月経痛(生理痛)で日常生活に支障をきたしているにもかかわらず、つい我慢してしまっていませんか。つらい月経痛がある場合、鎮痛剤(痛み止め)を適切なタイミングで服用したり腹部を温めたりして、しっかりと対策を行うことが重要です。また、月経痛は漢方の分野でいう“血の道症”の1つで、漢方治療も有効であることが知られています。月経痛の基本的な対策や漢方治療を行う際のポイントについて、関西医科大学総合医療センター 産婦人科漢方外来担当の梶本 めぐみ先生に伺いました。
月経の直前から月経中にかけて、子宮内にたまった血液や内膜を押し出そうとして子宮が収縮するために生じる下腹部や腰の痛みのことを、一般的に月経痛といいます。その主な原因といわれているのは、子宮の中から放出されるプロスタグランジンという物質が体内の平滑筋を収縮させることです。プロスタグランジンが必要以上に分泌されると子宮収縮がきつくなるため、強い痛みを感じます。腹部症状だけでなく頭痛、疲労、脱力感、不安感、イライラ、抑うつなどが生じる患者さんもいます。
月経痛の感じ方には個人差がありますが、環境によっても変化します。月経痛が強くなる傾向にあるのは、たとえばストレスにさらされているときや、気温が低く骨盤内の微小血管の血流が悪くなりやすい冬の時期などです。
月経痛には治療を始めるかどうかを決める一般的な指標は特になく、痛みが強いからといって治療が必要とは限りません。自分の月経症状が正常なのか異常なのか考えるうえで一番重要なポイントは、自分の日常生活に支障があるか否かです。月経痛があったとしても心身共に余裕がある環境で養生できるのであれば、それほど問題になりません。
しかし、月経痛のために仕事を休んだり、学校生活や試験に悪い影響があったり、日常生活に支障をきたすほど症状が強い場合には“月経困難症”と呼んで治療の適応となります。
月経困難症には、大きく分けて器質性月経困難症と機能性月経困難症という2種類があり、それぞれ治療方法が異なります。
原因として子宮筋腫や子宮内膜症などの明らかな異常があるものは、器質性月経困難症と診断されます。主な治療方法は手術やホルモン治療などです。
子宮内膜症がある方の場合、軽度だと超音波検査などでは見つからず異常なしと診断されることもありますが、軽度でも月経痛は強いことがあります。月経のたびに症状が悪化することが多いため加齢とともに月経痛は強くなりますが、妊娠中および授乳中は月経がなくなるため、授乳終了後に軽快することもあります。
子宮・卵巣などに特別な異常が認められないにもかかわらず月経痛が強いことも多々あり、これらは機能性月経困難症と呼ばれます。機能性月経困難症であれば、月経によってどのくらい生活に支障が出ているかを確認します。社会生活を送るうえで支障が大きければ、年齢や挙児希望(子どもを望んでいること)の有無を考慮したうえで、鎮痛剤、ホルモン剤のLEP(Low dose Estrogen Progestin:低用量エストロゲン・プロゲスチン)製剤やジエノゲスト、女性ホルモンの分泌を抑えて一時的に閉経後と同じ状態にする偽閉経療法などが主に行われています。
もしも、ホルモン治療に対する不安感や副作用のリスクがあれば漢方薬での治療を検討します。最近では、最初から漢方治療を希望される患者さんも多く、その場合はご希望に合わせて漢方薬の中で効果があるものを探していきます。漢方治療について、詳しくは後述します。
月経前の約3~10日前は、プロゲステロンというホルモンが多く分泌される時期です。そのときにイライラ、むくみ、にきびの悪化など、さまざまな症状が出ることをPMS(Premenstrual Syndrome:月経前症候群)といいます。その中でも特に精神症状が強い場合はPMDD(Premenstrual Dysphoric Disorder:月経前不快気分障害)と呼ばれ、積極的に精神的な治療や精神面のフォローを行うべき病気として近年注目されています。
