
悪性リンパ腫の1つであるマントル細胞リンパ腫(MCL)は、初回治療で完全寛解(病変が消失している状態)に至っても再発を繰り返すことがある病気です。2026年4月に新たにCAR T(カーティー)細胞療法が承認され、治療選択の幅が広がっています。
今回は、国立がん研究センター中央病院 血液腫瘍科長の伊豆津 宏二先生に、MCLの初回と再発時の治療とともに、CAR T細胞療法の流れやこの治療を検討するにあたって患者さんに知っておいてほしいことについてお話を伺いました。
MCLは、白血球の中のリンパ球ががん化する悪性リンパ腫の一種です。悪性リンパ腫には100種類以上の病型があり、MCLはリンパ節の“マントル層”という部分でリンパ球の一種であるB細胞が異常に増殖するものを指します。悪性リンパ腫の3%ほどを占めるまれな病気で、高齢男性での発症が多いことが特徴です。
MCLでは他の悪性リンパ腫と同様にリンパ節の腫れが現れるほか、骨髄や消化管(胃腸)などにも病変が現れることがあります。進行スピードは比較的早いタイプが多いものの、悪性リンパ腫の中で最も患者数が多いびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に比べるとやや緩やかに進行するとされています。
MCLは、約90%の患者さんがステージIII、IVの進行期で診断されます。MCLと診断されたらすぐに治療を開始することが推奨され、進行期で診断された場合は以下のように初回治療を実施します。なお、ごく一部ながら無症候性(リンパ腫はあるが症状がない状態)で無治療経過観察となるケースもあります。
可能な方には自家造血幹細胞移植を選択します。これは患者さん自身の造血幹細胞(血液をつくる細胞)を採取して冷凍保存し、大量化学療法を行った後に造血幹細胞を解凍して体内に戻す治療法です。自家造血幹細胞移植の対象となる患者さんでは、まず、リツキシマブと大量シタラビンを併用した強力な寛解導入療法を数サイクル実施することが推奨されており、その後自家造血幹細胞移植に進みます。自家造血幹細胞移植を行った後は、効果を維持させるためのリツキシマブ維持療法を2年間続けることが一般的です。自家造血幹細胞移植の適応年齢はおおむね65歳ぐらいが上限の目安で、重い臓器障害や併存疾患がない方が対象です。
ただ、自家造血幹細胞移植は、数週間の入院が必要な強力な治療で、患者さんに対するダメージも大きいので、最近は新規治療薬を併用して自家造血幹細胞移植を回避する方法の開発が進んでいます。
高齢などで自家造血幹細胞移植ができない患者さんには、従来はベンダムスチン・リツキシマブ併用療法(BR療法)を6サイクル行った後、リツキシマブ維持療法を2年間行う治療などを選択していました。しかし近年、自家造血幹細胞移植非適応の患者さんの初回治療としてBR療法とBTK阻害薬*という飲み薬を併用する治療法が承認されました。これにより、BR療法やリツキシマブ維持療法にBTK阻害薬を併用し、その後もBTK阻害薬の服用を続ける治療が行われるようになってきています。
*BTK阻害薬:B細胞の増殖に関与するBTK(ブルトン型チロシンキナーゼ)という物質に作用し、がん細胞の増殖を抑える分子標的薬。
MCLは初回治療で寛解に至っても、その後再発を繰り返すことが多い病気です。これまで、初回治療後に再発したMCLや、治療してもなかなか改善しない難治性のMCLに対しては、化学療法が行われてきました。たとえば、自家造血幹細胞移植適応の患者さんで移植前にベンダムスチンを使っていなければ、自家造血幹細胞移植非適応の方の初回治療で行うBR療法などが選択肢となります。分子標的薬であるプロテアソーム阻害薬を用いたVR-CAP療法を行うこともあります。
そのほか、再発・難治性MCLにはBTK阻害薬の単独使用が承認されています。BTK阻害薬は従来からある共有結合型と、近年登場した非共有結合型の大きく2種類があります。これまで使用してきた共有結合型のBTK阻害薬が不応性(薬が効かなくなること)になったり、副作用のため継続できなくなったりした場合には、非共有結合型のBTK阻害薬が選択肢となります。
