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腹痛や下痢・便秘を繰り返す場合、大腸がんの初期症状の可能性も?

腹痛や下痢・便秘を繰り返す場合、大腸がんの初期症状の可能性も?
菅沼 利行 先生

横須賀市立うわまち病院 第二外科 部長

菅沼 利行 先生

この記事の最終更新は2017年05月16日です。

大腸がんは日本人の死因ランキングで上位に入っている、とても身近な疾患です。しかし、日本における大腸がん検診の受診率は現在4割をきっており、大腸がんに対しての意識の低さが問題視されています。

今回は、大腸がんを発症する原因や初期症状、類似疾患や検診の大切さを、横須賀市立うわまち病院第二外科部長の菅沼利行先生にお話しをうかがいました。

人ごみ

大腸がんは日本人が発症するがんのなかでも死亡率が高く、女性では2位、男性では3位の死因となっています。私たち消化器の領域では最も多く遭遇するがんです。          

大腸は大きく、結腸と直腸に分けることができます。そして、結腸は右下から盲腸、上行結腸、横行結腸、左側の直腸は、上から下行結腸、S状結腸、直腸、そして肛門管となります。腸の内容物は、右側結腸部分ではまだ液状であり、肛門に移るにつれて固形化していきます。そして、大腸がんは大腸のなかでもS状結腸と直腸の部分にできやすいという特徴があります。

大腸がんになりやすい方の生活習慣は以下のことが挙げられます。

  • ハムやソーセージなどの合成肉の過剰な摂取
  • 過度の飲酒
  • 運動不足
  • 喫煙

このなかでも特に着目すべき生活習慣は、ハムやソーセージなどの合成肉を多く摂取するという点です。ハムやソーセージなどの食の欧米化は、発がんに結びついていると指摘されています。かつて日本人に大腸がんが少なかった理由は、こういった脂質の多い食品の代わりに繊維質が豊富な食物を多く摂取していたからです。

また、たばこは大腸がんだけでなく全てのがんの原因となります。 飲酒は少量であれば、むしろ新陳代謝を上げ食欲増進に繋がるため、長寿の効果があるとされています。しかし、毎日多量の飲酒をすることは大腸がんの原因となるため控えましょう。

大腸がんは食生活を含めた環境要因だけではなく、遺伝子背景が関係しています。関係が明らかになっている遺伝子疾患は、家族性大腸腺腫症とリンチ症候群です。

家族性大腸腺腫症とは、APC遺伝子という遺伝子の故障によって、大腸の内部に100個以上ものポリープができる疾患です。このポリープはほぼ確実に、40代までにがん化してしまいます。 また、リンチ症候群ではミスマッチ遺伝子という修復遺伝子の故障により大腸がんを発症します。

大腸がんには好発年齢(ある一定の年代にだけ多発していること)はありません。50歳を過ぎたあたりから患者数は多くなり、90歳で発症する患者さんもいらっしゃいます。

高齢の方は、病院までの距離が遠いや、家族へ迷惑をかける心配、先行きが短いという漠然とした不安などの理由から、気軽に病院に来られない方も多く、症状があっても我慢をしてしまうことがあります。その結果、倒れてしまい救急車で運ばれてくる大腸がんの患者さんも少なくありません。

大腸がんの初期症状は、腫瘍ができる場所により異なります。

左側結腸

  • 左側結腸に腫瘍ができた場合は、便通異常の症状があらわれます。具体的には下記のような症状がみられます。
  • 便に血が混じる(常にではなく断続的が多い)
  • 便が細くなる お腹が張る
  • 腹痛
  • 下痢と便秘を繰り返す

また、左側結腸は便が固形化しているため、腫瘍に通り道を塞がれて腸閉塞(摂取した食物や消化液の流れが、小腸、大腸のなかで滞っている状態)を起こしやすいという特徴があります。腸閉塞になると、吐き気や嘔吐を伴う腹痛が起こり、排ガス(おならがでること)が止まって排便もなくなります。

