インタビュー

ナルコレプシーの症状や取り巻く環境は人それぞれ――社会と折り合いを付けていくために

ナルコレプシーの症状や取り巻く環境は人それぞれ――社会と折り合いを付けていくために
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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ナルコレプシーは、突然の耐えがたい眠気や、感情が大きく動いたときに体の力が抜ける“情動脱力発作”などの症状を特徴とする病気です。本人も病気と気付きにくく周囲からは怠けていると誤解されることがあり、その結果自分を責めている方もいるかもしれません。今回は、NPO法人日本ナルコレプシー協会(以下、NPOなるこ会) 副理事 兼 事務局長の駒沢 典子(こまざわ のりこ)さんに、ご自身がナルコレプシーだと分かるまでの経緯と現在の症状、社会生活を送るうえで工夫されていること、患者さんへのアドバイスなどについてお話を伺いました。

小学校高学年――病気とは気付かずに過ごしていた

私の場合、小学校高学年の頃から、家に友人が来ているのにトイレで隠れて眠ったり、ピアノのレッスン中に友人が弾いていると眠くなったりしていたので、この頃から症状は出始めていたのかもしれません。とはいえ、授業中に寝てしまうことはなかったので病気とは思っていませんでした。

中学校時代――授業中の強い眠気と成績の低下

私が授業中に頻繁に眠るようになったのは、中学1年生の頃からです。成績が次第に下がり、親からも何か問題があるのではないかと言われるようになりました。自分でもおかしいと思い始めていた頃、学校で黙祷中に眠ってしまったのです。クラスメイトにも寝ていたことを指摘され、非常に恥ずかしい思いをしました。

この出来事がきっかけで家庭用の医学事典を調べ、ナルコレプシーを知りました。解説を読みこの病気かもしれないと思いましたが、思春期でもありなかなか親に言えず、高校に入ったら1人で受診しようと決めていました。

試験中も眠くなるため、短い時間で問題を解けるように工夫する必要があり、高校受験は私にとって厳しいものでしたが、何とか合格することができました。

高校時代――総合病院での診断と周囲の無理解

高校に入った私は総合病院を1人で受診し、MSLT(反復睡眠潜時検査)でナルコレプシーと診断されました。診断を受けたときは、やっぱり病気なのだと分かって安堵しましたし、これで親に説明できるからよかったと感じました。

その後、親から別の病院をすすめられ転院したものの、そこでは受付の方も診てくれた先生もナルコレプシーをよく知らないのではないかという印象を受けました。それでも眠気を抑える薬を処方してもらえたのはありがたかったです。

学校では担任の先生に、居眠りは病気による症状であるということを伝えたのですが、理解してもらうのは難しいようでした。本当にがっかりして、もう病気についてカミングアウトするのはやめようと思いました。

次第に殻に閉じこもるようになった私は、学校へ行くのがつらいと感じながらも卒業までなんとか通い続けました。

大学時代――情動脱力発作の症状が強くなる

大学に進学した私は、病気のことを友人に告げることもなく学生生活を送っていました。しかし、この頃から情動脱力発作の症状が強くなったのです。主治医に相談したところ、「今処方している眠気を抑えるもの以外に薬はない」「あまり笑わないように」とアドバイスされました。しかし、感情が湧き上がった段階で発作が起こるので、笑わないようにしたところで抑えられるものではありません。

ほかに手だてはないものかと考えた私は、ナルコレプシーなどの睡眠障害に関する専門書を購入し調べてみました。すると、情動脱力発作には三環系抗うつ薬という選択肢があると本に書かれていたのです*

その後、新聞で故・本多 裕(ほんだ ゆたか)先生がナルコレプシーについて解説している記事を読み、診察を受けたいと思って、すぐに本多先生の病院を受診しました。これが、本多先生との出会いです。

*情動脱力発作の治療薬の候補となるのは三環系抗うつ薬、SSRI、SNRIなど(日本睡眠学会「ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン」より)。

初めて病気のことを理解してもらえた経験

私がこれまで受診した医療機関では、ナルコレプシーと伝えても「そんな病気があるのか」という反応をされることがありました。一方、本多先生がいらっしゃった病院はとても優しく受け入れてくださり、初診の採血のときには看護師さんから「今まで大変だったでしょう」と声をかけてもらいました。理解してもらえて涙が出るほど嬉しかったのを覚えています。

