インタビュー

主治医と乗り越えた悪性リンパ腫治療――CAR T細胞療法を決断した理由

主治医と乗り越えた悪性リンパ腫治療――CAR T細胞療法を決断した理由
メディカルノート編集部 【患者・家族取材】

メディカルノート編集部 【患者・家族取材】

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「今度はリンパ腫だと分かったのです」穏やかな口調でそう語ったのは、田中 勇さん(70歳・仮名)。これまで白血病などの大病を経験してきた田中さんが、足の付け根に痛みを感じて病院を訪れたのは、白血病の治療から5年ほどたったころでした。検査の結果、告げられた病名は“びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)”。当初、大学病院で受けた抗がん剤治療(化学療法)は、期待したほどの効果が得られませんでした。しかし、そこで主治医から提案されたのが、まだ耳慣れない“CAR T(カーティー)細胞療法”という選択肢でした。今の病院ではできないけれど、専門の病院なら可能性がある――その言葉に、新たな一歩を踏み出します。

「でも、それほど大きな不安はありませんでした」と話す田中さんに、DLBCLの診断を受けるまで、そしてCAR T細胞療法の経験や現在の生活などをお伺いしました。

※こちらでご紹介するのは1人の患者さんの体験談で、全ての患者さんが同様の経過をたどるわけではありません。

私はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫*(以下、DLBCL)と診断されるまでに、いくつかの病気を経験しました。

今から7年程前のことです。食欲不振と胃の痛みをきっかけに、近くの医療機関で胃カメラを受けたものの診断がつかず、大学病院を紹介されました。血液内科で詳しい検査を受けたところ、白血病と診断されたのです。入院を繰り返しながら治療を続け、半年後に退院となりました。しかしその後、胃の病気による吐血や下血で救急搬送を経験し、胃を切除する治療を受けました。帯状疱疹(たいじょうほうしん)も発症しました。

そして、白血病の治療を受けてから5年目に、今度は足の付け根など複数の場所が痛むようになりました。近隣の整形外科では特に異常は見つからず、大学病院を受診してPET-CT検査などを受けました。その結果、がん細胞が見つかったのです。

*びまん性大細胞型B細胞リンパ腫:血液のがんである悪性リンパ腫の一種で、悪性リンパ腫の中で最も発生する頻度が高い。

大学病院では、最初は点滴による化学療法を受けていたのですが、効果は思わしくありませんでした。そこで「CAR T細胞療法*なら効果が期待できるのではないか」と教えていただいたのです。しかし、その病院では対応していないとのことで、2024年11月末に近隣のCAR T治療施設を紹介されました。そちらを受診した際に初めてDLBCLという診断名を聞きました。

近所の方に病気のことを話したら、その治療施設で行っているCAR T細胞療法などについて紹介された新聞記事を見せてくれ、「ここには同じ病気の患者さんが結構いらっしゃるのだな」と心強く思ったことを覚えています。

*CAR T細胞療法:血液からT細胞(白血球の一種)を取り出し、がん細胞を攻撃する力を強めたうえで体内に戻す治療法。

メディカルノート

CAR T治療施設では、CAR T細胞療法に関するパンフレットなどいくつかの資料を基に説明を受けました。DLBCLは白血球の一種であるリンパ球ががん化する病気であることや、CAR T細胞療法は自分自身のリンパ球を使った治療法であること、そして当時まだこの治療が国内で認可されて約5年であることも、このときに教えてもらいました。妻と姉も一緒に説明を受け、病気や治療についてみんなでいろいろな質問をさせていただきました。

白血病の治療のときは、入院が必要だと分かると気持ちが落ち込みましたが、今回は大きな不安はありませんでした。先生から「治療すればよくなるかもしれない」と聞き、意欲がわいたのです。改めて検査を受けた結果、先生から「CAR T細胞療法を行うことができます」と伝えられた際には、迷わず「お願いします」と答えていました。

治療を受けようと決断したのは、今はまだ新しいといわれる治療を受けることで、医療を少し前進させることができればと思ったからです。自分が治療を受けることで、微力ながら医療に貢献したいという思いがありました。