PMDDは、月経が始まるとともに減退ないし消失することが特徴的です。精神症状があまりにも強く生活に支障をきたすほどの患者さんには、向精神作用のある漢方薬、ピル、抗うつ薬などを用いて治療することがあります。
月経痛のように、女性ホルモンの変化によって起こるさまざまな症状を、漢方の分野では血の道症と呼びます。厚生労働省の一般用漢方製剤製造販売承認基準では「月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のこと」と定義されています。
女性は月経や妊娠・出産で出血したり、更年期で血のめぐりが悪くなったりと、女性ホルモンの変動による血の不足や滞りからさまざまな不調が生じます。男性と比べて女性は血のめぐりが悪くなりやすいという考えから、血の道症という昔ならではの病名が用いられています。
漢方薬を用いた治療を行う東洋医学の考え方の1つに、“気・血・水”という概念があります。気・血・水の3つの要素が体内をバランスよくめぐっている状態を正常とし、流れが悪くなると体の不具合を生じるというものです。
漢方治療では、患者さんの体を見たり触れたりしながら病気のサインを探し、“証”と呼ばれる診断(西洋医学でいう診断名)を行います。具体的には、まず患者さんの全身状態を見て、手首の脈、舌、お腹などの状態を確認していきます。そこで流れの悪い要素が見つかれば、気・血・水のバランスを整える漢方薬を選ぶのが基本の考え方です。
月経痛の場合、原因の1つに骨盤内の微小血管の血流障害があると考えられています。血のめぐりが悪い状態のことを東洋医学では“瘀血”と呼び、月経痛のある患者さんで瘀血の所見が認められれば、血をめぐらせる効果のある漢方薬で治療を行っていきます。
月経痛の強い患者さんでは、西洋薬(西洋医学の薬)の低用量ピルなどで治療を始めたほうがよいと考えられる方もいらっしゃいます。漢方薬には相性があり効きやすい方と効きにくい方がいるため、患者さんの体質や症状に合ったものを選んでゆっくりと治療していきますが、西洋薬はより万人向けで、1つの病気や症状に対する直接的な治療に適しているからです。
西洋薬を使っていても手足の冷え、月経前の腰痛、にきびなどの症状が出る場合は、補うように漢方薬を使うと症状が和らぐことがあります。日本では西洋薬と漢方薬を一緒に処方できるため、西洋薬に加えて漢方薬を用いながら治療していく医師が多くいらっしゃいます。
日本国内の多くの医療機関で使われている漢方薬は、原料となる生薬そのものではなく漢方エキス製剤と呼ばれるものです。これは複数の生薬から抽出される成分を粉末状に加工したもので、種類によって適正な投与量が決まっています。そのため、添付文書のとおりに1日2~3回内服するのが基本となります。
また、漢方エキス製剤には複数の生薬が混合されているため、1回の内服につき1種類が基本です。2種類以上の漢方エキス製剤を一緒に内服した場合は、効果が減弱したり、含まれる生薬の種類が重複して過量摂取となった影響で副作用が起こったりする可能性がありますので注意が必要です。複数の漢方エキス製剤を内服する場合は、内服時間をずらしたり内服回数を減らしたりする調整を行います。
漢方薬の効果は複雑なものです。副作用と思われる症状(胃腸障害や皮膚症状などが多い)を自覚した場合は直ちに内服を中止したうえで、処方した医師に相談することをおすすめします。
患者さんの中には、おいしくない漢方薬を飲み続けているという方もいらっしゃいますが、私はまずいと感じたら基本的に飲むのをやめるよう患者さんにお伝えしています。同じ漢方薬でも、おいしいと感じる人には効果があっても、まずいと感じる人は胃が荒れたり蕁麻疹が出たりと副作用が強く引き起こされてしまうことがあるからです。食べ物も、まずいと感じる人はうまく消化できず体に合っていないからだといいますが、漢方薬もそれと一緒だと考えています。
また、飲む時期によって漢方薬の味が変わったように感じられることもあります。たとえば、月経前には甘く感じて月経が終わると非常に苦くなる場合、まずいと感じたらやめるようにと患者さんにお話ししています。
