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『ネクストリボン2020』イベントリポート

『ネクストリボン2020』イベントリポート
メディカルノート編集部 [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

がんとの共生社会を目指すイベント『ネクストリボン2020』(主催:公益財団法人 日本対がん協会、株式会社朝日新聞社)が、世界がんデーに合わせて2020年2月4日(火)、品川グランドセントラルタワーで開催されました。イベントは前後半の2部制で、第1部はシンポジウム“がんとの共生社会を目指して ~企業の働き方改革で共生社会実現へ~”、第2部はトーク&ライブ“がんについて語ろう ~がんとともに生きる、寄り添う~”でした。

本記事ではがん経験者の体験のみならず、職場の上司、経営者の思いを語った第1部シンポジウム“がんとの共生社会を目指して ~企業の働き方改革で共生社会実現へ~”をリポートします。

  • 金澤 雄太(かなざわ ゆうた)さん(株式会社ジェイエイシーリクルートメント がんサバイバー)
  • 春野 直之(はるの なおゆき)さん(株式会社ジェイエイシーリクルートメント 金澤さんの上司)
  • 高橋 都(たかはし みやこ)さん(国立がん研究センターがん対策情報センターがんサバイバーシップ支援部長)
  • 上野 創(うえの はじめ)さん(株式会社朝日新聞社 東京本社教育企画部ディレクター)

金澤さん:がんが見つかったきかっけは、おなかが痛く薬をもらいに受診したことでした。検査すると、炎症反応が通常時の10倍くらい。レントゲンを撮ると盲腸はかなりひどい状態で、入院し手術をしました。盲腸の病理検査中にがんが発見され、虫垂がん(ステージ2b)と告知されました。抗がん剤治療を含めると都合4回休職しました。初めて復職した際に上司に相談したところ、「金澤はどうしたい」と聞いてくれました。最初は体力に不安があったので、時短にしてほしいということを含めてさまざまな要望を伝えました。上司は、働き方について理解を示してくれ、「チャレンジしてみよう」と提案されました。働くうえで、フレックス勤務や、有給の半日取得が可能だったのは助かりました。組織とのつながりという点でも、休職期間中も人事から毎月社内報を郵送していただきました。上司ともメールやSNSを通じて密にコミュニケーションが取れたので、関わり方がよかったです。

春野さん:当初は別の者が金澤さんの上司で、私が引き継ぐことになりました。当社では、規律を重視したうえでの自由を大切にしているので、金澤さんの意思に委ねる対応をしました。

上野さん:仕事は成果を上げないといけませんが、どうでしたか。

金澤さん:成果・パフォーマンスは結果論のところはありますが、仕事はお客様に価値を提供してお金をいただくことなので、お客様にとって私の病状は関係ないと思っています。また、会社からサポートをしてもらっても、同僚たちとは極力イーブンな関係でいたかったです。

春野さん:前提として、金澤さんをがん患者とは思わなかったです。介護従事者などと同じ“時間に柔軟性が必要な仲間”と思っていましたので、ほかの社員と同様にお客様への価値提供の対価で評価しました。

高橋さん:「どうしたい」と聞いてくれた。それに対して「こうしたい」と言った——。そうしたコミュニケーションを取れていたことが大きかったと思います。そして、働くということの意味や価値というボトムラインが共有されていたのが印象的です。

上野さん:ご家族についてはいかがでしょうか。

金澤さん:家族との関わりについては、入院期間中に娘や身重の妻が毎日見舞いに来てくれましたし、両親もサポートしてくれました。それまで、家族は大好きだけれど仕事も大好き、飲み会も大好きで家に帰る時間が遅いこともありましたが、今はちゃんと朝晩の食事の時間を家族と過ごすなど、優先順位がすごく変わりました。

春野さん:金澤さんとその家族との関係を、意識的につくろうとしていました。どうしても当事者は仕事を頑張りたくなりますが、会社としてはどれだけ無理をしているのかをしっかり推し量らないといけません。そこで、奥様とコミュニケーションを取り、奥様がどう考えているのかを知りました。それは判断する上で非常に貴重な情報でした。金澤さんの奥さんとはなぜか一緒に麻雀をしたりもしました。