また年齢などを理由に、治療を受けたくても受けられない方もいると聞きました*。効果が期待できる治療法がない患者さんもいるなかで、ありがたいことに治療法があるなら「私が受けなくては」と思ったのです。治療前には先生と家族みんなで十分に相談する機会があったので、安心していましたし、最終的に治療については先生を信頼してお任せしようと思いました。

*CAR T細胞療法は、化学療法の治療の効果がない難治性、または再発の患者が対象になる。治療施設によっては年齢制限が設けられている場合がある。

写真:PIXTA
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私がCAR T細胞療法を受けた施設は、看護師さんも親切で非常によい病院だと思いました。一例として、私が受けた治療の流れをお話しします。

白血球アフェレーシス

まずは、血液から白血球を採取する処置を行いました(白血球アフェレーシス)。血管が細いためか血液の採取に予定よりも時間がかかったものの、特に体調の変化はありませんでした。採取した成分はアメリカの施設に送られて “CAR T細胞”が作られると聞いていました。「どのようにアメリカから戻ってくるのだろう」と想像しながら、自分の細胞が運ばれることを興味深く感じました。

CAR T細胞の投与と入院

1か月後、CAR T細胞を点滴で体内に戻すために入院しました。入院してから1週間ほどの間に、病状を安定させるための化学療法を受けました。

CAR T細胞を投与する当日、「もしこの治療を受けても変化がなかったら」という不安はやはり頭に浮かびました。しかし、先生やスタッフの皆さんに囲まれるなかで「あとは信じて祈るしかない」と腹が決まりました。ベッドに入って横になり、点滴が投与されるのを静かに見ていました。

事前に発熱する可能性があることを聞いていたとおり、投与後は40度近く熱が出ました。解熱薬を使ったり頭を冷やしてもらったりしていると数日で熱は下がり、個室で10日間過ごした後に一般病棟に移りました。私の場合は順調に経過したのだと思います。

写真:PIXTA
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退院に向けて

入院中は看護師さんと話したり、院内のコンビニの店員さんと仲良くなったりして楽しかったですし、早く退院したいとは思わなかったです。治療後の経過についても「先生の判断にお任せしよう」という気持ちでいました。

退院する数日前には、今後の経過について説明を受けました。その際には、再発する可能性についても伝えられました。再発については実際に月日を重ねてみなければ分かりませんので、特に心配になることはありませんでした。最終的に1か月~1か月半程度で退院に至りました。

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退院後10日ほど経つと、少し感じることがあったふらつきも軽減し、元の生活に戻れたと感じました。CAR T細胞の投与から8か月、今のところ再発はありません。特別な治療はなく自宅で普段どおりに過ごしています。

退院後は2週間に1回、今は月に1回外来を受診していますが、ある程度数値が安定したら3か月に1回など徐々に間隔が伸びるようです。受診時は、体調を伝えることはもちろんですが、先生と話すことも大切にしています。元気な姿を見せると、先生もよろこんでくれているように感じます。

日常生活では、リズムを崩さないよう過ごすことが大切だと思っているので、健康的な生活を心がけています。30分ほどのウォーキングを日課にしており、近所で出会う犬をなでるのが楽しみの1つです。

写真:PIXTA
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私は、病気のことをあまり気にせず、1日1日をどう過ごすか考えることを大切にしています。CAR T細胞療法を検討している方たちには、金銭的な問題などもあるかもしれませんが、効果が期待できるなら積極的に検討するとよいと伝えたいです。現状ではCAR T細胞療法の治療法は高額になるので、私の場合、治療費の支払いでは高額療養費制度*を利用しました。市役所の福祉課で相談をして、年に1回更新手続きをしています。

治療を受けることになったら、先生方を信頼して、治療を進めていくとよいでしょう。たとえば「こういう状態だから、入院する必要がある」「もう少し様子を見てみましょう」など先生から話があった場合は、それを信じる姿勢が大切だと思います。そのうえで、疑問に思ったことは積極的に質問して、自己判断で治療をやめることがないようにしてほしいです。投げやりにならず、前向きに治療に向き合う姿勢を大切にしてほしいと思います。

*高額療養費制度:医療機関などで支払った金額が1か月の上限を超えた場合に、超えた分の金額を支給する制度。

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