多汗症とは大量の汗をかく病気のことです。顔や手、腋、足の裏など全身から大量に汗をかく“全身性多汗症”と手のひらや足の裏など体の一部から大量の汗をかく“局所性多汗症”があり、多汗症の約90%は局所性多汗症といわれています。
中でも手のひらに大量の汗をかく原発性手掌多汗症は人口の約5%もいながら、医療機関を受診する人はそのうちの1割にも満たないというデータがあります。しかし、多汗症は治療によって改善できるようになってきているといわれています。そのため、気になる症状がある場合は一度医師に相談してみるとよいでしょう。
このページでは、多汗症の主な治療法について解説します。
多汗症は原因別に、何らかの病気を伴って生じる“続発性多汗症”と原因の分からない“原発性多汗症”があります。
医療機関で行われる多汗症の治療法は複数あり、原因や症状の程度によって異なります。このため、まずは原因を調べたうえで持続性の場合は原因となる病気の治療を、原発性の場合は症状の重症度などに合わせて、医師と相談しながら治療法を検討します。
続発性多汗症の場合は、原因となる病気の治療が検討されることが一般的です。原因となる病気は全身性と局所性でそれぞれ異なり、全身性では甲状腺機能亢進症などの内分泌代謝疾患、悪性腫瘍(がん)などが挙げられます。また局所性では、脳梗塞や末梢神経障害などが挙げられます。
原発性多汗症のうち、手のひらや足の裏、腋、顔や頭など一部分に大量の汗をかく“原発性局所多汗症”については、2015年に日本皮膚科学会による診療ガイドラインが作成され、標準的な治療法が確立されています。ただし、原発性局所性多汗症の治療には保険適用の治療と保険が効かない自由診療の治療があるため注意しましょう。
手のひらや足の裏の多汗症は“掌蹠多汗症”と呼ばれます。治療法としては、まず塩化アルミニウム液の外用、あるいはイオントフォレーシスが検討されます。これらの治療で効果が十分に得られなかった場合、A型ボツリヌス菌毒素の局所注射療法が検討されます。
また手のひらの多汗症では、重症の場合には手術治療が検討されることもあります。
塩化アルミニウム液を患部に塗る治療法です。軽度の多汗症では単純に塗るのみですが、重症の多汗症では治療薬を塗った上からゴム手袋などで密封する“密封療法”が検討されることもあります。腋の下や頭部・顔面の多汗症に用いられることもあります。
なお塩化アルミニウム液は保険適用の外用薬ではなく(2022年現在)、国内では製造販売されていないことが一般的です。しかし、治療を行う上で必要な薬であることから、保険適用外ではありますが多くのケースで院内で調合して作る"院内製剤"によって処方されます。
イオントフォレーシスとは水道水を入れた容器に手のひらや足の裏を浸し、弱い電流を流す治療法です。1回30分の治療を8〜12回繰り返すことによって汗の量の減少が期待できます。効果を持続させるためには続けて治療を受ける必要があります。
A型ボツリヌス菌毒素を局所注射することによって、汗の量を減少させる治療法です。腋の多汗症に行う場合には保険適用となりますが、それ以外の多汗症に対して行う場合には保険適用ではなく、自由診療となるため費用が高額になりやすいことが特徴です。
手のひらの多汗症では、重症の場合“胸腔鏡下胸部交感神経遮断術(ETS)”が検討されることがあります。ETSは全身麻酔下で内視鏡を使用し、胸部の交感神経節を切除したり、焼き切ったりする治療法です。
ETSは患部の汗の量が減少する一方、胸や背中、お尻などほかの部位から汗が大量に出る“代償性発汗”という合併症が生じる可能性があります。
腋窩多汗症では、まずは抗コリン薬の外用(保険適用)が第1選択ですが、ほかに塩化アルミニウム液の外用(保険適用外)や抗コリン薬の内服(保険適用)が検討されることが一般的です。
これらの治療で効果が不十分だった場合、A型ボツリヌス菌毒素の局所注射療法(保険適用)も検討されます。また患者さんの強い希望があれば手術治療が検討されることもあります。
頭部・顔面多汗症の場合、まずは塩化アルミニウム液の外用(保険適用外)や抗コリン薬の内服(保険適用)が検討されることが一般的です。
これらの治療で十分な効果が現れなかった場合、A型ボツリヌス菌毒素の局所注射療法(保険適用外)が行われます。また、患者さんの希望があれば手術治療も検討されます。
多汗症が疑われる場合は、まず皮膚科や形成外科の受診を検討しましょう。また治療には、保険適用の治療とそうでない治療があります。そのため、治療を受ける際は医師から治療の内容や効果・注意点・費用などについて、詳しく説明を受けることが大切です。
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