金澤さん:そのとき私は子守をしていて、麻雀の場にはいなかったです。

高橋さん:家族ってすごく大事で、1人治療を受ける患者さんがいれば、その背後にはたくさんの家族がいます。

上野さん:病気となったときは、仕事だけではなくて、家族をどうしようとかいろいろ考えます。それは自分の親であっても子どもであっても同じですよね。そうしたときに会社がサポートしてくれると、もっと頑張ろうとなります。

  • 谷口 正俊(たにぐち まさとし)さん(株式会社ワールディング ファウンダー 代表取締役社長)
  • 松下 和正(まつした かずまさ)さん(株式会社松下産業 代表取締役社長)
  • 永江 耕治(ながえ こうじ)さん(株式会社エーピーコミュニケーションズ 取締役副社長)
  • 上野 創(うえの はじめ)さん(株式会社朝日新聞社 東京本社教育企画部ディレクター)

谷口さん:介護、出産、病気などさまざまなことがありますが、当社ではどんな働き方でも受け入れると宣言し、それが実現できる制度を作っています。中小企業はさまざまな面で安定性が低いところがあります。しかし、「当社に勤務していれば、いざというときの保障があり健康や命に関しては守られますよ」と打ち出すことにより社員の定着率が高まり、採用費は低下し、生産性は上がると考えています。

永江さん:10年前に、(精巣腫瘍と)告知された当日に手術をしました。半年後に復職し、再発せず今に至っております。そのがんサバイバーとしての経験を、がんになっても働き続けられる会社になるよう生かしています。たとえば、時間の融通が利くように、1時間単位で休暇を取得できる制度を導入しました。制度も大切ですが、考え方も大切です。ただただ相手のことを考えるというコンパッション(思いやり、深い同情)です。具体的な制度がなくても、「あなたのことをサポートしようとしている」と伝われば、心理的安全性が確保されるものだと思います。私ががんに罹患(りかん)したときに社長から言われたのは、「いつでも戻って来いよ。本当に待っているから」。それだけだったのですが、その安心感が一番大切なことではないかと思っています。

松下さん:当社では、過去10年間でがんが見つかり就労継続した従業員は14人、現在もがんと診断されて就業継続している従業員は9人います。230人の社員数で考えると、この数はごく普通だと思います。当社の取り組みとして実施しているのは、“直接本人や家族と話すこと、主治医・産業医・産業保健師と連携すること、治療を支える家族もサポートすること、社内制度・公的支援を周知すること、病気の理解を促進すること、日ごろの情報収集とニーズを把握すること、会社とのつながり・やりがいを感じてもらうこと”などです。また、直属の上司や人事に相談するのはなかなか難しいことから、ワンストップで解決できる仕組みとして“ヒューマンリソースセンター”を作りました。

講演する皆さん

高橋さん:そのような会社の文化はどうやってできたのでしょうか。

谷口さん:中小企業の強みは、社長が強い意志をもっていれば実現することです。たとえば、介護などでフルタイムでは働くことができない優秀なエンジニアが、出退勤に柔軟性を持たせることで当社に来てくれ、定着しています。これは得だなと思います。

永江さん:罹患当時は社員の平均年齢が低かったことから、がんになったのは私しかいませんでした。会社内でがんのことを公に情報発信していったので、関心を集めるようになり意識が変わってきました。がんに罹患した人が身近にいると知ると、意識が高まりやすくなるのではないかと思います。

松下さん:がんなどの病気になっても結構働けます。社員が20人、30人くらいのときから、けがや病気になっても働くことは当たり前でした。むしろ、がんになっても働けるのになぜ辞めちゃうんだろうというのが正直なところです。建築を勉強する、現場を経験する、資格を取るなどして学んでいれば、現場で動けなくなっても本社で見積もりを取ったり施工図を引いたり、さまざまなことができます。何か一つだけしかできないと転用が利かなくなりますから、学び方を考える必要があると思います。

上野さん:きちんとした制度と社内の雰囲気・風土の二つがあると、働きやすくなりますよね。

  • 古出 眞敏(こいで まさとし)さん(アフラック生命保険株式会社 代表取締役社長)
  • 山名 昌衛(やまな しょうえい)さん(コニカミノルタ株式会社 代表執行役社長兼CEO)
  • 竹下 隆一郎(たけした りゅういちろう)さん(ハフポスト日本版 編集長)

