概要
トリソミー症候群とは、染色体異常の一種であり、23対46本ある染色体のどれか一本が多く、47本になったものをいいます。染色体には一般の遺伝情報が含まれる常染色体と性別を決定する性染色体があり、そのどちらかが一本多いかによって常染色体トリソミー、性染色体トリソミーに分けられます。また、トリソミー症候群はトリソミーと呼称される場合もあります。
通常、染色体異常がある場合には胎児の段階で死亡することがほとんどですが、いくつかのトリソミー症候群では出生することがあります。
常染色体トリソミーには、ダウン症候群として有名な21番染色体トリソミーや13番染色体、18番染色体トリソミーがあります。
また、性染色体トリソミーにはトリプルエックス症候群、クラインフェルター症候群、XYY症候群があり、いずれも常染色体トリソミーより症状は軽度で 生命に関わることはありません。
原因
トリソミー症候群は卵子や精子の染色体異常によって引き起こされます。
正常な卵子や精子は、対で持つ46本の染色体の、半数の23本の染色体を持ちます。これは、卵子や精子が作られるときに元となる細胞が分裂し、その段階で23対46本の染色体がそれぞれ1組しか持たない状態となるからで、これを減数分裂といいます。卵子が受精すると23対46本の染色体が完成し、母親の胎内で正常な発育を遂げます。
しかし、減数分裂が正常に行われず、卵子や精子に含まれる染色体の数が一本多くなると、受精により23対47本の染色体となります。減数分裂が正しく行われない原因は不明ですが、加齢の影響が大きいといわれています。
症状
症状はトリソミー症候群の種類によって大きく異なります。一般的には常染色体トリソミーのほうが性染色体トリソミーよりも重篤な症状が現れやすいです。特に13番染色体トリソミーと18番染色体トリソミーは無事に出生したとしても死亡率が高く、生後1年以内に死亡する例がほとんどです。
常染色体トリソミー
21番染色体トリソミー(ダウン症候群)
目がつり上がっていて小さい、耳の位置が低いなどの外見的な特徴が現れます。身体的には、約半数に先天心疾患や難聴があり、成長すると成長曲線を外れて低身長や肥満などが目立ってきます。また、知的障害があり、青年期以降にはうつ病や適応障害を発症しやすいといわれています。
18番染色体トリソミー(エドワーズ症候群)
胎児期から著明な発育不良があります。また、筋緊張低下、筋肉や皮下脂肪が非常に少ないことなどが特徴です。口と顎が小さく後頭部が突出する特徴的な顔貌を呈します。90%の児に先天性心疾患がみられ、他に呼吸器や消化器の奇形もみられます。
13番染色体トリソミー(パトウ症候群)
胎児期からの発育不良がみられることが多いです。口蓋裂や口唇裂などの顔面奇形を伴うことが多く、小眼症や虹彩欠損などの目の奇形も多くみられます。脳の奇形や重度の心疾患を併発することが多く、特に心疾患は80%以上の確率で起こるとされています。生殖器の異常も多く、停留精巣や双角子宮などがみられます。重度知的障害を伴い、多くは生後1か月未満で死亡し、心疾患などの身体的病変の程度が予後に大きく関わります。
性染色体トリソミー
クラインフェルター症候群(47XXY)
男児として出生し、X染色体が1本多い異常です。症状は軽度であり、精巣の発達障害や無精子症などで不妊症となって初めて診断されることが多いです。思春期以降には体格が一般的な男性よりも華奢で女性らしくなることが多く、糖尿病や甲状腺機能低下症、男性乳がんなどを発症しやすい傾向にあります。
トリプルエックス症候群(47XXX)
女児として出生し、X染色体が1本多い異常です。症状はほとんどなく、二次性徴も正常な染色体型の女性と比べてほとんど差はなく、妊娠や出産が可能です。ただし、軽度の知的障害が認められることがあり、特に言語発達に問題を生じるケースが多いといわれています。
XYY症候群(47XYY)
男児として出生し、Y染色体が1本多い異常です。外見上は背が高く男性らしい体つきになります。知的発達がやや遅れることもありますが、一般的には社会のなかで通常の生活を送ることが可能です。
検査・診断
常染色体トリソミー
先天性心疾患やさまざまな奇形が生じるため、胎児期からエコー検査などで異常を指摘されていることがほとんどです。そのため、母親の年齢などによって染色体異常のリスクを考慮し、出産前に羊水検査などの出生前診断で染色体異常の検査が行われることがあります。出生後にトリソミーを疑う場合にも、診断には血液による染色体検査が必須です。
また、出生後には心疾患や種々の臓器障害など、生命の維持に関わる病変の精密な評価が行われます。具体的には、エコー検査やCT検査などの画像検査、血液検査などが適宜行われます。
性染色体トリソミー
重篤な症状が現れないため、不妊症検査で初めて診断されることもまれではありません。トリプルエックス症候群やXYY症候群では生殖能力にも大きな異常がないため、偶然受けた遺伝子検査や胎児期の出生前診断で発見されることがほとんどです。
治療
トリソミー症候群を根本から治療する方法はありません。生命予後を左右する常染色体トリソミーでは、心疾患や消化器の奇形に対して手術や薬物療法などが行われます。症状が重度な場合には、生後間もない頃から繰り返し手術が必要となることも多々あります。
また、出生時から人工呼吸器管理や人工栄養管理を必要とすることも多く、13番染色体トリソミーや18番染色体トリソミーでは生後退院できないまま死亡することもまれではありません。
性染色体トリソミーの一種であるクラインフェルター症候群は、無精子症による不妊症を呈するため、適切な生殖医療が必要となります。
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