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お産の痛みを和らげるには――無痛分娩によるバースプランの実現

お産の痛みを和らげるには――無痛分娩によるバースプランの実現
定月 みゆき 先生

国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 産婦人科 産科医長

定月 みゆき 先生

目次
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無痛分娩は、妊婦さんの痛みに対する恐怖心を和らげ、出産に伴う疲労の軽減が期待できる分娩法として、近年、日本においても普及が進んできました。その一方で、無痛分娩では麻酔薬を使用するなど自然分娩とは異なる点もあり、選択にあたって不安を感じることがあるかもしれません。そこで今回は、国立国際医療研究センター病院 産婦人科 産科医長 定月(さだつき) みゆき先生に、出産時の痛み(産痛)や無痛分娩の特徴などについてお話を伺いました。

出産時には、非常に強い痛みが長時間にわたって続くことから、妊婦さんの心身にとって大きな負担となります。理想の出産に向けてバースプラン(出産計画)を作成する際には、“出産時の痛みとどのように向き合うか”を考えることも重要な要素であり、その特徴や対処方法について理解しておくことが大切です。

出産時の痛みの原因は、主に次の3つであると考えられています。

  • 出産に向けて起こる子宮の強い収縮による刺激(一般的に“陣痛”と呼ばれる)
  • 赤ちゃんが産道を通って降りてくるときに、産道が引き伸ばされることによる刺激
  • 産道を降りてきた赤ちゃんによって骨盤が圧迫されることによる刺激

これらの痛みの刺激は、子宮や腟・骨盤周辺から延びる神経を介して背骨の中にある神経の束(脊髄(せきずい))へと伝わり、そこから脳へと伝達されて、妊婦さんはそれを“痛み”として感じています。

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お産の痛みの刺激と伝わり方

陣痛が始まると、妊婦さんは下腹部から腰にかけて痛みを感じ、その痛みはお産の進行に伴って強くなっていきます。子宮の収縮は生理のときにも起こるため、妊婦さんによっては初期の陣痛の痛みを「生理痛に似ている」「生理のときのように腰が重たく感じる」と話す方もいます。さらに、子宮口が開き、赤ちゃんが産道を通って降りてくる頃になると、骨盤内から会陰部や肛門部を中心に強い痛みを感じるようになり、出産時の痛みはピークに達します。

出産時の痛みの感じ方は、妊婦さんによって個人差があります。たとえば、本格的な陣痛の前に起こる子宮のわずかな収縮で強い痛みを感じる方もいれば、子宮口が大きく開いて赤ちゃんが生まれる直前まで、ほとんど痛みを感じない方もいます。

残念ながら、どの妊婦さんが痛みを強く感じるかを出産前に見分けることはできませんが、出産経験がある妊婦さんは前回のお産と似たような経過を辿る傾向があります。

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画像:PIXTA

順調なお産に欠かせないのは、妊婦さんがうまく痛みを逃しながら、できるだけリラックスした状態を保つことです。しかしながら、繰り返す強い痛みによって妊婦さんが過呼吸になったり、全身に力が入って強い緊張状態が続いたりすると、お産が進みにくくなることがあります。また、長時間にわたる痛みは妊婦さんの体力を奪うため、産後の体の回復にも大きな影響を与えます。

そのため、出産時には部屋の照明を少し落とし、気持ちが落ちつく音楽を流すなど環境を調整するほか、マッサージや入浴によって妊婦さんの緊張をほぐすなど、妊婦さんがリラックスして出産に臨めるような工夫が行われています。また、出産前にソフロロジーと呼ばれるリラックスを促す呼吸法を練習しておくことも役立ちます。

さらに、麻酔を使って痛みを緩和する無痛分娩も有効な手段です。無痛分娩では痛みというストレスそのものが緩和されることから、妊婦さんは落ち着いた状態で出産に臨むことができ、疲労が少なく産後の体力を温存できると期待されます。

