青森県青森市にある青森病院は、一般診療に加え、筋ジストロフィーをはじめとする神経・筋難病など、4つの政策医療の診療を提供している病院です。
結核を含む呼吸器疾患の治療にも取り組んでいる同院の地域での役割や今後ついて、院長である髙田 博仁先生に伺いました。
当院は、1940年に傷痍軍人用の診療施設、軍事保護院傷疾軍人青森療養所として創立しました。その後、結核病棟を持つ国立療養所岩木病院と統合、さらに筋ジストロフィーや重症心身障害の診療科目が追加され、現在の国立病院機構の体制となりました。
当院の大きな特徴は、政策医療を担っている点です。政策医療とは、国がその医療政策を担うべき医療であると厚生労働省が定めている19分野のことで、当院ではそのうち4分野、神経・筋疾患、重症心身障害、成育医療、呼吸器疾患を診療しています。
筋ジストロフィーの患者さんは県内全体から受け入れており、重症心身障害に関しては県の慢性期医療における中心的役割を果たしています。また、結核専門病棟を持つ病院も県内では当院だけです。青森県全土への政策医療を提供するセーフティネット病院としての機能強化を図りながら、診療・臨床研究を行っています。
当院の脳神経内科では、筋ジストロフィーなどの神経筋疾患、難病を診療しており、人工呼吸器や経管栄養など、高度な医療行為が必要で施設や在宅では対応が難しい患者さんの受け入れを行っています。
外来では、アドバンス・ケア・プランニングとして、ご家族とご相談しながら長期的な慢性期の神経難病の診療に当たり、患者さんとご家族が安心して入院・在宅生活を送れるようサポートしています。
このような医療の提供は常勤の医師だけではなく、ソーシャルワーカー、療育指導員、作業療法士などによるチーム医療が必要であり、難病治療に多職種で当たる当院だからこそ可能な診療体制だといえるでしょう。
また、まだ根本原因が解明されていない筋ジストロフィーについて、当院は専門部門を持つ病院として新しい治療を提供するために、研究班や神経筋疾患先端医療推進協議会CCNMDに所属して全国の専門施設と連携しながら臨床研究も精力的に進めています。2024年夏には、アメリカのヴァージニア・コモンウェルス大学を中心とした、筋硬直性ジストロフィーの研究にも参加しました。
今後もさらなる医療情報の発信や医療レベルの向上を目指して日々、尽力しています。
当院では5名の小児神経医が常勤しており、小児の全般的な診療を提供するほか、重症心身障害児者の診療を行っています。医療行為が必要な医療的ケア児の長期入院の受け入れ、多職種、他基幹病院と連携をとりながら診療しています。
独自の取り組みとしては、発達外来の“青森病院 発達ネウボラプロジェクト”が挙げられます。臨床心理士、作業療法士が関わり、多職種で発達障害の患者さんに対応するための体制で、青森市のみに限らず近隣の弘前市、黒石市、五所川原市などの患者さんも受け入れており、現在、数カ月先まで予約が埋まっている状況です。
また、当院に隣接する青森県立浪岡養護学校と協力し、患者さんが授業を受けられるような体制を構築しています。疾患の治療だけではなく、子供達が健やかに成長・発達できる環境を提供することが、当院の役割であると考えています。
当院は、結核専門病棟として、空気感染の可能性がある細菌が外部に流出しないよう気圧を低く保つことのできる陰圧室を備えています。また、毎週木曜日の午後には外来に対応し、結核患者さんの入院受け入れ、診療を行っています。
結核は全体の患者数が減少しつつある疾患ではありますが、地域医療のセーフティネットとしての役割を担う病院として、患者さんの数に関わらず、診療体制を整えておくことが重要だと考えています。
筋ジストロフィーについて広く知っていただき、また医療向上のため、市民の皆さま、患者さんとそのご家族、医療・福祉・教育関係者の方を対象とした、青森県筋ジストロフィー市民講座を行っています。この講座は、青森市、弘前市、八戸市と青森県の三大都市を回って実施しています。市民講座を聞き、当院を受診してくださる患者さんもいらっしゃいます。
どなたも無料で参加することができますので、筋ジストロフィーへの理解を深めていただき、情報収集の場としても活用していただけたら幸いです。
そのほか、発達ネウボラプロジェクトの一環として発達支援Web研修会も開催しています。1年間通して毎月テーマを変えており、お子さんの発達に関して悩んでいる保護者の方にとってお役に立てる内容を提供できるよう工夫しています。
どなたでも無料で聞いていただけるプログラムとなっており、当院に通院歴のない方からのお申し込みも歓迎しています。
災害発生時には病院の役割が平常時以上に重要となりますが、当院では青森市立浪岡病院と協力し平時のうちから災害時の対応方針を構築しています。
浪岡病院は、当院から車で約3分の場所に位置し比較的川沿いに近い場所にあります。大雨が降ると避難命令が出される場合があり、その場合には、浪岡病院の患者さんを高台にある当院へ搬送、避難命令が解除されるまで一時的に当院で過ごしていただくという取り決めを行い、契約書を交わしています。
自然災害はいつ何時起こるか分からないものです。だからこそ起きてから対応するのではなく、対応方法をあらかじめ想定し、準備しておくことが非常に大事であると考えています。
当院に入院している患者さんや診療に訪れる方以外でも、安心してこの地域で生活していただけることも、セーフティーネットとなる当院が果たす役割です。
私は当初、筋電図や誘発電位等に係る臨床神経生理学を志していましたが、東埼玉病院の現院長である川井充先生と出会い、筋ジストロフィーの診療の道に深く関わることになりました。当時、厚生労働省で組織していた筋ジストロフィー研究班に参加し、そこで学び、研究発表を行っていました。診療ガイドラインの作成にも携わっています。
現在も院内のスタッフや他施設における研究者の協力の下、研究を続けており、その成果は各種学会や研究会、市民講座などで情報発信しています。そのかいあってか、現在は県内以外に北秋田や北岩手からの患者さんもいらっしゃいます。
また、当院では神経難病の慢性期診療にも力を入れており、高度な医療が必要な重症心身障害の患者さんの砦でもあります。発達障害特性を持つお子さま向けの発達外来も設け、多職種によるアプローチ、サポートを行っています。
多くの患者さんに最適な医療を提供できるよう、“病める人には安らぎを、健やかなる人には幸せを”を信条に、これからも治療方法の向上・発展への取り組みを続けてまいります。