横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 泌尿器科部長・准教授、田園都市レディ...
湯村 寧 先生
横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター担当部長・准教授
村瀬 真理子 先生
抗がん剤治療や放射線治療を行うと将来子どもを持つことができなくなる、と考えている方は多いのではないでしょうか。しかし、がん治療前に「妊孕性温存療法」を行うことで、将来子どもを持つ可能性を残すことができます。
今回は、横浜市立大学附属市民総合医療センター生殖医療センターの部長である湯村寧先生(男性不妊担当)と担当部長である村瀬真理子先生(女性不妊担当)に、妊孕性温存療法についてお話を伺いました。
がんに対して抗がん剤治療や放射線治療を行うことで、精巣や卵巣の機能が弱まり、妊孕性(妊娠する能力)が低下してしまうことがあります。このように、がん治療後に妊娠しづらくなってしまうと予想される方に対して、あらかじめ妊娠する可能性を残しておくための治療を「妊孕性温存療法」といいます。
妊孕性温存療法を行うのは、がん治療によって将来的に妊孕性が低下すると考えられる男女です。
ただし、女性は妊孕性温存療法によって一時的に女性ホルモンが上昇するため、ホルモン依存性のがん(がん細胞の増殖にホルモンが影響を与えているがん)の場合には、がんが進行する恐れがあります。そのため、妊孕性温存療法を希望される場合には、必ず主治医からの紹介が必要です。
年齢による制限は男性の場合はありません。女性の場合、当院では卵子凍結は43歳、受精卵凍結は45歳までという年齢制限を設けさせていただいています。また、凍結した卵子または受精卵を子宮へ移植する胚移植を行うのは50歳までとさせていただいています(年齢制限は病院によって異なります)。
男性の妊孕性温存療法では、射精された精液から精子を採取・凍結して保存しておきます。ただし、もともと何らかの原因で射精ができない方や、無精子症(射精された精液の中に精子がない状態)の方の場合には、精巣を切開して精子を回収する「精巣内精子回収術」という方法で精子を採取することもあります。
採取・凍結した精子は液体窒素を用いて保管し、がん治療終了後、子どもを持つことを希望されたときに融解して使用します。
女性の妊孕性温存療法には、大きく3つの方法があります。
これら以外にも、放射線治療を行う方の場合、卵巣を放射線が当たらない場所に移動する「卵巣移動術」も、妊娠する力を残すという意味では、妊孕性温存療法に該当します。
また、早期卵巣がんの場合、一般的な根治術としては、左右の卵巣と子宮の全摘術が行われますが、妊娠の可能性を残しておくためには、がんのある部分の卵巣だけ摘出して、対側の卵巣と子宮を温存する手術を選択する場合もあります。
卵巣組織凍結に関しては海外のデータなどから妊娠率・出産率が明らかではなく、2018年時点では研究段階の治療であるため、当院では実施しておりません。
当院で主に実施している妊孕性温存療法である、卵子凍結と受精卵凍結の流れについてお話しします。
いずれの治療においても、まずは排卵誘発剤を使用して排卵を促します。10日ほど連続して排卵誘発剤を使用することによって、月経周期に関係なく卵子を採取することが可能です。
治療期間(排卵誘発開始から採卵まで)は約2〜3週間です。抗がん剤の治療開始まで日程的な余裕がある方の場合には、できるだけ多くの卵子を採取するために2か月ほどかけて採卵する場合もあります。
卵子凍結では、採取した卵子をそのままの状態で凍結します。一方、受精卵凍結は、卵子にパートナーの精子を受精させ3〜5日間かけて培養したあと、細胞分裂が進んだ受精卵(胚)の状態で凍結します。
卵子凍結は、妊孕性温存療法が対象となる方であればどなたでも行うことができます。一方、受精卵凍結を行うことができるのはパートナーと法律上の婚姻関係にある方に限ります(ただし、受精卵を使用する際に婚姻関係が解消されている場合には受精卵を使用することができません)。
妊娠の確率は、受精卵凍結のほうが高いことから、ご結婚されている方であれば受精卵凍結を推奨しています。
がん治療が終了したあと、妊娠を希望される場合には受精卵を子宮へ移植する「胚移植」を行います。
精子凍結・卵子凍結の場合には、それらを融解したあとでパートナーの精子または卵子と顕微授精で受精させたのち、胚移植を行います。受精卵凍結の場合には、融解した受精卵を子宮へ移植します。
がん治療によって必ずしも自然妊娠ができなくなるとは限りません。がん治療後であっても、男性であれば精液所見*が改善していることがありますし、女性であれば正常に排卵がされていることもあります。
