広島県福山市に位置する中国中央病院は、かつて学校の先生とその家族を対象とした結核治療の職域病院として誕生し、時代の変化とともに地域住民へ広く開かれた中規模病院へと変遷を遂げてきました。
同院を率いる病院長の玄馬 顕一 先生は、現在も自ら外来や入院患者の診療を担当し、現場の目線を大切にし続けています。同院が歴史の中で培ってきた専門性や、診療科の垣根を越えた温かみのある医療体制について、玄馬先生にお話を伺いました。
当院は、学校の先生の結核治療を行うための病院として1961年に発足いたしました。当時は一般病床40床に対して結核病床が155床と非常に大きな割合を占めており、結核治療における当院の役割は大きかったと聞いています。
そこから時代の変化に合わせて徐々に一般の診療へとシフトしていき、現在では職域病院という意識は少なくなっています。学校の先生方がお見えになるのは健診や人間ドックの際が中心であり、普段の診療においては周辺地域にお住まいの皆さんが病気で来院される、地域の病院となっています。
当院の結核治療の歴史の中で育まれてきたのが、呼吸器疾患や血液疾患に対する医療です。これは、福山市の医療機関の多くに医師を派遣していた岡山大学の中で、呼吸器疾患と血液疾患を専門としていた第二内科から医師が派遣されていたのが福山市周辺で当院だけだったからです。
そのため、現在でも自然と呼吸器や血液の専門性を持つスタッフがそろい、それに伴って患者さんも集まってくださるという流れが続いています。
呼吸器の分野では、肺がんや間質性肺炎といった病気を中心に診療を行っています。近年は、健康診断のX線検査などで胸部に異常な陰影が見つかり、近隣のクリニックからご紹介いただいて精密検査や治療へと進むケースが非常に目立ちます。当院は肺がんの治療件数を積み重ねており、今後も実績を積み重ねていきたいと考えています。
治療における大きな特徴は、当院が243床という小回りが利く規模(2026年6月時点)ゆえに、呼吸器内科と呼吸器外科の垣根が低く、迅速に治療方針を決定できる点にあります。具体的には、呼吸器内科の診療を担当する私の部屋の隣に呼吸器外科の部長の部屋があるため、何かあればすぐに隣へ足を運び、手術が可能かどうかその場で相談を重ねることができます。また、呼吸器内科と呼吸器外科の外来の曜日が重なる火曜日などには、呼吸器内科を受診されたその日のうちに呼吸器外科の診察を受けていただくような、スピーディーな連携体制を整えています。
もう1つの特徴は、低侵襲(ていしんしゅう)(体への負担が少ない)な治療を基本としていることです。手術においては手ブレが抑制できるロボット手術を積極的に取り入れているほか、傷口が1つで済む単孔式胸腔鏡手術も取り入れているなど、低侵襲な選択肢を幅広く提示することが可能です。
血液の分野では、白血病や悪性リンパ腫などの血液腫瘍(けつえきしゅよう)に対する治療を中心に行っています。当院を受診される方は血液検査での異常細胞の発見やリンパ節の腫れをきっかけに紹介されてくる方がほとんどです。患者さんが遠方の都市部までいかずとも、福山市で本格的な加療を受けられる体制を目指しています。
当院では、白血病などの治療において造血幹細胞移植にも対応しています。さらに、移植を受けられた後の患者さんを継続的にケアする「移植後長期フォローアップ外来」も行っています。
このように、診断から退院後のフォローまで一貫して手厚く診ることができる体制が、当院の大きな支えとなっています。
当院のもう1つの特色として、産婦人科の存在が挙げられます。当院の産婦人科は年間400件以上の分娩数があり(2024年1月-12月実績)、福山市内の6つの分娩施設の1つです。