このように、漢方薬の味を自分で確かめることは大切です。漢方薬を飲むタイミングが食前または食間とされているのも、空腹時に飲むと味が分かりやすいからだといわれています。味は主観的なものなのでデータや論文で示されているわけではありませんが、まずいと感じた漢方薬を中止する飲み方は日常臨床ではよく用いられています。
寒いときは神経が過敏になって痛みが強く感じられるため、体を温めるだけでも血流が改善して痛みは和らぎます。月経痛は子宮の収縮による痛みであり、原因の1つとして骨盤内の微小な血流障害が挙げられるので、特に腹部を保温し骨盤内の温度を上げて血流をよくすることが重要です。月経中は腹巻を巻いて、お腹と腰の2か所にカイロを貼って温めることをおすすめしています。
鎮痛剤(市販薬を含む)は、痛くなる前に飲み始めることが大切です。月経痛があるとき、我慢できないほど強くなってから鎮痛剤を内服しても十分な効果が得られません。月経痛に対して用いられる一般的な鎮痛剤は、痛みの元であるプロスタグランジンの生成を阻害する薬です。痛みがあるときはすでにプロスタグランジンが体内でつくられてしまっているので、その時点で内服しても痛みは軽減しません。痛みの元ができる前に内服し始めて、プロスタグランジンの生成をブロックすることが重要です。
次の2点を守って内服すると、明らかな病気がない機能的月経困難症の患者さんの多くは問題なく日常生活を送れるようになると思います。
・月経痛がある数日間は薬の効果を切らさないよう1日3回しっかり内服すること
・副作用として胃腸障害が起こり得るため、空腹時ではなく食事後に内服すること
また、患者さんからは「鎮痛剤を服用しすぎると効かなくなってきませんか」と質問されることが多いのですが、1か月に数日間内服する程度であれば問題ありません。効かなくなってきたら、子宮内膜症や子宮筋腫などの病気が悪化していることが危惧されるため、婦人科に受診することをおすすめします。
月経痛の個人差が大きいことは、多くの方が実感していることだと思います。自分の月経痛が重いのかどうかを他人と比べることができず、周りの人の手助けを求めることに抵抗がある方も多いでしょうし、月経中だと他人に知られること自体が精神的な負担に感じることもあるでしょう。また、職場や学校など身近に悩んでいる方がいたら思いやる気持ちは大切ですが、痛みの原因が月経ではなくほかの病気という可能性もあるため、月経の悩みに関しては患者さんご自身が主観的に考えて対策を行うことが大切だと思います。
月経痛のことで悩んでいる方は一度婦人科を受診し、子宮内膜症などの病気がないかを調べたうえで、日常生活に支障があるか否かで治療方法を検討していくとよいと思います。
自分の月経に関する症状を客観的に他人と比べることはできません。そのため、何らかの不調があり日常生活に支障をきたしているのなら、一度婦人科を受診し相談することをおすすめします。婦人科の診察では内診*があるため、女性にとって婦人科の受診はハードルが高いとよくいわれます。しかし、早めにかかりつけの婦人科医師を見つけておくと、月経についての相談のみならず妊娠や更年期障害など、思春期から老年期までの長期間にわたるさまざまな体調の変化に寄り添うアドバイスが受けられます。時間と手間はかかりますが、何でも相談しやすく自分と相性のよい医師を探してみることが大切です。
*内診:膣内に器具または指を挿入して行う診察
<漢方外来の受診をご希望の方へ>
当院の漢方外来では、患者さん一人ひとりにじっくりと時間をかけて診察を行っています。1日の診察可能人数が限られるため診察は完全予約制としております。ご予約の際は主治医の紹介状が必要です。受診を希望される方は、まずはかかりつけの産婦人科を通して予約のお申し込みをお願いいたします。
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