院長インタビュー

高齢化する地域を支えていきたい―横浜保土ケ谷中央病院が抱える課題と取り組み

高齢化する地域を支えていきたい―横浜保土ケ谷中央病院が抱える課題と取り組み
後藤 英司 先生

JCHO横浜保土ケ谷中央病院 院長

後藤 英司 先生

この記事の最終更新は2017年10月17日です。

独立行政法人 地域医療機能推進機構 横浜保土ケ谷中央病院は、1955年に横浜市保土ケ谷区において船員保険横浜病院として開設されました。設立当初は船員の診療を行う病院でしたが、時代の経過とともに一般の方の診療も行うようになり、地域住民に長く親しまれてきた病院です。

病床数は約240床と大規模ではありませんが、地域との連携がとても強いことが特徴です。地域医療を支えていくうえで、同院ではどのような取り組みを行っているのか、院長である後藤 英司先生にお話を伺いました。

当院は、独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)が運営する全国57病院のひとつです。長いあいだ船員保険会が運営していましたが、2014年にJCHOに移管され、現在の名称になりました。

横浜市保土ケ谷区では高齢化が徐々に進んでいます。住宅や老人ホームなどの施設が多いのも特徴です。当院は独立行政法人として国の方針に沿った医療を提供したいと考えています。その第一が地域包括ケアシステムの構築です。地域住民の方々が安心して暮らせるよう、地域医療に重点を置きながら、ご高齢の方がもつさまざまな疾患の診療に対応していきます。

当院には優れた医師が集まっており各診療科でレベルの高い診療が行われています。すべてをご紹介したいのですが、今回は眼科や泌尿器科など一部の診療科のみ紹介させて頂きます。

眼科は、緑内障、硝子体、白内障と広い分野で手術レベルが高いことが特徴です。常勤4名、非常勤4名の合計8名で診療を行っており、そのうち5名は日本眼科学会認定専門医です。手術件数は緑内障年間約100件、硝子体約150件、白内障約600件です。

また、難治性緑内障に適応となるチューブシャント手術をはじめとして、各種のインプラント手術も積極的に行っておりその手術数は200件を超えています。

地域に密着した医療を心がけていて網膜剥離や緑内障発作といった緊急疾患にも対応しています。2016年(平成28年)度には手術枠を増やし、患者さんが手術を待つ時間を短縮しました。

泌尿器科は、尿路結石の治療を得意としています。尿路結石はどんな状態のものでも対応します。

泌尿器科での年間の治療実績は、レーザーや内視鏡を使う経尿道的尿路結石砕石術(f-TUL)が約80件、体外衝撃波結石破砕術(ESWL)が約60件です。患者さんの状態に合わせて最適な治療方法を選択しています。検査の際には可能な限り、痛みなどの苦痛がないよう配慮をしています。

当院では、医師や栄養士、臨床検査技師、理学療法士、薬剤師、歯科衛生士などが参加する糖尿病チームを結成し、糖尿病患者さんのサポートを行っています。

糖尿病は、進行すると網膜症や腎症、神経障害、動脈硬化といった合併症を引き起こすので、予防・悪化しないように自覚症状がなくても早期からの対応が重要です。糖尿病チームによる毎月2回の「糖尿病教室」のほか、最新の検査(24時間連続血糖モニタリングなど)や治療(食事・運動・薬物療法)を積極的に実施する「血糖コントロール入院」も行っています。
また、当院には眼科や循環器内科、腎臓内科、血管外科もありますので、合併症を起こした場合の対応も万全です。くわえて、高度肥満、難治性の脂質異常症などの診療も行っています。

横浜市では、今後、20~30年は高齢者が急激に増えることになっています。当院はそのような高齢社会を支えるために、地域包括ケアシステムの強化に力を入れています。

2017年4月には総合診療科を開設し、ご高齢で複数の疾患を抱える患者さんの診療を行っています。

総合診療専門医制度の指導医資格を持つ医師が担当しています。具体的には、どの診療科を受診すればいいかわからないという方や、初めて当院を受診する方、さまざまな症状を抱えていたり、心に問題を抱えたりしている方の対応を行っています。