特に力を入れているのが初産の方も含めた無痛分娩*の実施で、無痛分娩を希望される妊婦さんからの当院へのご相談が増えており、福山市内での出産に携わるものとして、責任をもって患者さんの期待に応えたいと考えています。当院は産婦人科のほかにも外科や内科、小児科といったさまざまな診療科があり、万が一の合併症などの際にも他科とすぐに連携できるため、患者さんにとって大きな安心材料につながっているのではないでしょうか。
*無痛分娩は硬膜外麻酔で分娩時の痛みを緩和します。痛みがまったくなくなるわけではありません。赤ちゃんが産まれるまでの時間が長くなり、赤ちゃんが産まれる際、吸引や鉗子などの器械を使う頻度が高くなります。また、陣痛を促す薬(子宮収縮薬)を使う頻度が高くなります。費用は分娩費用のほかに無痛分娩の費用として別途約13万円がかかります。
近年、がんや悪性リンパ腫の治療においては、入院せずご自宅から通いながら抗がん薬の投与を行う外来化学療法が増加し、化学療法の過半数を占めるようになっています。当院が特に注力しているのは、多職種による徹底した化学療法のサポート体制の構築です。
当院の外来化学療法室では、抗がん薬の点滴や内服を行う前に、必ず薬剤師が患者さん全員と個別に面談を実施しています。
この面談では、前回の治療による副作用の現れ方や、お薬の飲み残しがないかなどを細かくチェックしています。さらに、当日に実施した採血の結果を医師が確認し、看護師からの聞き取り情報も合わせたうえで、最終的に医師が診察室で診るという流れです。
当院では抗がん薬治療に深い関心を持ち、専門的な資格を有する薬剤師がそろっているからこそ、化学療法を受ける方全員への毎回の面談という手厚い関わりが可能となっています。このような当院独自の手厚い化学療法は、関わるスタッフの大きな誇りとなっています。
当院の特徴として、診療科をまたいだチーム医療の自然な実践も挙げられます。
たとえば、リウマチなどの病気を扱う膠原病内科(こうげんびょうないか)の患者さんは、病気の特性上、肺に病変を伴うケースが少なくありません。また、治療に使用するステロイドや免疫抑制剤の影響で、肺に感染症を引き起こすリスクも存在します。
そうした際、当院では膠原病内科と呼吸器内科の医師が密に連絡を取り合い、入院中から一緒にお1人の患者さんを診療する体制をとっています。特定のセンターなどの組織を作らずとも、医師同士がこの患者さんを一緒に診てほしいと声をかけ合い、柔軟に役割を割り振る文化が、当院にはあります。高齢の患者さんが増え、複数の持病を抱えるケースが多くなった現代だからこそ、こうした診療科間の風通しのよさが大きな強みとなって現れると感じています。
私は病院長という立場になりましたが、現在も変わらずに外来を担当し、入院患者さんの主治医として病棟を回っています。現場に立ち続けることで、周囲のスタッフが今どのような状況にあるのかが肌感覚で分かりますし、医療の課題にもいち早く目が届くメリットを実感する日々です。当院の伝統として、院長室のドアは常に開け放たれており、誰でもいつでも入ってこられる雰囲気を大切にしてきました。この開放的な空気が、病院全体の相談しやすい環境につながっているのかもしれません。
当院は243床の規模の病院であり、500床を超える、さまざまな診療科をそろえるデパートのような存在にはなれません。しかし、特定の分野においてしっかりとした医療を提供する「専門店」が集まったような病院でありたいと考えています。
私自身、長く地域連携の責任者も務めてまいりましたので、地元の開業医の先生方とのつながりも非常に緊密です。もし体に不調や健康上の不安や困ったことがありましたら、どうか遠慮なく当院を頼っていただきたいと思います。
地域の皆さんが安心して暮らせるよう、私たちはこれからも親身になって寄り添い、丁寧な医療を届けてまいります。
様々な学会と連携し、日々の診療・研究に役立つ医師向けウェビナーを定期配信しています。
情報アップデートの場としてぜひご視聴ください。