このように、凍結した精子や卵子、受精卵を使用しなくても妊娠できると考えられる場合には、患者さんと相談して凍結保存していたものを破棄することも可能です。当院では、凍結保存の更新手続きのため、毎年来院していただくので、その際に、将来の妊娠について患者さんとご相談させていただいています。
精液所見…精液検査でわかる精子の量や質、運動率など
妊孕性温存療法は保険適用ではなく自費診療の治療です。以下、当院で妊孕性温存療法を行う場合の概算金額です。
<男性の場合>
<女性の場合>
村瀬先生:がんの種類によっては、診断後すぐにでも抗がん剤治療を開始しないといけないものもあります。同時に、女性の妊孕性温存療法は卵子を採取するまでに2〜3週間を要するため、妊孕性温存療法を行うのかどうか、またどのような方法で行うのかを早急に決定する必要があります。
がんの告知を受け入れながら、限られた時間で多くの決定をすることは非常に困難であり、このときの意思決定についてサポートできるような体制を整えるべきであると考えています。
また、女性の妊孕性温存療法は男性に比べて新しい治療法のため、がん治療終了後にどのタイミングで胚移植を行うのかについて、いまだ明確な基準がありません。今後、データが蓄積されていくにつれて徐々に定まっていくと考えられますが、解決すべき課題は多く残っているといえます。
湯村先生:妊孕性温存療法を希望して受診される男性の患者さんの中には、1度抗がん剤治療を行った後に当院を受診される方が多くいらっしゃいます。
しかし、抗がん剤治療を1度でも行ってしまうと、精子の数は大きく減少してしまいます。もちろん、命が最優先ですので、血液疾患(白血病や悪性リンパ腫)などすぐにでも抗がん剤治療が必要ながんの場合にはやむを得ません。しかしながら、抗がん剤治療まで日程的な余裕がある方の場合には、がん治療前に妊孕性温存療法を開始できることもあります。
そのためには、がん治療を行う主治医と、妊孕性温存療法を行う主治医がもっとコミュニケーションを取る必要があると考えています。両者の連携体制を強固にしていくことで、多くの方に子どもを持つ可能性を残してあげることができればと思います。
村瀬先生:不妊治療を応用した技術を用いることで、がん治療後に月経がなくなってしまっても妊娠できる可能性があります。妊孕性温存療法を行うことで、勇気を持ってがん治療に臨むことができるという方もいます。
あらかじめ妊孕性温存療法を行うことで、妊娠・出産をされている女性は多くいらっしゃいます。がんと診断されて、将来の妊娠について不安を感じていることがあれば、ご相談のみでも構いませんので、受診なさってください。
湯村先生:先ほど抗がん剤治療を1度行うと精子の量が大きく減少するとお話ししましたが、それでも子どもを持つことができる可能性はあります。当院では、精液検査を受けることもできます。そのため、「一度抗がん剤治療をしてしまったけれど、精子の状態はどのようになっているのか」「昔に抗がん剤治療をやっていたけれど、まだ子どもを持てる可能性はあるのか」など何か心配事がある場合には、些細なことでも構いませんので、ぜひご相談に来ていただければと思います。
横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 泌尿器科部長・准教授、田園都市レディースクリニック 臨時職員
横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター担当部長・准教授
横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 泌尿器科部長・准教授、田園都市レディースクリニック 臨時職員
日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医・泌尿器科指導医日本生殖医学会 生殖医療専門医日本癌治療学会 会員日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本生殖医学会認定 生殖医療専門医(泌尿器科)の一人であり、男性不妊治療の専門家。横浜市の不妊相談などを担当し、男性不妊の啓発活動に努めている。また、横浜市立大学附属市民総合医療センターの生殖医療センター部長を務める。同センターは泌尿器科、婦人科に日本生殖医学会認定 生殖医療専門医(泌尿器科)が在籍しており、パートナーと一緒に治療を受けられる神奈川県内の施設である。
湯村 寧 先生の所属医療機関
村瀬 真理子 先生の所属医療機関
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