インタビュー

副鼻腔炎の“鼻茸”は早期治療が鍵。嗅覚障害に気付いたら早めの受診を

副鼻腔炎の“鼻茸”は早期治療が鍵。嗅覚障害に気付いたら早めの受診を
細矢 慶 先生

鼻とにおいのクリニック池袋 院長

細矢 慶 先生

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慢性副鼻腔炎(まんせいふくびくうえん)を発症していると鼻の粘膜がむくんで“鼻茸(はなたけ)”と呼ばれるポリープが発生することがあります。鼻茸ができると鼻づまりや嗅覚障害が起こりやすく、食事や睡眠などに影響を及ぼし生活の質(QOL)低下につながります。

今回は、鼻やにおいのトラブルに特化した診療を手がける鼻とにおいのクリニック池袋 院長の細矢 慶(ほそや けい)先生に、慢性副鼻腔炎で鼻茸が発生するメカニズムや治療選択肢、早期治療の重要性などについてお話を伺いました。

鼻茸とは、主に副鼻腔炎によって鼻の中にできるゼリー状のポリープのことです。副鼻腔は鼻腔の周りの骨の中にある空洞を指し、細菌やウイルス感染症などによって副鼻腔に炎症が起こる病気を副鼻腔炎と呼びます。日本における副鼻腔炎の患者数は100万~200万人で、このうち20万人ほどに鼻茸があるといわれています1)。副鼻腔炎は1か月以内で治まる急性副鼻腔炎と、3か月以上続く慢性副鼻腔炎に大きく分かれ、慢性副鼻腔炎では長引く炎症によって鼻の粘膜がむくみ、鼻茸が発生しやすいとされています。

イラスト:PIXTA
イラスト:PIXTA

中でも、白血球の一種である好酸球が活性化して起こる“好酸球性鼻副鼻腔炎”は特に鼻茸ができやすく、治りづらいという特徴があります。そのメカニズムは工事現場に例えると分かりやすいでしょう。鼻の粘膜が障害を受けて炎症とむくみが生じると、障害を受けた部分を修復するための“工事の足場(フィブリン網)”が作られます。通常であれば、修復が完了したら足場であるフィブリン網は溶けてなくなり元の状態に戻ります。しかし、好酸球性鼻副鼻腔炎では炎症を悪化させる物質(IL-4やIL-13などのサイトカイン)によってフィブリン網を溶かすはたらきが抑えられています。加えて、活性化している好酸球によってフィブリン網は増殖を続けていきます。こうして過剰に形成されたフィブリン網が血液のタンパク質を包み込み、大きな鼻茸が形成されていくのです。なお、好酸球性鼻副鼻腔炎は国の指定難病で患者さんの平均年齢は50〜55歳、女性よりも男性に多い傾向があります1)

慢性副鼻腔炎によって鼻茸が生じている場合、嗅覚障害、鼻づまり、頭痛などの症状がみられ、特に嗅覚障害が現れやすいのが特徴です。当院は“鼻とにおいのクリニック”という院名で嗅覚障害の治療に力を入れているということもあり、嗅覚の異常を訴える方が受診されるケースが多くあります。たとえば、家族や友人と外を歩いているときに花の香りを自分だけが感じられない、食事のにおいが分からないなどでご自身の嗅覚の異常に気付いたと言う患者さんもいらっしゃいます。

ただし、嗅覚障害は慢性副鼻腔炎だけでなく、新型コロナウイルス感染症などウイルス感染によってにおいを感じる神経がダメージを受けて起こる場合もあります。そのため、各種検査で嗅覚障害の原因を見極め、適切な治療につなげることが重要です。

嗅覚の異常を放置していると、食べ物が傷んでいてもにおいをかぎ分けられない、調理中に鍋が焦げていても周囲の人に指摘されるまで気付かないといった安全面の問題が生じます。食の楽しみを感じられなくなり、毎日の買い物や食事選びにも影響が出るといわれます2)。また、繊細な料理の風味を感じにくくなるため大味な食事を適当に済ませるようになったり、食欲が落ちたりすることにもつながります。食事だけでなくコーヒーやワインなど嗜好品の香りを楽しめなくなり、それを周囲の人と共有できなくなって孤独感が深まるなど、精神面への影響も懸念されます。

