左心低形成症候群(HLHS)とは、全身に血液を送る左室が非常に小さい(低形成)ことを特徴とする先天性心疾患で、治療には段階的な手術が必要です。左心低形成症候群の検査と治療について、東京大学医学部附属病院の平田康隆(ひらた やすたか)先生にお話を伺いました。
左心低形成症候群の原因と症状については、記事1『左心低形成症候群(HLHS)とは? 原因・症状』をご覧ください。
左心低形成症候群の検査では、侵襲(体の負担)がほとんどないエコー(超音波)検査がもっとも重要です。多くの場合、小児科の医師が診断を行います。
次に、CT造影検査も左心低形成症候群の検査に多く用いられます。近年、CT造影検査はめざましく精度を増しており、心臓の形はもちろん、心臓の動きや血管の形状まで観察することが可能です。
エコー検査とCT造影検査のほかに、胸部X線検査などを行い、心臓の大きさや肺の状態などを確認します。また近年では、心臓や大動脈の形などを観察する心臓カテーテル検査が行われることは少なくなりました。
左心低形成症候群の治療では、子どもの成長に伴う肺血管抵抗の変化などに応じて、いくつかの手術を段階的に行います。治療の種類・順序の選択は医療機関によって異なります。
【左心低形成症候群の治療の流れ】
左心低形成症候群の治療では必ず、はじめにプロスタグランジン(生体に作用し特定の反応を制御する物質の一種)の持続静注を行い、動脈管からの血流を維持します。呼吸管理などによって心臓から全身と肺に流れる血流のバランスをとり、手術治療を計画します。血流患者さんの状態によっては、人工呼吸器による補助が必要なケースもあります。
また、ステント(動脈管などを内側から広げる網状の医療機器)を用いて動脈管からの血流を管理するケースもあります。ステント治療はプロスタグランジンの持続静注と異なり持続的な投薬がいらないため、次の段階の手術まで退院できる可能性があります。
両側肺動脈絞扼術(りょうそくはいどうみゃくこうやくじゅつ)とは、左右の肺動脈を外側から締めることで、肺へ流れる血液量を適切にする手術です。日本では半分以上の症例で、ノルウッド手術の前に行うことがあります。
【メリット】
人工心肺を使わないため、比較的低侵襲で手術することが可能です。
【デメリット】
・手術が1回増えます。
・将来的に左右の肺動脈が狭くなりすぎることがあり、その場合はカテーテル治療や手術によって肺動脈を広げる必要があります。
ノルウッド手術では、肺動脈と大動脈をつなぎ合わせることで血液が全身に流れるようにします。その結果、動脈管自体が不要になります。
その後、BTシャント手術(全身へ流れる血管から人工血管を肺動脈につなぐ)によって、肺動脈に血液を流します。これをノルウッドBT手術といいます。
そのほかに、右室に小さな穴を開け別のルートで心臓から肺動脈に血液を流す、ノルウッドRV-PA手術という方法もあります。
【ノルウッド手術の種類】
・ノルウッドBT手術
・ノルウッドRV-PA手術
ノルウッド手術は、患者さんの状態や患者さんの体重によって選択されることもありますが、多くの場合、手術する医師や医療機関がそれまで多く手がけてきた(慣れている)方法が選択されます。
両方向性グレン手術とは上半身の静脈(上大静脈)を肺動脈につなげる手術で、ノルウッド手術の3〜6か月後に行います。左心低形成症候群に限らず、単心室(心室が1つしかない、もしくは1つの心室機能に依存する)の子どもに行う手術です。
両側肺動脈絞扼術のあとに、ノルウッド手術と両方向性グレン手術を同時に行う「ノルウッド・グレン手術」もあります。
【メリット】
ノルウッド手術は術後の心臓の負担が大きく、また、体の血流と肺の血流のバランスをとることが難しいため、状態が不安定になりやすいという懸念点があります。しかし、両方向性グレン手術は体の血流と肺の血流のバランスが安定しやすく、2つの手術を同時に行うことで、術後の循環状態を安定させることが可能になります。
【デメリット】
両方向性グレン手術は、患者さんの体重が4〜5kgある状態が理想です。そのため、手術できるまで(目安は生後3か月)待機しなければならないことがデメリットです。
患者さんが1歳以降、両方向性グレン手術のあとに、最終的な治療としてフォンタン手術を行います。
フォンタン手術とは、全身から戻ってくる静脈血が肺動脈に流れるようにつなげる手術です。左心低形成症候群は、心臓のポンプ機能を右室1つに依存している状態です。そこで、通常の心臓では全身から右室、肺へと巡る静脈の血液の循環を変え、血液が右室を通らずに、全身から肺に流れるようにします。
フォンタン手術まで到達すれば、チアノーゼのない状態で生活することができます。一方で、フォンタン手術後は静脈圧が上がるため、むくみ、肝臓・腸管の合併症を引き起こすことがあります。また、もともと右室しかない状態で負担がかかるため、将来的に心不全に陥るケースもあります。
そもそも心機能や肺機能が一定以上なければ、左心低形成症候群の手術を行うことは難しいです。そのような場合、心移植という選択もできますが、日本ではドナーの数が圧倒的に少ない現状があります。
左心低形成症候群の患者さんは、かなりの頻度で通院が必要です。そのなかで主治医との連絡、情報共有をきちんと行うことは大切です。
重篤な心疾患を持つ子どもは風邪が重症化して肺炎になるといったケースもあります。そのため、子どもの発熱、食欲減退、嘔吐、下痢などの症状に注意し、そのようなサインに気づいたときには早期に病院を受診しましょう。
受動喫煙は、子どもの肺機能に悪い影響を与えます。そのため、家庭では禁煙を心がけ、家族みんなで子どもの肺を守ることが理想的です。
手術ではおもに、ノルウッド手術の成績を上げていくことが期待されています。また、最近ではコンピューターによる血流解析が可能になり、手術方針の決定に役立っています。
近年、3Dプリンターによる手術シミュレーションが可能になりました。患者さんのCT造影から作成した3Dモデルを用いて、手術前に最善と思われる心臓の形と機能を把握し、より効率的に手術を行うことができます。
研究の分野では、患者さんの幹細胞あるいはiPS細胞などを利用して心機能を高める研究が行われています。
【治療に関する今後の展望】
左心低形成症候群は決して軽い病気ではありませんし、治療も非常に難しいです。しかしながら治療成績は徐々に向上しており、実際、元気になって小学校就学を叶えた方もいます。左心低形成症候群の治療は手術の回数が多くたいへんですが、希望を持って、医師や看護師、そしてご家族とともに、がんばって治療を続けていきましょう。
国立成育医療研究センター 心臓血管外科 診療部長
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