2018年(平成30年)度から総合診療専門医の養成にも本格的に取り組みます。

当院では、2016年9月に地域包括ケア病棟(通称:さくら病棟)31床を開設しました。この病棟の役割は複数ありますが、患者さんの在宅復帰支援が特に重要です。急性期治療がひとくぎりついた患者さんのリハビリテーションが中心になります。このため、整形外科やリハビリテーションセンターとの密な連携が欠かせません。また、最近、誤嚥性肺炎で亡くなる方が増えていますので、呼吸器内科はもちろん、耳鼻咽喉科や口腔外科との連携も重要となっています。一時的に在宅療養が困難になった方のためのレスパイト入院も行っています。

さくら病棟の稼働率は90%程度に保たれています。総合診療医のほか、看護師やリハビリのセラピスト、医事課職員、MSWなども一緒になって、多職種が連携する形で患者さんの診療や退院支援にあたっています。

当院では訪問看護ステーションを設置し、11名のスタッフで100~120名/月の療養者を支えています。そのうち7割の方が24時間体制の訪問看護を受けています。この規模は、JCHOグループ内でもかなり大きいものです。年齢層は幅広く、20代から105歳の方まで利用されています。もっとも多いのは心疾患で、呼吸器疾患や悪性新生物がこれに続きます。

住宅の多い保土ケ谷区では訪問看護ステーションがとても重要な存在となります。保土ケ谷区医師会の訪問看護ステーションとも連携しながら、質の高い看護の提供を心がけています。高齢社会では、在宅医療や総合診療を担当する医師が訪問看護と共に在宅での医療や療養を支えることになると考えています。

横浜市全体でみても、高齢化にともない病床数は急性期を含めて約7,000床不足すると推定されています。今後は在宅医療を進めていくことになっていますが、問題の解決は容易ではないと思われます。病状が急に悪化して、訪問診療や看護のみでは対応が難しいこともあるでしょう。医師の指示で特定の医療行為を行えるような看護師の養成も進められていますが、それでも今後20~30年ほどは高齢者が急増するため対応は困難なように思われます。

また、地域包括ケアシステムを構築・推進するには、医療と介護に携わる人が連携して力を合わせるよう求められています。しかし、それでもなおパワー不足ですから、患者さんの家族の方や近隣の方たちの力もお借りする必要があります。

このような問題にどう対応するかが、課題のひとつだと考えています。

神奈川県では、県西地域や三浦半島地域で、今後、人口が減っていくと予測されています。横浜市保土ケ谷区でも少しずつ人口が減っています。しかし、全国的にみれば減少のスピードは極めて緩やかなので、高齢人口の割合は増えますが影響は比較的小さいと思われます。

今後、各年齢層の方の移動や出入りがどのようになるかも重要課題です。横浜市は交通網が発達しているためとても暮らしやすい街です。しかし、ご高齢になったときもこの地にお住まいになるとは限らないでしょう。たとえば、高齢者が施設に入るとなると、別の地域に移動されることも多いだろうと思います。

後藤 英司先生

当院は地域の方々が親しみを抱いていただけるよう、敷居の低い病院でありたいと考えています。糖尿病慢性腎臓病高血圧心臓病教室、看護の日など、さまざまな院内イベントを通して地域の方々とスタッフが交流し、健康上の問題が生じた場合には気軽に受診していただきたい。そのためにも、幅広く診療できる総合診療マインドをもった医師が必要です。患者さんのさまざまな苦しみや悩みに対応できる病院が求められています。そういう環境を整えていきたいと考えています。

ただ、横浜での地域医療は全国的なものとは少し違う形になるだろうと考えています。各診療科の専門医が集まっていますし、高度医療を提供する病院もたくさんあります。複数の専門医が関わるレベルの高い都市型の地域医療の提供が求められているように思います。このような医療システムの構築は決して容易ではないと思いますが、時間をかけて、横浜市や医師会とも連携して地道に取り組んでいきたいと考えています。

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