院長インタビュー

周囲の人に相談しにくい病気だからこそ誠意を大切に―くにもと病院の取り組み

周囲の人に相談しにくい病気だからこそ誠意を大切に―くにもと病院の取り組み
安部 達也 先生

医療法人健康会くにもと病院 院長

安部 達也 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年10月22日です。

北海道旭川市にあるくにもと病院では、大腸肛門病診療をメインに取り組んできました。地域全体で高齢化が進行していることを受けて、排便障害への対応、地域医療や福祉・介護をつうじた医療サービス提供のほか、ケアの重要性発信にも注力しています。

院長の安部達也先生に、病院の特色と診療体制、高齢化が与える影響と対策などについてお話を伺いました。

 

病院外観(くにもと病院よりご提供)

当院は、1991年に「くにもと肛門科」として開業、2000年に「くにもと病院」へと名称を変更しました。

開院以来、患者さんが抱える大腸や肛門の悩みを解決することで、その方に自分らしい生活を取り戻していただくことを目標に診療を続けてきました。開院当初はの診療が中心でしたが、高齢化の進行と影響を受けて排便障害の治療にも注力しています。

 

医師集合写真(くにもと病院よりご提供)

お尻を人目に晒すのは恥ずかしいと感じる方が多いです。特に痔ではドラッグストアなどで治療薬が販売されていることもあり、市販薬を使用するなど策を尽くしてみたものの、症状が改善しなかったり、むしろひどくなったりした方が、やむを得ず肛門外科診療の看板を掲げている医療機関を受診されることが多いです。

そのため診察に際しては、病変や異常を見落とさないようにしつつできるだけ早く切り上げる、痛みを伴うような方法はとらない、患者さんが痛がる素振りを見せれば無理に器具を入れないなど、患者さんにとって辛い診療とならないよう細心の注意を払っています。

加齢による筋力低下は、便失禁や便秘などの排便障害を引き起こすことがあります。排便障害はときに、外出が嫌になってしまい家にこもりがちになる、白っぽい色の服を着るのをいやがるようになるなど、生活への悪影響をきたすことも多いです。

日本全国で高齢化が進行しています。もちろん当院のある旭川市も例外でなく、排便障害に悩む方は今後増加していくだろうと考えています。

排便障害は、持病や手術の後遺症、加齢などさまざまな原因によって引き起こされます。患者さんそれぞれに適切な治療方法を提供して、人知れず悩む患者さんのQOL(生活の質)維持に貢献できるよう努めています。

 

安部先生近影(くにもと病院よりご提供)

当院が手がける大腸肛門病とは、消化管の出口にあたる肛門・直腸、大腸に生じた異常の総称です。代表的なものとしては、疾患、直腸脱、下痢や便秘・便失禁などの排便障害大腸がん炎症性腸疾患などがあります。

治療では、病気による痛みや精神的な負担に配慮しつつ、できるだけメスを入れない治療法での根治を目指します。

診察や大腸内視鏡検査の結果、がんなど悪性疾患が疑われるようであれば、近隣の高次医療機関をご紹介させていただく場合もあります。

消化管の出口にあたる肛門には負担がかかりやすいため、痔やその前段階にあたる肛門周囲膿瘍などを起こしやすいです。また筋力低下が影響して、肛門の外に腸が出てきてしまう直腸脱(臓器脱)を起こすこともあります。

痔は肛門および肛門周囲に生じた異常の総称です。痔核(いぼ痔)、痔瘻(あな痔)、裂肛切れ痔)などの種類があり、ほとんどは良性ですが、ときに悪性のものもあります。症状が軽度であれば、軟膏や坐薬などの外用薬と緩下剤や抗菌薬といった内服薬で治療します。進行しているようであれば手術も検討します。

近年では、メスを使わず注射で痔核を治す硬化療法や、結紮切除術と組み合せた硬化併用療法など、身体への負担をより軽減した治療方法も開発されており治療の選択肢が広がっています。

 

検査室(くにもと病院よりご提供)

排便障害には、便秘や自分の意志に関係なく便を漏らしてしまう便失禁、おならが我慢できないガス失禁などがあります。

排便障害の原因は多岐にわたるため、問診や検査で原因を特定したうえで、食事や生活習慣指導による保存療法、服薬による薬物療法などを選択して症状の改善を目指します。特に高齢の方では筋力低下が関連していることもあるため、バイオフィードバック療法と呼ばれる括約筋訓練や、肛門管電気刺激療法あるいは仙骨超音波刺激療法といった保存療法を優先することも多いです。

下肢静脈瘤と呼ばれる、ふくらはぎや太ももにある静脈の拡張や蛇行の治療も行っています。

下肢静脈瘤は遺伝や立ち仕事、女性なら妊娠や出産が発症リスクとなることが多いです。見た目の問題のみでなく、足のだるさや疲れやすさ、むくみ、痛み、かゆみなどの症状を招きます。

足の血管が年々目立つようになってきたようであれば、一度当院にご相談ください。

開業してから20年以上にわたって大腸肛門病診療を続けてきて、一定の効果を上げてきたことに加え、ウォシュレットや市販薬の使用によるセルフケアが浸透したこともあり、患者さんの数は年々減少傾向にあります。

当院では、地域全体での高齢化進行を受けて、地域包括ケアシステムを念頭に置いた福祉・介護サービスの提供にも着手しています。地域包括ケアシステムとは、高齢の方が住み慣れた地域で自分らしく生活することをサポートするための仕組みです。

当院では訪問診療クリニック、訪問看護ステーション、グループホームなどの関連施設の運営を開始、グループ全体で医療・福祉・介護サービスを総合的に提供しています。

を抱えている方は年々減少傾向にあるものの、高齢化による排便障害は今後増加していくと考えられています。

近年では生活習慣の変化が進んだこともあり、躑踞スタイルと呼ばれる和式トイレを使用するときのポーズに代表されるようなトイレトレーニングの機会も減少してしまいました。そのため子どもを含め家族全員が、出そうで出ない、排便しても残っている感じがしてスッキリしないといった「隠れ便秘」に悩んでいることも珍しくありません。また毎日必ず1回は排便しなければならないという思い込みにより、下剤を服用して無理に排便しようとする方も見受けられます。

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医療技術が進歩したことで「人生100年時代」とも呼ばれるようになりました。長い人生をより豊かに自分らしく過ごすため、健康が持つ意味とその価値は非常に大きいといえるでしょう。

排便はご自身の生活習慣を写す鏡のような存在です。歯の磨き方を習うように、正常な排便とお尻の拭き方や洗い方といったケアを知ってもらう必要があると考えています。

異常があると感じた方が「よし、病院で相談しよう」と考え行動にうつしていただけるように、やがて「旭川市の人は痔や排便障害が少ない!」と認識していただけるような土壌づくりに貢献していきたいと考えています。