無痛分娩には、用いる麻酔によりいくつかの種類がありますが、一般的な方法は硬膜外麻酔を用いた無痛分娩です。

硬膜外麻酔とは、脊髄を通じて脳に痛みの刺激が伝わらないように、麻酔薬を使って一時的に伝達経路をブロックする方法です。

この方法は、神経に対して麻酔薬を直接投与して麻痺させるのではなく、脊髄の神経を取り巻く“硬膜外腔”という空間に細いカテーテル(直径1mm程度の管)を入れ、そこに薄い麻酔薬を注入することで痛みの刺激が伝わるのを防ぎます。

また、麻酔薬を入れるためのカテーテルは、子宮からの痛みの刺激が伝わる腰椎部分(腰のあたり)に挿入され、そこで部分的な麻酔を行います。麻酔の範囲は、お産で強い痛みを感じる下腹部を中心とした下半身のみに限定されることから、妊婦さんは意識を保ったまま出産を迎えることができます。

PIXTA 加工:MN
無痛分娩における硬膜外麻酔のしくみ 画像:PIXTA 加工:メディカルノート

当院の無痛分娩では、痛みがない状態を0、もっとも激しい痛みを10とした場合に、硬膜外麻酔によって3未満に緩和することを目標にしています。具体的な目安は“多少の痛みは感じるものの、好きな本を読んでいられる、スマートフォンに自分で文字を打ち込むことができる”程度で、中にはほとんど痛みを感じることなく出産に至る方もいます。なお、お産の痛みの感じ方は個人差が大きいことから、妊婦さんの痛みの状況に合わせて麻酔薬の量を調節しています。

また、硬膜外麻酔のカテーテル挿入と麻酔薬の投与・調節が終わった後は、妊婦さんの手元には追加の麻酔薬を投与するためのボタンが置かれ、痛みに応じて妊婦さん自身が麻酔薬を追加することも可能です。

ただし、出産の最終盤で、赤ちゃんが産道を通り、その頭が強く骨盤に押しつけられるところまで来ると、硬膜外麻酔だけでは痛みを十分に取ることができない場合があります。この場合には、脊髄のくも膜下腔と呼ばれる空間に麻酔薬を注入する脊椎麻酔(脊髄くも膜下麻酔)を追加することがあります。

無痛分娩による出産であっても、自然分娩と同様に、妊婦さん自身がいきんで赤ちゃんを産み出さなければなりません。そのため、硬膜外麻酔を行う際には、妊婦さんが自分の力で体を動かせるように麻酔薬の量を調節しており、妊婦さんは赤ちゃんが降りてくる際にお腹の張りを感じたり、自分の力でいきんだりすることもできます。

無痛分娩によって痛みが小さくなると、いきむタイミングをつかむのが難しいと感じる妊婦さんもいらっしゃいますが、出産時には医師や助産師がお腹を触ったり、モニターを確認したりしながらアドバイスを行いますので安心してください。また、事前の助産師外来でも、出産時のいきみ方やタイミングなどについて指導を行っています。

無痛分娩は、自然分娩に比べると痛みによるストレスが軽減されるため、医学的には妊娠高血圧症候群のような血圧の高い妊婦さんや、心臓や肺の具合が悪いなど、いきむことが難しいような方に適した分娩法とされています。また、痛みに弱い方、パニックになりやすい方などにとっては、よい選択になるでしょう。最近では、高齢出産の増加などを背景に、出産での体力の消耗を軽減して産後の回復を早めたい妊婦さんが選択するケースも多くなりました。

一方で、無痛分娩を希望しても実施することが難しいのは、麻酔薬に対してアレルギーのある方や、血小板数が少ないなど血液の凝固系に異常がある方などです。また、背骨に変形がある方や皮膚の感染症や髄膜炎がある方などは、麻酔を投与するためのカテーテルを挿入することが難しいため、硬膜外麻酔による無痛分娩を行うことができません。

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