先生から教わったナルコレプシーとの付き合い方

本多先生からは、治療のみならずナルコレプシーと付き合いながら生活していく処世術も教えていただきました。特に印象に残っているのは「必要なとき以外は無理にカミングアウトしなくてよい」というものでした。最近は必ずしもそうではないのですが、以前は医療従事者でさえ理解していないことも多い病気だったことから、当時は有効な対応方法だったと思います。

そのほか、薬を飲むタイミングや、出かけるときは仮眠の時間を含めてスケジュールを組むとよいといった生活上の工夫を教えていただけたのはとてもありがたいことでした。長い間、ナルコレプシーの患者さんに寄り添って診療を続けてきた本多先生ならではのアドバイスだったと感じます。

現代の日本では、睡眠不足の方が増え、居眠りくらい誰にでもよくあることという印象をお持ちの方が多いかもしれません。また、SNSを見ていても、よく居眠りするだけでナルコレプシーだと誤解している方が少なくないように感じます。

しかしナルコレプシーは、覚醒と睡眠のスイッチの調整に関わるオレキシンという物質が欠乏することで、睡眠と覚醒のバランス調整がうまくいかなくなってしまう病気ですので、睡眠不足による居眠りとは違います。日中に突然眠くなるほか、睡眠中は頻繁に覚醒してしまうこともあります。

日本では居眠りについて異常があると捉えられにくいため、ナルコレプシーについて誤解があるかもしれませんが、一般的な居眠りとは異なり、病気としての特徴があることを知っていただけたらと思います。

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(写真:PIXTA)

ナルコレプシーの代表的な症状は、睡眠発作、情動脱力発作、入眠時または覚醒時の幻覚、金縛り(睡眠麻痺)などで、そのほかにもさまざまな症状が合併して起こります。上記以外の症状の例についてお話しします。

私の場合、夜の寝つきはよいものの2~3時間経つと覚醒し、その後も1時間ごとに目覚めるという症状が連日続いています。22時頃に就寝し、もう朝かと思って起きるとまだ真夜中で、その後も頻繁に起きてしまいます。若い頃は睡眠薬を使用していましたが、複数の薬の耐性が生じたために現在は服用できるものがありません。睡眠薬なしで続けて眠ることは難しく、夜が長くてつらいと感じています。

ナルコレプシーの患者さんには肥満や糖尿病の合併が多いといわれています。私も体重のコントロールには気を付けていましたが、2型糖尿病の確定診断を受けて治療を開始しました。1年治療を続けた現在は体重が減少し、血糖値も改善してきています。年を重ねると生活習慣病も発症しやすくなりますから、ナルコレプシーで生活習慣病が気になる方は早めに対策を立てるとよいかと思います。

私自身、多汗に悩まされており、ほかの患者さんとも汗の悩みについてはよく話します。どれくらい汗をかくかというと、私の場合は肩にかけているバッグの皮のストラップが変色し、しばらく使っているとちぎれてしまうほどです。メイクをしても汗で落ちてしまうので、ナルコレプシーの患者さんで汗をかきやすい症状がある方は、メイクをする場面での汗対策も大変ではないかと思います。

このようにさまざまな症状が現れるナルコレプシーですが、眠気に関しては、すぐに眠れる環境さえ整っていれば、工夫して対策できることの多い症状ではないかと思います。そのため、置かれた環境によっては薬を服用しなくてもよい方もいらっしゃるかもしれませんが、私は社会生活に適応するために服用しています。ナルコレプシーは、眠気の症状がつらいという以上に、社会に合わせて生活するのが難しい病気だと感じています。

ナルコレプシーの患者さんが気になると思われる疑問について、私なりの考えをお伝えしたいと思います。

ナルコレプシーの方が就労する場合、相性のよい職場とマッチングすることが大切だと考えます。眠くなったらいったん仮眠を取って、その分の仕事を後で取り返すことができる環境や業務内容であれば、支障は出にくいと思います。

それでも、なかなかうまくいかず転職を繰り返している方は、眠気の症状以外の面についてもサポートを受けることが1つの手段です。たとえば、ナルコレプシーだけではなく発達障害を合併している場合もあります。こうした場合に、もし生活や仕事で困っていることがあれば、発達障害を専門とする医療機関に相談してみるとよいでしょう。周囲に理解者を増やし、環境を整え暮らしやすくしていくことが大切です。

服薬によって眠気が改善していれば、医師の診断書(運転が可能である旨の記載があるもの)の提出が必要となる場合がありますが、自動車運転免許の取得や更新は可能です。車の運転をするときは細心の注意を払うとともに、少しでも眠気を感じたら、すぐに路肩に寄せて仮眠を取るといった対策をする必要があるでしょう。