再発・難治性のMCLには複数の治療選択肢があるため、治療選択にあたっては、年齢や併存疾患、治療歴など、患者さん一人ひとりの背景を考慮する必要があります。特にBTK阻害薬の使用歴がない患者さんに対しては、再発・難治になったときにBTK阻害薬を早めに使うとより効果が期待できるといわれています。BTK阻害薬は飲み薬なので、投与のための通院が不要で患者さんの負担が少ないという利点もあります。ただし、いずれも治癒が期待できる治療ではないため、開始したら基本的に効果を認める限り長く飲み続けて病気をコントロールしていく必要があります。
2026年4月、再発・難治性MCLが“CAR T細胞療法”という治療の対象疾患の1つとして承認されました。CAR T細胞療法は、患者さんの血液から免疫細胞であるT細胞(がんを攻撃するリンパ球)を採取し、CARという遺伝子(キメラ抗原受容体遺伝子)を人工的に導入して“CAR T細胞”をつくり、培養して増やした後に患者さんの体に戻す治療法です。CARはB細胞の表面にあるCD19を標的とする遺伝子で、これをT細胞に導入することで、がん化したB細胞に結合して攻撃するはたらきをします。なお、1人の患者さんがCAR T細胞療法を受けられるのは生涯一度に限られています。
CAR T細胞療法の準備として、まず患者さんの体からT細胞を採取する“白血球アフェレーシス”という処置を行います。これには通常2泊3日程度の入院が必要です。採取したT細胞は製造施設に送られ、CAR T細胞ができるまでに1か月ほど待機期間があります。その間、病気の進行を抑えるために、飲み薬や点滴薬による治療(ブリッジング治療)を行うことが一般的です。CAR T細胞が完成したら、CAR T細胞療法を行う前に治療の効果を高めるためのリンパ球除去化学療法を3日程度かけて行い、その後CAR T細胞を投与します。リンパ球除去化学療法とCAR T細胞療法にかかる入院期間は約1か月です。
この治療では、患者さんの体内でCAR T細胞が増殖するタイミングでサイトカインという炎症物質が増え、高熱や血圧低下、呼吸不全などが起こるリスクがあります。これをサイトカイン放出症候群といいます。多くの場合、炎症性サイトカイン(IL-6)のはたらきを阻害するトシリズマブや、ステロイドを使用することでコントロール可能です。もう1つ、特徴的な副作用として免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)があり、認知機能障害のほか、重症になると意識障害やけいれんなどを起こします。こうした副作用が出るのは、CAR T細胞療法を行ってからおおむね1~2週間の間です。入院期間中なので、経過を観察しながら副作用が起これば適切に対処することが可能です。
CAR T細胞が標的とするCD19は、がん化したB細胞だけでなく、正常なB細胞にも発現しています。そのため、治療により正常なB細胞もダメージを受け、長期間にわたって減少してしまうことで、B細胞の分化によってつくられる免疫グロブリン(病原体などを攻撃する物質)が少なくなってしまいます。これを低ガンマグロブリン血症といいます。また、CAR T細胞療法後は白血球を含む血球減少が続きやすいため、感染症の発症や重症化に注意が必要です。低ガンマグロブリン血症については定期的に血液検査で血清IgG値を調べ、低ければ血液製剤の点滴でガンマグロブリンを補います。血球減少に対しても通院治療が必要になる可能性があります。
CAR T細胞療法は、日本国内では再発・難治性MCLの全ての患者さんが対象とされています。ただし、実際には海外での適応などを踏まえると、主にBTK阻害薬を含む2種類以上の治療を経て再発・難治となっている患者さんに対する3次治療(3番目に行う治療)として実施されることになると思います。なお例外的に、BTK阻害薬が効きにくくなってきた、あるいはBTK阻害薬を使っても効きにくい因子がある患者さんには、2次治療の一環として行われることもあるでしょう。BTK阻害薬は使い始めて比較的早期に効果が現れてくる薬なので、その段階で効果を見極め、CAR T細胞療法の選択を判断することになると考えます。
