
「もう娘の結婚や孫の誕生に立ち会うことはできないかもしれない……」。61歳で悪性リンパ腫の一種であるDLBCL(diffuse large B-cell lymphoma:びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)を発症された山本 孝夫さん(仮名)は診断時、今後の治療や家族との未来を案じ、不安に押しつぶされそうだったと語ります。治療の末に“寛解”とされながらも、二度にわたる再発。その後、医師に提示された“CAR T細胞療法”によって寛解に至り、治療から2年が経過します。今回は山本さんにご自身の経験について伺いました。
※こちらでご紹介するのは1人の患者さんの体験談で、全ての患者さんが同様の経過をたどるわけではありません。
最初に気付いた異変は著しい体重減少です。2020年7月、当時私は61歳でした。ちょうど妻と娘の住む県から、単身で実家に移り住み転職活動をしていたタイミングだったので「環境が変わったからだろう」と軽く考えていた矢先、体のだるさと微熱が出始め、その後高熱と大量の寝汗に苦しむ日々が続きました。
2020年8月、下された診断は“悪性リンパ腫”。「血液のがんです。でも、今はよい薬がありますから」という医師の言葉も、私の不安を拭い去ることはできませんでした。治療の苦しみ、残された時間、お金のこと、親の介護……。そして何より、遠くで暮らす家族との未来を思うと、胸が張り裂けそうでした。娘の結婚や孫の誕生に立ち会えなくなるかもしれないと思うとつらくて仕方がなかったことを覚えています。
診断を受けた病院では専門的な治療ができず、しばらく対症療法をしながら入院をして、血液内科のある病院に転院しました。当初は化学療法を6コース行う予定だったのですが、2コース目が終了した時点で医師から「前院で行った生検では悪性リンパ腫と確定できないので、改めて生検を行いましょう」と伝えられ、開腹してリンパ組織を採取しました。その結果、悪性リンパ腫は確認されず、そのまま寛解*と診断され、治療は終了となったのです。病変が消えたという診断とは裏腹に、中途半端に治療が終わったという気持ちがぬぐえず、不安が残りました。
*寛解:見かけ上、病変が消失した状態
不安は1年後に現実のものとなります。2021年9月、腫瘍マーカー*の上昇と腹部の違和感がみられ始めました。主治医には「心配しなくても大丈夫」と言われましたが、検査のたびに数値は上昇し次第に不安が大きくなりました。2022年1月、思い切って主治医の許可を得て別の病院でPET-CT検査を受け、そこで“再発”を知らされました。複数の腫瘍が確認され、小腸は穿孔の恐れもあるという状況でした。手術と8コースの化学療法という治療の末、2022年9月に二度目の寛解に至りました。
しかし、平穏は長くは続きませんでした。わずか9か月後の2023年6月、またしても腫瘍マーカーが上昇し、下腹部に重たい感覚が。「再発したときと同じだ……」。嫌な予感は的中し、精巣に腫瘍が見つかりました。悪性リンパ腫が再々発したのです。医師からは精巣の摘出と、救援療法としての“造血幹細胞移植(自家移植)**”を提案されました。ただこのとき、実家を離れて妻と娘のいる県に住んでおり、家庭の事情で再び実家に戻るタイミングだったこともあり、精巣摘出の手術を行った後に転院しました。
*腫瘍マーカー:血液中などに現れる、そのがんに特徴的な物質
**造血幹細胞移植(自家移植):患者自身の造血幹細胞を採取して冷凍保存を行い、大量化学療法を行った後で、患者の体内に造血幹細胞を輸注する治療法。通常の数倍以上の抗がん薬を使用することで、がん細胞を減少させることが目的。
2023年7月、紹介された地元の病院を受診し、そこの医師からもう1つの治療法を提示されます。それが“CAR T細胞療法*”です。造血幹細胞移植のほかに示された新たな選択肢でした。しかし、すぐに治療を始められるわけではなく、順番待ちや適応審査があり、受けられない可能性もあると説明を受けました。病状が悪化するリスクを考えれば、すぐに始められる移植のほうがよいのではないか。迷う私に医師は「今の病気の状態を考えるとCAR T細胞療法のほうが若干よいかもしれない」と告げました。