古出さん:今から46年前の1974年、がんが“不治の病”と恐れられていた時代。私たちは日本初のがん保険を発売しました。そのときから変わらない信念があります。がんで苦しむ人々を経済的な苦しみから救いたい、ということです。そうした信念のもと、日本で唯一のがん経験者向けがん保険“生きるためのがん保険 寄りそうDays”を2016年に発売しました。

私たちは、がんに関する社会的課題に対するソリューションとして、総合的な支援を行うキャンサーエコシステムの提供もしております。たとえば、がんと向き合っている人にとってがん経験者同士が多種多様な情報を交換できるSNSサービスが必要だと考え、SNSサービス“tomosnote(トモスノート)”を開発しました。

次に、アフラック社内の取り組みをご紹介させてください。私たちは、社員ががんや病気にかかっても安心して働けるよう相談、両立、予防の三つの領域で、がん・傷病就労を支援するオールリボンズというプログラムを実施しています。両立という領域では、働きながら治療に専念できるよう、がん治療のためなら無制限に休暇を取得できることや、時間と場所の制約をなくし治療と仕事の両立を図っています。こうした取り組みは、ダイバーシティや働き方改革のために進めてきたものが基になっており、全社員が当たり前に利用できる制度です。がん治療で会社を辞めさせないために、強い気持ちで進めています。

アフラック社内だけにとどまらず、がんや病気にかかっても自分らしく働ける社会の実現のために、私たちの取り組みを多くの企業に広めていきたいと考えております。お客様の医療をつくるリーディングカンパニーとしてがんとの共生社会実現に取り組み、一人ひとりが自分らしく充実した人生を送ることができる社会を実現する。それが私の使命であると強く思っています。

講演する皆さん

山名さん:当社は創業時に扱っていたカメラや写真から撤退をして技術を磨き続けてきました。世の中の社会課題を深く洞察して、課題解決する。受け身の解決ではなく、自ら定義して解決していく力を持つことが、結果として企業が豊かな社会をつくっていくことに突き当たるのだと思っています。

当社の医療や介護の取り組みは、プレシジョン・メディシン(精密医療)、個別化医療、個人個人の治療のためにデジタルと技術を提供していくことです。個別化医療の一例ですが、薬が効かない副作用の苦しみを低減させることが社会課題だと考え、がんに罹患された方のたんぱく質を分子レベルで解析して、投薬の効き具合を判断できるような技術の開発に成功しました。

竹下さん:取り組んでいること、また、その取り組みに対しての思いや原点を教えてください。

古出さん:がんに罹患した社員のサポートを組織的かつ社員の目に見える形で進めていくプログラムを始めました。特に一番力を入れたのは、社内で言い出しやすくすることです。就労支援プログラムを作り、言い出しやすい環境をつくるといっても、話したくないという人もいますから、社員の気持ちを真っ先に優先しないといけません。

具体的には、普段からがんに罹患した人だけでなく社員のみんなが会社の中の制度を知っておくことが大切と考え、ハンドブックを作り、全社員に配りました。管理職の全員に、部下から告知されたときにどうやって対応するのかのロールプレイングを受講させました。皆さんなら部下に対して何と言いますか? 私たちは、「ありがとう」と言ってくださいと伝えています。「勇気をもって言ってくれてありがとう」、まずその一声からです。社員はがんになったと言って大丈夫だろうかと不安に思っていますので、そう言われることでほっとし、安心して治療や仕事の相談ができるようになります。治療のことなどで不安になっているところに「大丈夫か?」と言われたら、不安が増幅されてしまいます。ですから、まずは「ありがとう」です。