右側結腸

右側結腸は便が液状で詰まることがないため、よほど進行しないと腸閉塞を起こしにくいという特徴があります。また、腫瘍から出血があった場合でも、出血箇所から肛門までの距離があるため、排便時には目に見えないこともあります。そのため右側結腸のがんは、下痢や便秘、便が細くなるなどの便通異常の自覚症状もなく、腫瘍が大きくなってから病院に来られる患者さんも少なくありません。

ただし、腹痛の症状は左側結腸と同様に起こります。痩せ型の患者さんの場合、腹部にしこりができたと思って病院を受診される方もいます。その他、右側結腸の大腸がんは貧血の原因となります。 腫瘍の表面は本来固くなっています。しかし、腸の内容液と接することで腫瘍表面がびらん(ただれ)となって削れ、1日に30CC~40CCの出血が連日続きます。この出血が継続することで徐々に貧血状態が進行するため、患者さんの体は貧血であることに慣れてしまい、日常生活には支障が生じません。そのため、血液検査でヘモグロビン濃度が低いという結果が出て初めて、大腸がんの発見へと繋がるケースもあります。

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大腸がんは、以下のような疾患と症状が類似しています。しかし、患者さんご自身で、大腸がんとこれらの類似疾患を見分けることは困難です。そのため、症状が現れた場合は速やかに病院で検査を行い、それぞれの疾患に適した治療を受けてください。 類似疾患と大腸がんの判別は、詳細な病歴、血液検査所見、消化管内視鏡所見などを実施し、総合的に判断していきます。

は大腸がんと同様に、血の混ざった便が排出されます。また、痔を患っている方は珍しくないため、痔と大腸がんを併発している患者さんもいらっしゃいます。肛門科の医師は、患者さんご本人が痔だと主張している場合でも、大腸の内視鏡検査を勧め、奥に悪性の病変が隠れていないかということを確認してから、痔であると診断しています。

過敏性腸症候群は、腹痛や下痢と便秘を繰り返すといった、大腸がんと同様の症状があります。また、慢性化する傾向にあるため、より大腸がんと区別することが困難になります。

クローン病 潰瘍性大腸炎とクローン病はともに、腹痛、発熱、粘血便(粘り気のある血の混じった便)といった大腸がんと非常に類似した症状が生じます。

大腸がんの検診は、日を変えて2回の検便を行うという比較的簡単な方法です。検便で便に血液が混入していないかを調べ、わずかでも血液が混ざっている場合は、内視鏡検査を行います。たとえ無症状の方でも内視鏡検査を実施することで、大腸がんやポリープ(大腸の壁にある隆起したしこり)がみつかる場合があります。このように、検診を定期的に受検することで、非常に高い確率で大腸がんを早期発見することができるのです。

ポリープには良性と悪性があります。これからがんになりうるものや、2㎝を超える大きなものになると、一部ががん化しているか、がんそのものである可能性もあります。そのため、内視鏡検査で5mmから1㎝を超えるポリープがみつかった場合は、症状が出ていない状態でも、将来的にがん化する可能性を考慮し、早い段階のうちに取り除いてしまいます。早期段階であれば、切除は内視鏡手術(患者さんの身体に負担の少ない低侵襲な手術)で対応できます。

菅沼利行先生

検診は、精密検査とは違い非常にラフなものであり、無症状の段階の疾患を低いコストかつ効率的に拾い上げるということを目的として行われています。そのため、検診で引っかからなかったといって、100%安心してよいというわけではありません。 たとえば大腸がんの検診の場合でも、たまたま検便を実施した日に腫瘍からの出血が止まっていて、検診をすり抜けてしまうというケースも存在します。また、お尻に小さな傷ができていただけで、検便に引っかかってしまうということもあります。

しかし、検診をやる場合とやらない場合では、大腸がんの早期発見の確率が明らかに変わり、患者さんの生命予後に大きな差がでます。病院での検診は1000円以下で、地方自治体であれば、500円程度で受けられるところもあります。40歳を過ぎたら、必ず1年に1度、大腸がんの検診を受けることをお勧めします。
 

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    菅沼 利行 先生

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