院長インタビュー

地域包括ケアシステムのハブとして地域を支える公立館林厚生病院

地域包括ケアシステムのハブとして地域を支える公立館林厚生病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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群馬県館林市にある公立館林厚生病院は、館林市と邑楽郡の板倉町、明和町、千代田町、大泉町、邑楽町の1市5町の医療企業団が運営する地域唯一の公立病院です。診療科の垣根を越えたチーム医療や他医療機関との連携を通じて、患者本位の治療に取り組んでいます。同院の地域での役割や今後の展望について、院長の松本 正弘(まつもと まさひろ)先生にお話を伺いました。

公立館林厚生病院は、1964年(昭和39年)にこの地域唯一の総合病院として誕生しました。国民健康保険団体連合会の直営診療所として利用されていた施設をそのまま引き継いでの開院でしたが、建物の手狭さや設備の老朽化により、1968年(昭和43年)には現在地に新病院を建設し移転しました。

当院の属する太田・館林二次保健医療圏の医師の数は、人口10万人あたり134人と全国平均の半分程度で、群馬県内でも少数区域になっています。特に館林市・邑楽郡は、太田市と比べても救急告示病院が少ない地域です。

このような状況下で、当院は地域の方々のニーズに応えるため、医療機器の整備や診療部門の拡充に努めてきました。当院の救急車受け入れ件数は年間4,000件以上で、応需率は約95%と県内でも多くの救急患者を受け入れています。患者さんの多くは館林市・邑楽郡にお住まいの方ですが、疾患によっては埼玉県や栃木県からも当院に通院される方がいらっしゃいます。

また、より質の高い医療を提供するためには、地域の医療機関や介護施設、さらに消防や行政との連携が欠かせません。地域包括ケアシステムのハブ病院となるべく、努力を続けてまいります。

がんは、日本人の死因の第一位です。当院では、手術、内科的治療、放射線の3つを効果的に組み合わせた集学的ながん治療を提供しています。

手術に関しては、2023年に手術支援ロボットのダヴィンチを導入しました。当初は泌尿器科でのがん手術がメインでしたが、2024年11月からは消化器外科にもその領域を広げています。ダヴィンチによる手術は、従来の開腹手術に比べて小さな切開で行えるため、出血量が少なく、術後の疼痛も軽減されます。患者さんの負担が少なく、早期の回復が期待できることから、今後も症例を増やしていく予定です。

内科的治療に関しては、がんの化学療法を行う外来化学療法室が手狭になってきたため、新しい診療棟の建設を計画しています。新しい診療棟には化学療法室のほか、人間ドックの診療室などが入る予定です。少々先の話になりますが、新病棟が完成すれば、患者さんに明るく広々とした空間で化学療法を受けていただけることでしょう。

放射線治療では、放射線治療専門医2名体制で、通常の放射線治療の他、腫瘍の形状に合わせて放射線を照射する"強度変調放射線治療"を行っています。また、放射性物質を患者さんの体内に取り込ませて患部に照射するRI内用療法も実施しています。

なお、高齢の患者さんの場合、がん以外の基礎疾患を複数抱えている方も少なくありません。当院には28の診療科があり、各診療科の医師が連携して診療にあたっています。高齢化社会において、診療科の垣根を超えた医師間の連携は、がん治療にとって不可欠です。

心筋梗塞心不全などの循環器病疾患および脳の血管が破れたり詰まったりして発症する脳卒中は、日本人の死亡原因の第2位と第4位の疾患です。ともに血管の破綻が原因であり、突然発症する怖い病気です。これらは早期に治療することで後遺障害の出方も変わってきます。

脳卒中の場合、急性期の治療後はリハビリテーションが行われます。当院の回復期リハビリテーション病棟には脳神経外科医が在籍し、患者さんの診療にあたっています。

また、群馬県には、群馬脳卒中救急医療ネットワーク(GSEN)があります。これは、群馬県内の高度急性期医療ができる病院、回復期のリハビリテーションを行う病院、退院後の通院や訪問診療を受けるクリニックなどが連携協力して、急性期から日常生活に戻るまでの患者さんを支援する仕組みです。医療機関だけでなく、救急搬送を担当する消防や行政とも連携して、いつでも脳卒中に対応できる体制を整えています。

私自身、GSENの代表世話人および日本脳卒中協会群馬県支部の副支部長として、館林市のみならず群馬県全体での脳卒中診療および救急医療の円滑な連携に尽力してきました。その成果として、2019年に救急功労者として総務大臣表彰をいただきました。さらに、2024年9月には群馬大学医学部に脳卒中・心臓病等総合支援センターが開設され、今後も群馬大学と協力し、脳卒中および循環器病診療の連携強化に取り組んでまいります。

当院では、地域の方々への啓発を目的として、定期的に市民公開講座「医療フォーラム」を開催しています。テーマはがん、救急医療、終末期医療など、地域の皆様にとって身近で重要な話題を取り上げています。

2024年11月16日には、人生会議(アドバンスケア・プランニング)をテーマに講座を開催しました。アドバンスケア・プランニングとは、突然訪れる人生の最期に備え、患者さんとご家族、医師があらかじめ話し合っておくことを指します。医療には限界がありますが、最期まで自分らしく生きるための準備には限界がありません。寿命を意識することで、より良い生き方が可能になります。このテーマは、市民の皆様だけでなく、すべての医療・介護に携わる者にとっても非常に重要です。

今後も、医療やケアに関する知識を共有し、さまざまな立場の人々が意見を交わせる交流の場として、市民公開講座「医療フォーラム」を通じて情報を発信していく予定です。

私は1998年(平成10年)から当院で脳神経外科医師として勤務しています。1988年に大学を卒業した際に脳神経外科医師の道を選んだのは、外傷や疾患で倒れる人を助けたいという思いからでした。

医師として患者さんと接するうちに感じたのは、医療行為は目的ではなく、幸せな人生を送っていただくための手段であるということです。そして、そのためには医療技術のみでなく、医療連携が欠かせません。本当に患者さんのためになる医療サービスを提供するには、他の診療科との連携はもちろん、さまざまな医療機関、介護施設、行政との綿密な連携が必要です。

また、医療の質を確保するためには後進の育成が欠かせないことも痛感しています。当院のある館林市・邑楽地区は人口あたりの医師が少ない地域です。外部から医師を招聘するだけでなく、将来この地域で医療に携わる医療従事者を自分たちの手で育てていくことも、安定した医療サービスの継続に不可欠と考えています。

そのため、当院では医師の初期臨床研修を積極的に受け入れています。当院は地域唯一の総合病院であり、多くの症例が集まる場所です。当院での経験は、医師として専門医になる前に医師本来の仕事を学ぶのに最適でしょう。ぜひ当院で学んでください。

また、地域にお住まいの皆さんには、この地で安心して幸せな人生を全うできるよう当院が協力することをお約束します。今後も温かいご支援をよろしくお願い申し上げます。

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