山名さん:会社で進めている健康経営の課題は、定期健康診断でハイリスクとされたにもかかわらず精密検査に行かない人がいることです。健保組合と人事部と会社の産業医が三位一体となって、職場単位できめ細かく粘り強く受診を促すようにしています。また中期計画に健康経営中期計画を組み込んでいます。3年後の数値目標を決め、PDCAで短期的に回す企業の経済活動と同じことをします。いろいろなやり方を議論し可視化することが大切だと思います。企業経営者の目標には経済的な利益を上げ株主に返すことなどもありますが、最大のテーマは、働いている人材のやりがいをいかに引き出すかだと思います。そのやりがいは個々人が健康であることによって引き出されます。健康経営のために企業がどういう施策を整備しうるのかを、一企業を超えて産業界を超えて連鎖し発展させることが大切だと思います。

  • 高橋 都(たかはし みやこ)さん(国立がん研究センターがん対策情報センターがんサバイバーシップ支援部長)
  • 竹下 隆一郎(たけした りゅういちろう)さん(ハフポスト日本版 編集長)
  • 上野 創(うえの はじめ)さん(株式会社朝日新聞社 東京本社教育企画部ディレクター)

竹下さん:日本の企業は、お客様だけでなく社員にも、多様、臨機応変、柔軟にクリエイティブに対応していかなければいけないのだなと思いました。今まで日本の経済社会は、同じような人が同じようなタイミングで同じような価値観を持って入ってくることが前提でしたが、現代ではお客様、社員のニーズが多様化している。それが転じて企業の強みにつながっていくのだなと感じました。

上野さん:人口が減少していく社会が、がんに罹患した社員をどうにかして組織で生かしていこうと変えていったのではないでしょうか。

竹下さん:ヒューマンリソースの分野では、かなり日本が先進的になってきていると思います。日本の企業社会は元気がないといわれていますが、社内をどういう風にマネジメントするのかということはかなり日本が最先端で、将来輸出というか、他の国に転用・応用できるのではないかと思いました。

高橋さん:“健康経営”という言葉はよく耳にしますが、今日話を聞いていて、経営課題なのだなと思いました。私は研究者としてこの10年取り組んできましたが、本当に変わってきたなと実感しています。

上野さん:周りに「がんになりました」と言うのは、今も難しいと思います。

高橋さん:がんになったときに、4割の人が診断から最初の治療開始までの間に辞めてしまう。びっくりして離職をしてしまいます。自分が失う権利に思い至らずお辞めになってしまうことは防がなくちゃいけないと思うのですが、がんになることは、それほどびっくりすることです。その状況で「私はがんになりました」と言うことは、今でも高いハードルであることに変わりはないと思います。自分の状況をきちんと説明しようとする姿勢、そして説明しやすくする環境とコミュニケーションと信頼感が、とても大事なことだと思います。

竹下さん:まず「Yes」と言い、受け止めるというのは、最近のマネジメントでも注目されています。ですが、今までの日本の会社は「Yes, but」なんですよね。分かるけれど、もう少し大きくなってからやろう、経験を積んでからやろう——という猶予が付きますよね。「ありがとう」「Yes」と言うのは、非常に大事だと思います。

講演する皆さん
上野さん:サバイバーシップとは何でしょうか?

高橋さん:私は7年前に立ち上げたがんサバイバーシップ支援部というところに所属しています。就労だけでなくて、がんと診断された後に出てくるさまざまな課題にどう対応するかを研究する部です。国レベルから個人レベルまで、医学レベルから仕事などの暮らしレベルまで取り組んでいます。

上野さん:企業、医療関係の方々は変わりつつありますが、非正規の方々に対しては、解決策を出しにくいのではないかと思っています。

竹下さん:非正規の方やフリーランスの方に対しては、企業が連携してすばらしい制度をお互いシェアしあう社会になっていくでしょうし、そうなるべきだと個人的に思います。

高橋さん:世の中が変わってきていても、何が本当に変わっているのかを、自分の足元を見たときに実感しにくいときはあります。でも、変えられるということを信じていろんな方が動いたことでとても変わってきましたし、これからも変えていければいいなと思います。

上野さん:100%前と同じ状態でパフォーマンスを出せないことは、誰だって起きることです。私はがんでしたが、介護の人もいれば、また別の理由の人もいます。「なんで“がん”ばかり注目されるの」と言われることはありますが、がんを突破口にして、いろんな時代に合った、それぞれの人に合った社会にしていく議論に広げていければよいなと思います。