CAR T細胞療法を実施できる医療施設は限られており、一連の治療において複数回の入院が必要となります。そのため、患者さんが住んでいる地域によっては選択しづらいこともあるかもしれません。再発・難治性MCLで2次治療以降にある方は「自分はCAR T細胞療法の適応になるか」を主治医の先生に直接聞いてみるのがよいと思います。また、承認されたのはつい最近のことなので、中にはMCLに対してCAR T細胞療法が実施できることをご存知ない先生もいらっしゃるかもしれません。患者さん側から質問を投げかけることによって、新たな治療の可能性がひらけることもあるでしょう。
また、CAR T細胞療法は数年前からDLBCLに対して実施されている治療のため、病院によってはCAR T細胞療法の候補者が現れたときに相談するCAR T細胞療法実施施設がある程度決まっているはずです。適応になりそうな場合は実施施設へ紹介される流れになると思いますが、状況によってはセカンドオピニオンを求めて受診した施設で相談してみてもよいかもしれません。
これまで、再発・難治性MCLの患者さんでは化学療法かBTK阻害薬が主な治療の選択肢でした。また、ドナー(他者)から造血幹細胞の提供を受ける“同種造血幹細胞移植”という治療法があり、自家造血幹細胞移植後に再発した方や、予後が極めて不良とされる自家造血幹細胞移植非適応の方の2次治療として検討されることがありますが、移植片対宿主病 (GVHD:ドナーのリンパ球が患者さんの体を攻撃する免疫反応)という重篤な合併症が起こるリスクがあります。
一方、CAR T細胞療法は体への負担が相対的に小さい治療法で、これまでの治療とは異なる仕組みで病気にはたらきかけるため、治療効果がなかなか得られなかった患者さんにおいて長期的な効果が期待できる有望な治療だと考えています。まだ効果に関する十分なデータはないため、CAR T細胞療法でMCLを治せるかは現時点(2026年5月時点)では定かではありませんが、長期的に病気を制御できる治療法になるのではないかと大きな期待を寄せています。
インターネットなどでMCLについて調べると「治りづらい」「治療が難しい」などの情報が散見され、悲観的な気持ちになっている方もいるかもしれません。しかし、MCLはBTK阻害薬やCAR T細胞療法など複数の治療選択肢が登場してきている病気でもあります。主治医の先生とよく相談をしながら、前向きに治療に取り組んでいただきたいと思います。そのうえで、分からないことがあったり提示される治療選択肢が限られていると感じたりするようなら、セカンドオピニオンも利用してみるとよいでしょう。
また、MCLは必ずしも標準治療が確立している病気ではないので、臨床試験という選択肢を提示されるかもしれません。臨床試験は、まだ承認されていない新たな治療や、ほかの病気には承認されていて当該の病気に対しても承認を得るために研究中の治療について、標準治療になることを目指して有効性を示すデータを取るためのものです。専門家の協議を経て臨床試験として行うのが妥当であると認められたものですので、ぜひ参加を検討いただければと思います。
国立がん研究センター中央病院 血液腫瘍科長
日本血液学会 血液専門医・理事日本リンパ腫学会 副理事長日本造血・免疫細胞療法学会 造血細胞移植認定医・評議員日本臨床腫瘍学会 協議員日本内科学会 総合内科専門医日本癌学会 会員日本癌治療学会 会員American Society of Hematology(ASH) 会員The European Hematology Association(EHA) 会員American Society of Clinical Oncology(ASCO) 会員European Society for Medical Oncology(ESMO) 会員
伊豆津 宏二 先生の所属医療機関
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