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(写真:PIXTA)

ナルコレプシーのみでは医療費や生活に関する公的な支援の対象とはならないのが現状です(2024年7月時点)。子どもの頃から服薬を始めるため医療費負担が大きいにもかかわらず、自立支援医療制度(公費医療負担制度)の適用になっていないことから、私たちNPOなるこ会を中心に、ナルコレプシーを自立支援医療制度の対象にしてほしいという要請を行っている状況です。

一方、世界的に睡眠障害に関する理解は進んでいて、WHO(世界保健機関)による国際疾病分類(ICD-11)*で、“睡眠・覚醒障害”の項目が追加されました。今後は、ナルコレプシーなどの睡眠障害で困っている方への公的支援制度の整備も期待されます。

*WHOが作成する病気の分類。ICD-11は、ICD-10から約30年ぶりに改訂され、2018年6月に公表された。

このようにナルコレプシーへの支援が十分に整わないなか、NPOなるこ会では、患者さんの不利益になることへの反対活動を行ってきました。たとえば、ナルコレプシーが偏見の目で見られないように、運転免許制度では病名を限定せずに“重度の眠気の症状を呈する睡眠障害”と記載するようにはたらきかけ実現しました。

そのほか、公益財団法人 神経研究所 睡眠健康推進機構を通じて、希望する小・中学校を対象に睡眠の大切さやさまざまな睡眠障害について伝えるパンフレットを配布したり、睡眠の重要性を伝える講座を開いたりしています。

ナルコレプシーについて、メディアでもいろいろ発信される時代になりましたが、その体験談や症状はあくまでも個人的なもので、全ての方が同じ体験をしているとは限りません。患者さんごとに背景は異なりますし、症状の出方もさまざまです。メディアに取り上げられている患者さんの体験だけを基準としないでいただければと思います。

たとえば、これは私の体験ですが、居眠りをしたことで怠けているとみなされ、つらい思いをしてきました。“ナルコレプシーは怠惰な人ではないか”といった思い込みによる社会的な偏見は、社会が変わることで軽減されていくのではないかと思います。

まず健康な方たちが余裕を持って幸せに暮らせる社会になれば、その幸せが私たちのほうにも流れてくるのではないかと考えます。たとえば、何らかの失敗をしてしまった方がいたときに、 “もしかしたら何か事情があって失敗したのかもしれない”というように考えられる寛容さが大切だと思います。

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(写真:PIXTA)

病気とともに人生を歩んで行くには、その方なりの処世術が必要です。患者さんごとに症状も違いますし、置かれている環境も異なりますので、ほかの方の実践する工夫をそのまま参考にすることはできないかもしれません。

それでも、患者会から得られる情報やほかの患者さんの工夫も参考の1つとして、社会との折り合いのつけ方をご自身で見つけていただければと思います。

SNSでも患者さん同士でつながることが可能です。ただし、インターネット上にはさまざまな情報があふれています。病気について調べる場合は、医療監修として医師の名前が書かれた記事を読んでいただければと思います。患者さんが情報を発信していることもありますが、あくまでも個人の意見として参考程度にとどめるのがよいでしょう。

病気は、その方の1つの側面でしかありません。病名を告げると、その方の持つ個性ではなく“ナルコレプシーである”ことしかみてもらえなくなるのは悲しいことです。たとえば、仕事を選ぶときは病気だけを基準にするのではなく、ナルコレプシーの患者さんに適した職業は決まっていませんので、その方が得意なことを活かせる仕事に就けばよいと思います。

ここまでナルコレプシーについて述べてきましたが、誰もが、人生という旅を歩んでいれば何らかの困難に出会うことでしょう。その困難と少しずつ折り合いをつけながら、前に進んでいくことが大切だと考えます。

ただし、社会を取り巻いている問題は、社会全体で解決を目指す必要があると思います。たとえば、ナルコレプシーの治療薬には流通の制限が設けられているものがあります。入手先が限定されていることは、患者として不便を感じる部分です。病気によって厳しい状況に置かれている患者がいることを知っていただき、社会全体で取り組んでいくべき問題として捉えてもらえたらと思います。それにより、患者の利便性や状況改善のために流通ルートを見直すといった変化が起こることを期待しています。

少しずつでも社会が変わっていくことを願って、これからもNPOなるこ会の活動を続けていきたいと思います。

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