私の悪性リンパ腫のタイプは難治性であり、もし寛解しても再発のリスクが高いだろうと言われていました。そのため、少しでも可能性のある治療法に望みを託したいと思い、CAR T細胞療法を受けることに決めました。また、CAR T細胞療法は患者自身の免疫細胞を改変して治療に使うと聞き、先進的なイメージを連想するとともに、数年前に保険適用となった治療法であることから、新しさと安全性を感じました。
そのとき診察に同席してくれていた甥(妹の息子)が、私の病状が思わしくないことを知り「来年はおじさんがいなくなるかもしれない」と涙を流していたことを後から知りました。遠方で心配する妻と娘、そして身近で支えてくれる妹家族、皆にこれ以上心配をかけないよう頑張らないといけないと思いましたね。妹と4人の子どもたちは、家族に代わって全面的にサポートをしてくれて本当に助かりました。
*CAR T細胞療法:免疫細胞の一種であるT細胞を患者の血液から取り出し、CAR(キメラ抗原受容体)という遺伝子を導入してがんに対する攻撃力を強めた“CAR T細胞”を作製したうえで、それを患者の体内に戻す治療法。
2023年7月、審査結果を待つ間がんを抑えるため、いったん別の総合病院に入院して化学療法を受けます。そして2023年9月、無事審査に通り、CAR T細胞療法を受ける病院に入院をして、“白血球アフェレーシス*”を行いました。処置中に感じた違和感は特になかったです。自分の血液から取り出したT細胞がアメリカで加工され、がんを攻撃する力を強めた“CAR T細胞”になって戻ってくると聞き、「自分の細胞が海を渡って強くなって戻ってくるなんてすごい。大勢の人が協力してくれているのだな」と、不思議と心が強く感じました。CAR T細胞が作られるのを待つ約1か月間は、がん細胞をできる限り減らしておくため、化学療法をしていた病院へ戻って治療を続けました。そして同年11月、再びCAR T細胞療法を受ける病院に入院して、ついにCAR T細胞を投与しました。投与後は一時的に発熱がありました。また、入院中は倦怠感があり、昼間もずっと眠かったのですが、できるだけ体を起こすことを心がけていました。歩けるときにはベッドから起きてできるだけ動くことを心がけ、気分転換にもなるので可能な日はほぼ毎日シャワーを浴びるようにしていました。
当時は新型コロナの影響で、家族や親戚が荷物を持ってきてくれても話をすることができなかったのは残念でしたが、パソコンの持ち込みが可能な病院だったので、持参したレンタルWi-Fiやノートパソコン、タブレットは気分転換にとても役立ちましたね。
また、主治医や看護師さん、薬剤師さん、管理栄養士さん、緩和ケアの医師まで様子を見に来てくれたので、気軽に相談できる環境があったのはありがたかったです。管理栄養士さんは食欲不振のときに親身になって相談に乗ってくれましたし、看護師さんは家族が荷物を持ってきてくれたのが時間外になったときでも快く荷物を預かってくれて助かりました。不安や苦痛を和らげようと丁寧に接してくださった皆さんへの感謝は、今でも忘れません。
*白血球アフェレーシス:CAR T細胞を作製するために、特別な装置を使って血液からT細胞を含む白血球を取り出した後、残りの血液を体内に戻す処置。通常3〜4時間ほどかかる。
CAR T細胞療法から2年。治療後は白血球の数値が安定せず再入院も経験しましたが、今は悪性リンパ腫に対する治療は特に行っておらず、経過観察のみです。退院後すぐは1週間に一度の通院でしたが、次第に1〜2か月に一度となり、CAR T細胞療法を受けて1年半経過した頃から3か月に一度になりました。
最近は、幸運にも旧友たちと再会する機会に恵まれました。久しく会っていなかった友人たちと楽しい時間を過ごすことができ、今後もそうした機会を積極的に作っていきたいと思っているところです。そして、もう1つの楽しみが、娘たちが幼かった頃の写真やビデオを整理すること。膨大なデータと格闘しながら、写真の中の幼い娘たちの姿を見ていると、もう一度子育てをしているような温かい気持ちになります。
