岡山市にある岡山東部脳神経外科病院は、市内にあった2つの診療所を統合する形で2015年に開院しました。外科・内科の枠を越えて“神経の病気を全て診る”との考えのもと、地域の中で専門性の高い医療を展開しています。
そんな同院が担う役割や今後の展望について、理事長である滝澤 貴昭先生にお話を伺いました。
当院は、岡山市の2つの有床診療所(東備クリニック・1998年開設/岡山クリニック・2003年開設)の病床を統合して2015年に開院いたしました。
開院当時に掲げたモットーは、神経の病気に対する総合的な診療を行うことでした。一口に神経の病気といっても、大学病院などの規模の大きな病院では脳神経外科/神経内科など診療科が分かれていることが一般的です。これに対して当院では適切な検査・診断のもと、患者さんの全身状態を踏まえて複数の治療選択肢をご提案できる点に強みがあります。
今から20数年前に最初の診療所(現・東備クリニック)を開いたのは、脳卒中患者さんに対してできるだけ早期に、適切な治療を行うことが一番の目的でした。脳卒中はどれだけ早く治療を始められるかによって予後が大きく異なるため、初期の段階から専門医による診療を行うことが非常に大切です。このためMRIをはじめとした医療機器を整備し、地域の中で専門性の高い診療を行える体制をつくり上げたのです。
最初の診療所を開設した1998年当時、脳卒中の診断にMRI検査を用いることは一般的ではありませんでした。大学病院などではMRI検査の実施まで1か月待ちになるのが当たり前の時代に、当院はフットワークのよさと専門性を生かして積極的にMRI検査を実施し、適切な診断・治療につなげてきました。こうした取り組みは全て地域の患者さんのためであり、「CT検査だけでは不安だから、MRI検査を受けたい」という声にお応えするべく、現在は2台のMRIを備えて日々の診療にあたっています。
Generalist(ジェネラリスト)とは、幅広い知識を備えてさまざまな病気や症状に対応できる医師のことを指します。私はかねてより“神経疾患のジェネラリスト”としての気概をもって診療しており、その姿勢は当院の全スタッフに根付いています。
当院では、脳動脈瘤、脳腫瘍、下垂体腫瘍、微小血管減圧術などを合わせて、これまで5,000件以上*の外科手術を行っています。また近年は、患者さんの体への負担が少ない低侵襲な血管内治療の件数も増加傾向にあります。
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳卒中に対する治療はもちろん、手術が適応とならない病気や症状に対応できることも特徴です。転移性脳腫瘍に対するガンマナイフ治療など、手術に代わる選択肢をご提案できることは当院ならではの強みと言ってよいでしょう。
私のライフワークともいえるガンマナイフ治療は三叉神経痛などにも適応できるため、つらい症状にお悩みの方がいらしたらぜひご相談いただきたいと思います。もしもガンマナイフによる治療効果が認められない場合には、MVD(微小血管減圧術)を行うことも可能です。このほかQOL(生活の質)に大きな影響を及ぼす片頭痛、認知症(もの忘れ)などについても適切な治療やサポートをご提案させていただきます。
*手術実績……累計5,311件(2005年~2024年10月時点の実績 ※前身の診療所時代含む)
2024年度の診療報酬改定に伴って、新たに“地域包括医療病棟”というものが新設されました。地域包括医療病棟は今後さらに増加することが予想される高齢患者さんに対応するべく、治療、リハビリテーション、栄養管理、入退院支援などを包括的に行って早期の在宅復帰をサポートする役割があります。
当院においても2024年7月より38床の病床全てを地域包括医療病棟へと転換し、急性期から在宅まで一貫した医療サービスをご提供できる体制を整えました。介護保険を利用したデイケアは、リハビリ集中型や認知症集中型など4つのタイプをご用意しており、300人近い方にご利用いただいています。
当院では開院以来さまざまな医療機器を導入し、スタッフの増員にも努めてまいりました。2024年9月には血管内治療に強みをもつ脳神経外科医、内視鏡検査を得意とする消化器内科医が加わり、より充実した医療をご提供できるようになりました。
脳神経外科病院に消化器内科医……? と疑問を抱く方がいらっしゃるかもしれません。しかし高齢患者さんは複数の病気を抱えていることがあり、神経の病気と消化器の病気の両方があったり、薬物治療の副作用として便秘に悩まされたりする患者さんも少なくありません。こうしたケースにおいて消化器内科医が果たす役割は大きなものがあります。
また当院では、口から栄養を摂取できない急性期において限定的に胃ろうを設置することがあります。患者さんの身体機能の維持・向上を第一に考えた医療をご提供できることも、消化器内科や脳神経外科など各領域専門の医師によるチーム医療のおかげと言えるでしょう。
私は岡山大学医学部を卒業して医師になり、脳神経外科医として研鑽を積みました。神経の病気に幅広く対応する一方でパーキンソン病やてんかんに関する専門性を高め、アメリカに留学した時期もありました。また世界的精密機械メーカーの協力のもとナビゲーション機能を搭載した装置を開発し、低侵襲かつ精密な手術の提供にも努めてまいりました。
今から20数年前に最初のクリニックを開設した当時から今も変わらないのは、命に関わる脳卒中などの病気を見落とさないこと、そして患者さんの早期回復のために力を尽くす姿勢です。外科手術、血管内治療、ガンマナイフ治療、MVDなどさまざまな選択肢をご用意して、スタッフ全員が「決して見捨てない」という気持ちで診療にあたっています。当院のホームページ上には“脳まるガイド”と題したコラムも掲載しておりますが、脳や神経の病気のことでご不安なことがございましたら、お気軽にご相談いただきたいと思います。
*提供している医療の内容や在籍する医師の情報、および病床数など本文中の数字は全て2024年11月時点のものです。