さらに、慢性副鼻腔炎があると夜間に鼻づまりで呼吸しにくくなる、鼻水が喉のほうに垂れてきて咳が出て目が覚めるなど、睡眠にも悪影響を及ぼします。その結果、睡眠の質が低下して日中に集中力を維持できなくなる可能性も考えられます。

写真:PIXTA
写真:PIXTA

鼻茸によってにおいを感じにくい状態が長期にわたると、においを感じる神経が徐々に消滅していきます。治療までの期間が長くなると、鼻茸がなくなっても嗅覚が十分に回復しない可能性があり、治療後の再発リスクも高くなるといわれているため、早めの治療で炎症をコントロールすることが重要です。一歩踏み出した早めの受診が、その後のQOL(生活の質)を大きく左右します。

鼻と肺は空気の通り道としてつながっており、炎症の性質が似ているため、慢性副鼻腔炎と喘息を合併されている方も多くいます。喘息で通院している医療機関で咳の治療がなかなかうまくいかず、主治医から鼻に問題があるのではないかと指摘されて当院に来られる方もいます。慢性副鼻腔炎の後から喘息を発症するケースもあるといわれ3)、慢性副鼻腔炎と喘息の関連が明らかになってきています。

当院では、慢性副鼻腔炎を疑う症状のある患者さんには問診でお話を伺った後、主に次のような検査を行っています。

内視鏡検査では鼻腔からカメラを挿入し、鼻の左右の壁(鼻中隔)の弯曲などの鼻の構造や鼻茸の有無、(うみ)が出ているかどうかを含め鼻の中を観察します。また、内視鏡では見えにくい部分もあるため、併せて副鼻腔CT検査も行って副鼻腔の状況を詳しく確認します。内視鏡検査では問題がみられなくても、副鼻腔CT検査を行うと異常がみつかるケースは少なくありません。当院では院内にCT設備を完備しているため、大きな病院へ足を運ぶ必要がなく、受診当日にその場で詳しい検査を行うことが可能です。

嗅覚障害の程度を調べるために、薄いにおいから濃いにおいまで複数のにおいを段階的にかぐ検査です。どの段階からにおいを感じられるか、どのようなにおいか判別できるかを調べ、内視鏡検査や副鼻腔CT検査の結果と併せて重症度を判断します。

鼻づまりの度合いを調べる鼻腔通気検査や、鼻の中の組織を採取して病理組織検査を行うこともあります。また、慢性副鼻腔炎に喘息を合併しているケースもあるため、当院では呼吸器内科の医師が定期的に出勤する診療体制を整えています。喘息の疑いがある患者さんに対して、院内でスムーズに専門的な喘息の検査まで受けていただくことが可能です。

鼻茸の治療では病態によって、まずはマクロライド系抗菌薬と呼ばれる薬(クラリスロマイシンなど)の少量長期投与やステロイド点鼻薬を中心とした薬物療法から開始します。マクロライド系抗菌薬の投与を3か月ほど継続しても十分な改善がみられなければ、手術を検討します。

手術では鼻の穴から内視鏡を挿入し、鼻茸を切除するとともに鼻腔と副鼻腔の間の隔壁を取って出入り口を大きく開放します。1つの広い空間にリフォームすることによって、鼻の中の凹凸が減って鼻茸ができにくくなり、空気の通りがよくなります。

当院では日帰り手術を実施していますが、喘息がある、血圧が高いなど全身状態に不安がある方、また遠方にお住いの方には近隣の病院と連携して一泊入院していただきます。なお、術後しばらくは激しい運動を控えるなどの注意点を指導しています。