CAR T細胞療法は専門施設での治療となり、適応条件が定められています。条件に合う方であれば、担当医と相談をして前向きに治療の選択肢に加えてもよいと私は思います。治療費については、日本の高額療養費制度*が適用されるため、実際の自己負担額は月々の上限額内に抑えられます。他の治療法を選択する場合と実質的な負担額はほぼ変わらないのではないでしょうか。
分からないことや不安なことがあれば、医師・看護師さんなどの専門スタッフ、また入院中の方であれば同室の患者さんと話してみるのもよいでしょう。特に看護師さんは顔を合わせる機会が多いので、よい相談相手になってくれるはずです。インターネットで得た情報もよいですが、信頼できる情報か否かは医師に確認することが大切だと思います。
これまでの私の体験が1人でも多くの方にとって何らかの助けになることを願っています。
*高額療養費制度:医療費の自己負担額が1か月の上限額を超えた場合に、超えた金額が支給される制度。上限額は年齢や所得によって異なる。事前に限度額適用認定証または限度額適用・標準負担額減額認定証の交付を受けて、医療機関の窓口での支払いを上限額までに抑えることができる。
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今後の治療について
3ヶ月前から頸部にしこりを感じ痛みがでたのでグリグリと触っていたら痛くなり耳鼻科でリンパ節を病理検査したところ、悪性腫瘍リンパ節B細胞腫瘍と診断されました。放射線治療や抗がん剤治療になるとの事でした。何処の病院が1番良いかわかりませんが、自宅に近い病院の血液内科を紹介されました。 日常何も不備なく持病もなかったので、治療を始めることでのリスクが不安で戸惑っております。妻の要支援2の介護をしております。入院となると、何日かかかるのでしょうから。妻の介護も心配です。もし、治療しないとしたらどんな症状になるのでしょうか?
放射線治療を受け始めました
昨年9月に首に数個のしこりができ、確定診断を兼ねて摘出手術を受け、限りなくびまん性に近い濾胞性リンパ腫グレードIIIAの診断でした。R-CHOP療法を3クール受け、現在腫瘍マーカーは陰性です。抗がん剤にアレルギーがでたため、放射線治療20回をすることになり、3回目を受けたところ、口渇で食べ物が飲み込みにくい状態です。しかし副作用には早すぎると言われ、気のせいでしょうと笑われました。両耳の下あたりを押すと痛みもあります。放射線治療を続けても大丈夫でしょうか。
造血幹細胞移植が有効か否か
一年程前に悪性リンパ腫と診断され、数々の抗がん剤治療と、皮膚に出来た腫瘤には、放射線治療を行なっています。しかしながら、薬の効きはおもわしくなく、副作用で心身ともにボロボロの状態になっています。 心臓も度重なる抗がん剤治療で狭心症も併発し、生死にかかわる状態にも直面いたしました。 このような状態で今後の治療として、移植は有効でしょうか? 現在入院している病院は移植に対応しておらず、担当医からも移植の提案はないのですが、最後の治療法として治癒の可能性があるならと考えています。 回答をよろしくお願いいたします。
本当に悪性なのでしょうか?
以前から相談させてもらってます 末梢性T細胞リンパ腫の疑いがあると生検検査で出ましたが 腹部にできた腫瘍は全部で5つありました。 そのうち1つを生検検査するために摘出 そのあとしこりは5つまで増えました、痛みもあったため、炎症止めの薬を処方してもらい飲んだところ、痛みがなくなり 本日しこりができ始めてから約3週間経ちましたがしこりが消えました 悪性の場合でも、できた腫瘍が消えることはあるのでしょうか? 炎症止め以外の薬は飲んでないので なにか治療を行った訳では無いです
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