で気づかれなかった新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎が、慢性的な好酸球性胃腸炎へと移行している例もあるのではないかと考えています。

地球儀

好酸球性食道炎と好酸球性胃腸炎には人種差がみられます。食道のみに炎症が起こる好酸球性食道炎は欧米に多く、近年では白人の男性患者さんが爆発的に増えています。ある報告では、患者さんのうち約7割が男性といわれています。

一方、好酸球性胃腸炎は日本に多く、日本の幼児~成人の好酸球性消化管疾患全体の患者さんの約7割を好酸球性胃腸炎が占めていて、好酸球性食道炎は少なめです。

人種差が生じる理由や発症のメカニズムなどは解明されていませんが、好酸球性胃腸炎の診断と治療の研究を進めていくのは、多くの患者さんを抱える日本の役割であるといえます。

好酸球性食道炎は障害部位が食道のみと限局しているため、局所的な治療を行えるという強みがあります。

まずは炎症を抑制する目的でPPI阻害薬(プロトンポンプ阻害薬)を処方します。好酸球性食道炎に対するPPI阻害薬の作用機序はわかってはいないものの、この薬剤のみにより寛解を得られる患者さんもいます。

PPI阻害薬が効かない場合は、喘息治療などに使う吸入ステロイド薬を処方します。吸入ステロイド薬は内服薬よりも副作用が少ないというメリットがありますが、胃で分解されるため、好酸球性胃腸炎には使えません。

吸入ステロイド薬

PPI阻害薬か吸入ステロイド薬のいずれかで症状が落ち着けば、食事内容を変えることなく日常生活を送ることができます。この2剤では効果が得られない場合、食物除去治療を行いますが、好酸球性食道炎は症状が軽いため、原因食物を特定するための負荷試験を、一つの食物について1か月以上続けなくてはならないこともあります。

障害部位が胃から大腸と広範囲に及ぶ好酸球性胃腸炎の標準的な治療は、全身に作用する内服薬を用いたステロイド療法です。しかしながら、内服薬を何年も服用せざる得ないことも多く、ステロイド薬の副作用であるうつ状態や骨粗しょう症に苦しまれている患者さんも多々おられます。「ステロイド療法をやめたい」とお考えの患者さんは、ぜひ当院もしくは島根大学第二内科で行っている多種食物同時除去治療を考慮してみてください。

このほか、最近になりアザチオプリン(商品名:イムラン錠)という免疫抑制剤が少量で好酸球性胃腸炎にも効果を示すことが明らかになり、医療現場で使われはじめています。アザチオプリンは、もともと潰瘍性大腸炎クローン病などの治療に使われていた免疫抑制剤で、うつ状態や骨粗鬆症といった副作用はないというメリットがあります。

好酸球性食道炎や好酸球性胃腸炎は、日常で口にすることの多いさまざまな食物により引き起こされます。そのため、原因食物の特定に時間がかかるだけでなく、食物除去をすることで栄養不足に陥る危険性などもあります。食物負荷試験は最低でも2週間行なう必要がありますが、医療者間にも知識が普及しておらず、1週間で陰性と判断してしまうケースや、ほかの病気を疑ってしまうケースもあります。このような理由から、本格的な食物除去治療は、現在成育医療研究センターと島根大学第二内科の2か所のみで連携をとりつつ行っているのです。特に重症で長期間苦しんでいらっしゃる好酸球性胃腸炎の患者さんには受けていただきたい治療法です。

栄養士さんが病院で食事を配膳

好酸球性食道炎や好酸球性胃腸炎の原因食物は、ご家庭にある調味料などあらゆる食品に含まれている可能性があります。また、この病気は、摂取量がごく僅かでもアレルギー反応が引き起こされるという特徴を持っています。そのため、治療の際には入院していただき、多種食物除去により症状を消失させ、その後1品目ずつ時間をかけて負荷試験を実施し、原因食物を特定します。最短でも3か月程度かかります。

このように長期にわたり複数回食事内容を変える必要があるため、原因食物を除去したうえで「美味しい」食事を作ることのできる栄養士の存在が欠かせません。

原因食物が特定でき、入院治療により症状も落ち着いた場合は、外来治療に切り替え、通院の頻度も3か月に1度程度に下げていきます。

通院への切り替え時には、ご家庭で栄養バランスも味もよい安全な食事を作ることができるよう、ご家族やご本人と栄養士が何度も話し合いを重ねます。そのため、数か月から半年ほど入院された患者さんやご家族は、皆さん「栄養のプロ」と呼べるほどの知識とスキルを持って退院されています。

野村先生

長期の入院が必要になり、患者さんに覚えていただくことも多い食事除去治療ですが、これまで苦しんでいた病気の症状やステロイド薬の副作用から解放されるため、皆さん「未来がみえてきた」と笑顔で治療に臨まれています。これまで当院で多種食物除去治療後の患者さんに辛そうな表情をしておられた方がいないことから、好酸球性胃腸炎という病気がいかに患者さんの生活の質を低下させていたか、また、根本的な治療を確立させることが患者さんにとって大きな希望の光となることを痛感いたしました。

寛解を得られた患者さんは、これまで生活に制限がかかっていた時間を取り戻すかのように、精力的にご自身の人生を楽しまれています。運動部、文化部、接客業、事務職、勉強など、それぞれに活躍しておられます。

現在、関東圏では成育医療研究センターにおける食物除去治療が知られはじめ、患者さんを紹介してくださる医療機関も増えました。しかし、激しい腹痛やうつ状態などの問題を抱え、将来に光がみえない状況におかれている患者さんは、全国にまだまだいらっしゃるはずです。今後、当院あるいは島根大学第二内科に紹介されて来られる患者さんが増えていくことを切に願っています。

【ご紹介】

本記事の前半に記した新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎の治療について、より詳しい情報をお知りになりたい方は、「新生児-乳児消化管アレルギー(新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎)診断治療指針」(厚生労働省難治性疾患研究班、新生児-乳児アレルギー疾患研究会、日本小児栄養消火器肝臓病学会ワーキンググループ)をご覧ください。※外部サイトへ移動します。

http://nrichd.ncchd.go.jp/imal/FPIES/icho/pdf/fpies.pdf

 

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  • 国立成育医療研究センター 免疫アレルギー・感染研究部 上級研究員/生体防御系内科部 アレルギー科 医員(併任)

    野村 伊知郎 先生

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