手術を行っても再発を繰り返してしまう場合、生物学的製剤の適応となります。また、全身状態の理由などから手術の実施が難しい患者さんに選択されることもあります。生物学的製剤には、先ほどの“工事の足場”を溶けにくくさせてしまう原因物質(IL-4やIL-13)に直接はたらきかけて鼻茸を小さくして嗅覚障害などの症状を改善するためのお薬(デュピルマブ)や、これら原因物質の産生を促す物質(TSLP)を阻害するお薬(テゼペルマブ)、また好酸球の活性化そのものを抑えるお薬(メポリズマブ)などがあります4-6)。生物学的製剤は注射薬で、ご自身で注射できます。私たちの研究では、デュピルマブでは8〜9割の方が自分で注射を実施しており、それほど恐怖心を感じずに扱えると思います7)

診察の際は患者さんの訴えをよく聞き、内視鏡検査や副鼻腔CT検査、基準嗅力検査などから病気を多角的に捉え、適切な治療につなげています。また、治療方針を決める際には、どのような治療を行えば患者さんの症状がよくなるかを一番に考えたうえで、最終的には患者さんの希望に沿った治療を選ぶことを大切にしています。中には手術が必要な状態であっても決心がつかない方もいますので、そのような方に手術を強いることはありません。ただし、治療を先延ばししていると嗅覚を取り戻せなくなる可能性もあるため、将来のリスクについてはしっかりとお伝えするようにしています。初めての手術に不安を訴える方には「なんとなく怖いから」と言う方もいらっしゃるので、具体的に何が不安なのかお聞きし、その不安を解消できるようご説明を尽くすことも重要です。先の見通しも考慮したうえで、ご自身で考え抜いて判断していただくのがよいと考えています。

治療後に鼻をよい状態に保つためのセルフケアとして、継続的な鼻うがいが推奨されます。特に好酸球性鼻副鼻腔炎と診断された方には、毎日1回は鼻うがいを続けるようお話ししています。手術後の患者さんも、鼻の中をよい状態に維持するためにしっかりと鼻うがいを続けていただきたいと思います。手術によって鼻腔から副鼻腔への通り道が確保されているので、鼻うがいもしやすくなっているはずです。また、ウイルス感染の予防や花粉症などアレルギー対策にも日々の鼻うがいは有効です。

そのほか、再発を防ぐために、もともとの副鼻腔炎の重症度に応じてステロイドの点鼻薬を継続したり、風邪をひいてしばらくたっても鼻の調子がよくならないときには薬を追加したりすることもあります。喘息を合併している方は、吸入ステロイド薬を使って喘息の症状をコントロールしていくことも重要です。慢性副鼻腔炎も喘息も完治しにくい病気なので、上手に付き合っていくには日々のケアや体調を崩したときの適切な対処が欠かせません。

ほかの病気と同様に、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎も早期診断と早期治療が重要です。嗅覚障害には副鼻腔炎以外にウイルス感染によるものもあり、いずれも早めに治療したほうが嗅覚を取り戻せる可能性が高まります。また、花粉症が長引いていると感じている方は、花粉症ではなく副鼻腔炎かもしれません。花粉症のピークを過ぎても症状が治まらなければ一度受診されるようおすすめします。ちょっとしたことでも日常生活で鼻に関わるお困り事があれば、早めに耳鼻咽喉科(じびいんこうか)にご相談ください。

参考文献

  1. 難病情報センター 好酸球性副鼻腔炎(指定難病306)(https://www.nanbyou.or.jp/entry/4537)
  2. T.Miwa,et al. Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 2001 May;127(5):497-503.
  3. Brian S Schwartz,et al. Allergy. 2023 Oct;78(10):2659-2668.
  4. Claus Bachert,et al. Lancet. 2019 Nov 2;394(10209):1638-1650.
  5. Brian J Lipworth,et al. N Engl J Med. 2025 Mar 27;392(12):1178-1188.
  6. Joseph K Han,et al. Lancet Respir Med. 2021 Oct;9(10):1141-1153.
  7. K.Hosoya,et al. Patient Prefer Adherence. 2023 Mar 27:17:861-872.

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