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無痛分娩を安全に行うために――自然分娩との違いや安全性を正しく理解して納得の選択を

無痛分娩を安全に行うために――自然分娩との違いや安全性を正しく理解して納得の選択を
定月 みゆき 先生

国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 産婦人科 産科医長

定月 みゆき 先生

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欧米諸国に比べると、日本での普及が遅れていた無痛分娩ですが、最近は日本でも無痛分娩に対応できる医療機関が増え、妊婦さんにとって身近な選択肢の1つになりつつあります。妊婦さんの負担を軽減できる無痛分娩ですが、自然分娩とは異なる部分や麻酔を使うことによる副作用の可能性もあるため、その特徴を十分に理解したうえで選択することが大切です。そこで今回は、国立国際医療研究センター病院 産婦人科 産科医長 定月(さだつき) みゆき先生に、無痛分娩を安全に行うために、妊婦さん・ご家族が知っておきたいことについてお話いただきました。

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近年は、日本でも“無痛分娩”という言葉を耳にする機会も増えつつありますが、それでも日本で行われた分娩全体の8.6%を占めるに過ぎません(2022年度調査)1)。欧米では、全分娩の7割前後が無痛分娩で行われている国がある2)ことを考えると、日本での普及はまだ途上にあるといえるでしょう。

一方で、妊婦さんが望む出産の実現を目指し、無痛分娩に取り組む日本の医療機関は増えています。2020年時点では、全国で500を超える医療機関で無痛分娩が行われており1)、妊婦さんが無痛分娩を選択しやすい環境が広がってきました。

1)無痛分娩関連学会・団体連絡協議会. わが国の無痛分娩の実態について(2020年度医療施設(静態)調査の結果から)

2)日本産科麻酔科学会. Q19. 海外ではどのくらいの女性が硬膜外無痛分娩を受けているのでしょうか?

麻酔を使用する無痛分娩では、痛みを緩和することができるだけではなく、自然分娩とは異なる影響もあります。妊婦さんが理想の出産を叶えるためには、それらの違いや安全性などを理解したうえで、それぞれの希望や価値観に合った分娩法を選択することが大切です。

無痛分娩は、すでに国内外で用いられている分娩法ですが、過去には無痛分娩中の事故によって妊婦さんが亡くなるといったニュースが世間を騒がせたこともあり、出産の際に麻酔薬を使うことに対して不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。

しかしながら、その後、厚生労働省による無痛分娩に関する調査・研究が行われたり、麻酔科医の協力の下で、無痛分娩を安全に行うためのマニュアルが作成されたりするなど、さまざまな対策が取られたことで、その安全性は向上しつつあります。たとえば、2010~2016年に日本で行われた分娩を対象とした調査では、全国で271人の妊産婦さんが亡くなったことが明らかとなりましたが、このうち無痛分娩を行っていたのは14人(5.2%)で、その原因の内訳は大量出血が12人、感染症が1人、麻酔が1人でした。

硬膜外麻酔を用いた無痛分娩において、命に関わる事故につながる主な原因には、高位脊髄(せきずい)くも膜下麻酔(麻酔の効きすぎ)と麻酔薬による中毒があります。これらは麻酔薬を投与するためのカテーテルが正しい位置に挿入されなかったり、麻酔薬の量が多くなりすぎたりすることにより生じます。

当院では、硬膜外麻酔のためのカテーテルの挿入は日本専門医機構認定の麻酔科専門医*が担当し、麻酔中の急なトラブルにもすぐに対応できるよう、平日の日中(2023年2月時点では月・水・木曜日)に無痛分娩を行っています。

さらに、麻酔が適切な範囲(おへそから下の部分)にのみ効いているか判定する基準を設けて、麻酔が効きすぎていないかということについても厳しくチェックします。もし麻酔が基準を越えた範囲に広がっている場合には、ただちにカテーテルを入れ直すなど、慎重に対応してきました。もちろん、麻酔中は心電図や呼吸モニタなどを使って、常に妊婦さんの状態を把握し、異変を検知したら、すぐに対処できるように体制を整えています。

また、妊娠中に妊婦さんが通う助産師外来では、無痛分娩をスムーズに行うために、出産時の体位の取り方やいきみ方のコツなどを指導していますが、それに加えて、硬膜外麻酔による影響や麻酔が効きすぎてしまった場合の症状について学ぶ機会もあります。麻酔薬による中毒の初期症状の中には、妊婦さんでなければ気付くことのできない“口の中が苦い”といったものもあり、妊婦さんと医療スタッフが協力しながら、早期の対応につなげていくことも大切だと考えています。

*麻酔科専門医:春木 えりか先生他

硬膜外麻酔に用いる麻酔薬により、以下のような症状を認めることがあります。

  • 足の力が入りにくい
  • 血圧が下がる
  • 尿を出しにくい
  • 皮膚のかゆみ
  • 吐き気や嘔吐
  • 発熱

これらの症状が認められた場合には、皮膚のかゆみに対してはかゆみ止めの処方、尿を出しにくい場合にはカテーテルで導尿するなど、症状に合わせた対処を行います。

硬膜外麻酔のためのカテーテルを硬膜外腔に挿入することが原因で起こる不具合もあります。

たとえば、カテーテル挿入用の針が脊髄を包んでいる硬膜を傷つけ、穴を開けてしまうと、その中を満たしている脳脊髄液が漏れ出てしまうことがあり、それが原因で頭痛を起こすことがあります(頻度は100人に1人程度)。通常は安静などにより改善していきますが、症状が強い場合には治療を行います。

また、数万人に1人程度と頻度は限られていますが、麻酔薬を入れる硬膜外腔に血の塊やがたまって神経を圧迫することがあります。場合によっては、血の塊や膿を取り除くための手術が必要になることもあります。

帝王切開は、陣痛促進剤を投与しても出産が進まない場合や、赤ちゃんが生まれるよりも前に子宮内で胎盤が剥がれてしまう常位胎盤早期剥離、赤ちゃんが産道からうまく降りてくることができない場合など、経腟分娩が難しいと考えられる場合に行われる手術です。

帝王切開への移行については、無痛分娩で増えることはないと考えられています。

器械分娩は、お産がある程度進んだ際に、なんらかの理由により赤ちゃんが産道から降りてくることができない、妊婦さんの血圧が高いなど、母子に危険があると判断されたときに行われる医療行為です。具体的には、吸引カップを赤ちゃんの頭につけて吸引したり、鉗子(かんし)と呼ばれる器具を使って赤ちゃんの頭をはさんで引き出したりします。

無痛分娩を行うと陣痛やいきむ力が少し弱まる可能性があり、出産の進行がやや遅くなることがあるため、器械分娩を使用する割合は若干高まるといわれています。

画像:PIXTA 加工:MN
器械分娩の種類 画像:PIXTA 加工:メディカルノート

無痛分娩に用いられる硬膜外麻酔は、低い濃度の麻酔薬を妊婦さんの硬膜外腔という限られた場所に投与する麻酔法です。そのため、麻酔薬そのものが赤ちゃんに及ぼす影響はほとんどないと考えられています。

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