AYA世代(思春期・若年成人)と呼ばれる若い時期にがんを患うと、医療の問題だけでなく、勉学や仕事、妊娠・出産など、生活上のさまざまな場面に影響をきたすといわれています。今回は、AYA世代がんの治療の特徴や、妊孕性(妊娠する力)の温存の問題などについて、国立国際医療研究センター病院 乳腺・腫瘍内科の清水 千佳子先生に伺いました。
AYA世代がんの治療方法は、高齢の方と比べても特に違いはありません。標準治療と呼ばれる、現時点でもっともよい治療であることが示されている方法を中心に行います。臨床試験も選択肢の1つです。一般的には若い方のほうが臓器の機能が丈夫であるため、しっかりと治療を受けられれば高齢の方と比べて治療後の見通しはよりよいと考えられます。
AYA世代がんの患者さんの中には、がんの治療だけでなく幅広い医療を必要とする方もいらっしゃいます。当院は総合的な医療を提供する病院として、次のような複数の診療科でAYA世代のがんの患者さんをサポートしています。
産婦人科では、生殖医療を専門とする医師による、妊孕性温存に関する相談や対応を行っています。妊孕性温存について、詳しくは次の項目で説明します。
がんの原因となる遺伝子の変異に基づく医療を、がんゲノム医療といいます。当院は、がんゲノム医療を行う専門外来として臨床ゲノム科を有しています。未発症でも遺伝性のがんが疑われる方やご家族に届けられるようなケアの提供を目指す外来です。
脳腫瘍などにより救急搬送されてくる患者さんの中には、AYA世代の方もいらっしゃいます。急性期(病気になり始めた時期)の患者さんにも、救命救急センターなどで対応しています。
感染症やその疑いのある方を診る総合感染症科では、HIVウイルスを専門とする医師と連携して、HIV感染者に見られる悪性腫瘍への対応を行っています。
治療方法によっては強い副作用が起こり得るため、患者さんは治療以外のさまざまな問題に直面することがあります。特に、子どもから大人へと移行し家族を形成していく時期にあるAYA世代の患者さんでは、妊孕性と呼ばれる卵巣や精巣の機能、あるいは性機能に影響をきたすことがあります。がんを治療できても、将来的に子どもを持ちたいという患者さんの希望が満たせなくなる場合があるということです。
近年では妊孕性温存といって、生殖医療の技術を活用してがんの治療前に精子や卵子を凍結保存することが可能になってきています。将来的に子どもを持ちたいという希望が少しでもある方は、ぜひ担当医に伝えてください。がん治療を行った後では、精子や精巣の機能が低下して適切な状態で凍結することが難しくなる場合もあります。妊孕性温存の可能性を知るためにも、まずは声を上げてみることが大切です。
子宮がんに対する子宮全摘術のような直接的な影響だけでなく、抗がん剤治療や放射線治療などの間接的な治療も、妊孕性に影響する場合があります。命を守るためにがんの治療を優先しなければならないこともありますが、医師としては、患者さんにはいつも精神的に健康であってもらえるよう心に寄り添うことを大事にしています。
妊孕性への影響について、医療者側がしっかりと患者さんに伝えられるよう丁寧に対話するとともに、患者さん自身が迷いながらも気持ちに折り合いをつけられるまで、周囲が支えながら治療の選択肢を十分に検討していくことが大切だと思います。
がんと疑われたり診断されたりしたとき、基本的にはがん診療連携拠点病院にある“がん相談支援センター”が窓口になります。厚生労働省が指定して設置されている施設ですので、まずは相談してみるとよいでしょう。
AYA世代がんは患者さんの数が少なく種類も多様であるため、医療者側もAYA世代がんの治療の経験が豊富とはいえないことが現状です。しかし最近では、私たち国立国際医療研究センター病院の“AYA支援チーム”のようにAYA世代がんの医療や支援に携わる施設や団体が、心理社会的な問題に関するケアも含めた知識・技術の向上を図るべく啓発や教育活動を行っています。
当院で2018年に発足したAYA支援チームは、看護師や社会福祉士などの多職種が連携し、AYA世代がんの患者さんやご家族のさまざまなお悩みや困りごとをサポートする活動を行っています。患者さんの中には、「医師や看護師には医療に関することしか聞いてはいけないのでは」と思っている方も多いかもしれませんが、悩んでいることや困っていることがあれば何でも相談していただきたいと思っています。まだ希望や要望が明確になっていない患者さんにも、まずはご挨拶させていただき、できる限りフォローしていくよう努めています。がんの治療を行うだけではなく、患者さんが少しでも悩んでいるときには寄り添えるような環境づくりを目指しています。
当院の乳腺・腫瘍内科では、がんの病状や予後(病気の見通し)についてお子さんやご家族にどのように伝えたらよいのかというお悩みをよく聞きます。そこで当科では、AYA支援チームの看護師や公認心理師と協力しながら、患者さんもご家族も納得できる方法を一緒に考えていくことを心がけています。子どものケアを専門的に行っている小児科医や、チャイルド・ライフ・スペシャリスト*という専門資格を持つスタッフなどにも協力をお願いすることもあります。
AYA世代がんの患者さんのお悩みは、学校や仕事のこと、家族のこと、お金のこと、病気との向き合い方など、必ずしも答えがあることばかりではありません。しかし、じっくりと話し合い一緒に対策を考えていけるスタッフがそろっていますので、困ったときはぜひ、声をかけてみてください。
*チャイルド・ライフ・スペシャリスト: Association of Child Life Professionals(ACLP)が資格認定を行い、病気の子どもや家族に心理社会的支援を提供する専門職
がんの治療を行うなかで、困ったときは自分で何とかしようと思う方もいらっしゃるかと思いますが、助けを求めるのは決して恥ずかしいことではありません。現場ではできる限りのサポートをしていけるよう努めていますので、気になることがあれば、ためらわず声に出していただけると嬉しく思います。また、『AYA世代がんの包括的ケア提供体制――医療や支援の課題について』でもお話しするように、医療従事者以外にも皆さんの役に立ちたいと思っているがん経験者の先輩はたくさんいらっしゃいます。私たちはそうした方々に患者さんをつなげていくお手伝いもしていますので、遠慮なくご相談ください。
国立国際医療研究センター病院 がん総合診療センター 副センター長、乳腺・腫瘍内科 医長
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