福岡市南区にある九州がんセンターは、設立された1972年に九州で唯一のがん専門医療機関として開設されました。当院は都道府県がん診療連携拠点病院として専門的ながん診療を行う一方、患者さんやご家族に寄り添う姿勢を開院当初から大切にしています。
そんな同センターが担う役割や独自の取り組みについて、院長である森田 勝先生にお話を伺いました。
当センターは27の診療科と411床の病床を有するがんを専門とする病院です。1972年に前身である国立福岡南病院から九州がんセンターへと名称が変更になり、これまで50年以上にわたってがん診療に特化した医療を展開してまいりました。2016年には新病院が完成し、今後よりいっそう充実した医療をご提供できるように目指しています。
当センターは福岡県の都道府県がん診療連携拠点病院に指定されており、患者さんの様々な症状に対して、手術療法、放射線療法、化学療法(抗がん薬治療)の3大療法を兼ね備えた集学的治療のご提案を行うほか、ゲノム医療や緩和ケアなどにも幅広く対応しています。
がんの治療には手術療法、放射線療法、化学療法(抗がん薬治療)の、大きく3つの治療法があります。このうち手術療法については、開腹手術よりも患者さんの体への負担が少ない手術が主流になっており、当センターにおいても腹腔鏡や手術支援ロボットを用いた低侵襲手術を実施しています。手術支援ロボット・ダヴィンチを使用した手術は年間200症例を超えるまでになり、食道・直腸などの消化器がん、前立腺・膀胱などの泌尿器がん、呼吸器がんや婦人科がんなどに対し、行っています。
一方の抗がん薬治療については、当院と併設する化学療法センター(ベッド20床・リクライニング6床)にて外来診療が可能であり、1日平均約50人の患者さんが治療を受けています。外来で治療を受けられるとはいえ、治療は長時間に及ぶため、医師や薬剤師、専従の看護師、との連携のもと、患者さんがリラックスできるような環境づくりを心がけています。このほか高精度放射線治療センターは公益社団法人の日本放射線腫瘍学会から安全かつ高精度の放射線治療に関する基準を満たす施設として認定されており、強度変調放射線治療(IMRT)の装置が3台あります。
このように、当院のがん治療は3大療法による集学的治療から低侵襲手術などの新しい治療まで幅広く対応することに努めています。
高齢化社会が進む日本においては、高齢のがん患者さんに別の病気が見つかり、お体の状態によっては手術が難しいケースが増えつつあります。このような患者さんの身体機能、認知機能、栄養状態などを総合的に判断し、一人ひとりに適した治療をご提供するため、当センターは2018年に日本のがん専門病院としては初となる「老年腫瘍科」を立ち上げました。
高齢のがん患者さんに対して総合的に機能評価を行う取り組みは、ほかの医療機関でも積極的に行われており、それぞれの患者さんに適した治療を提供するための重要な手法となっています。
当センターでは、がん治療を受ける高齢の患者さんに対して、仮にその方にがんがなかった場合に何歳まで生きられるか、治療を受けた場合に何年ほど生存できるかなどの指標を慎重に考慮し、手術の必要性を判断します。その結果、高齢のがん患者さんへの治療アプローチは劇的に変化しました。
また当センターは、がんの専門的な治療を行う病院でありながら、循環器疾患や糖尿病などほかの病気が併存するがん患者さんの治療にも注力しており、専門の診療科や地域の先生方と連携した診療を行います。このように、当センターは詳細かつ客観的な評価に基づき、個々の患者さんに適したがん治療の提供を積極的に行っています。
がん治療は手術や抗がん薬治療など入院生活に目が行きがちですが、患者さんはがんと診断されるまでにさまざまな検査を受け、退院後も定期的な経過観察が必要になります。そのため、それぞれの場面における患者さんの不安や悩みに寄り添いつつ、切れ目のない支援を行うことも私たちの大事な役割であると考えています。
当センターでは入退院支援センターを開設し、初診時から退院後まで見据えた診療を行うとともに、治療を終えたご希望の患者さんには退院後の電話訪問を実施しています。お電話では患者さんに日常生活でのお困りごとや近況について伺い、退院後も続く万全なフォローアップとして全国の学会から表彰されるなど高い評価をいただいています。
また、緩和ケアセンターの設置や全国のがんセンターで唯一、訪問看護ステーションを開設し、緩和ケアおよび在宅療養を希望する患者さんやそのご家族に満足いただける医療を提供します。当センターの理念として、“病む人の気持ちを”そして“家族の気持ちを”尊重し、患者さんやご家族の暮らしを切れ目なくしっかりと支えてまいりますのでご安心ください。
当センターは2016年に新築移転したのに伴い、職員によってさまざまなチームが立ち上がりました。上層部が「これをやりなさい」と指示するのではなく、職員自らが「これをやりたい!」と手を挙げ、患者さんのため・病院のためになることをいろいろ考えてくれています。
たとえば、この放送に際し、治療に取り組む患者さんに喜びを与えたいという思いで結成された“スマイリングチーム”が全面的にサポートしました。当センターに人気お笑いコンビ・サンドウィッチマンがお越しになり、1日限定の出張ラジオ局が開設され、この様子は2024年4月29日に全国放送され(NHK総合『病院ラジオ』)、大きな反響を呼びました。
また、“院内でおこるインシデントを0にしよう”という思いで発足した“はなまるチーム”では、インシデントや医療事故の予防対策に向けて、各部署の業務改善に向けた取り組みや情報共有を行っています。
当センターの職員は全ての患者さんや病院のためにプラスになることを常に考え、自発的に活動しています。
私が初めて当センターへ赴任したのは医師になって5年目のときでした。当センターが掲げる「私たちは“病む人の気持ちを”、そして“家族の気持ちを”尊重し、温かく思いやりのある、最良のがん医療をめざします。」という理念に強く共感し、一気に当センターを好きになったことをよく覚えています。
その後、食道がんの研究でアメリカMD Andersonがんセンターに留学したり、九州大学に戻ったり、ほかの医療機関で診療することもありましたが、九州がんセンターは常に「また戻りたい」と思わせてくれる場所でした。それは診療科の垣根が低く、職員同士が密に連携できる環境があり、平たく言えば「職場環境がよかった」からにほかなりません。職場環境の良さはそのまま病院の雰囲気の良さにつながり、患者さんからも「職員の皆さんがとても優しい」といった嬉しい言葉をいただいています。
私は2024年4月に院長に就任いたしましたが、その際に職員に伝えたのが「診療科・職種間の垣根をなくし・患者さんに寄り添い・職員の満足を重視する」という方針です。
今後も患者さんが気兼ねなく足を運べる雰囲気づくりを心がけ、常に患者さん目線の診療を行うと同時に、職員がいきいきとやりがいを持って働ける環境の構築を目指します。