インタビュー

寒い季節以外にも症状が現れる“寒冷凝集素症(CAD)”とは? 特徴と治療について

寒い季節以外にも症状が現れる“寒冷凝集素症(CAD)”とは? 特徴と治療について
植田 康敬 先生

大阪大学 大学院医学研究科 血液・腫瘍内科学 助教(学部内講師)

植田 康敬 先生

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寒冷凝集素症(CAD)は、貧血や体のだるさ、指先の痛みなどの症状を伴う、非常に珍しい病気です。寒い季節以外にも症状が現れるため、年間を通じて注意が必要となります。以前は治療法がほとんどなかったものの、現在では新しい治療薬が開発され、病気との付き合い方も変わってきました。今回は、大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍(しゅよう)内科学 助教 植田 康敬(うえだ やすたか)先生に、CADのメカニズムや治療法についてお話を伺いました。

CADとは、寒いときに手足の先の痛みや変色が起こる、貧血になる、尿の色が濃くなるといった症状が出る病気です。病気の原因となっているのは、自分自身に対する抗体である“自己抗体”というタンパク質です。抗体は本来、体の中に入ってきた病原体などを攻撃するためにはたらきますが、CADの患者さんでは、自分の赤血球に対する自己抗体である“寒冷凝集素”ができてしまいます。赤血球が自分の体内にある抗体によって攻撃されることで起こる貧血の一種がCADです。

CADは現状では完治が難しい病気です。そのため、病気についての理解を深め、病気とうまく付き合っていくことが大切です。

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CADの有病率は100万人あたり16人、年間発症率は100万人あたり1人といわれていますが、診断が付かないままの患者さんもおり、実際には有病率と発症率のどちらももっと高いのではないかと推測されています。

患者さんは60〜80歳代の高齢の方に多く、60歳代が患者数のピークといわれていますが、30歳代など若い方が発症する場合もあります。

CADの患者さんでは、抗体を作る役割を担う“B細胞”というリンパ球の増殖がみられることが分かっています。がんではありませんが、遺伝的に同一のリンパ球が慢性的に増加した状態が維持される病態をリンパ増殖性疾患といい、CADもリンパ増殖性疾患の一種であることが近年明らかとなりました。B細胞が増殖する直接的な原因はないことから、原発性*寒冷凝集素症(CAD)に分類されています。

一方、がんや感染症などの病気が原因でB細胞が増殖する場合は、続発性**の寒冷凝集素症である“CAS”に分類されます。CASは、血液のがんである悪性リンパ腫や、マイコプラズマなどの感染症、全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患が原因で起こります。

本記事では、原発性の寒冷凝集素症“CAD”についてお話しします。

*原発性:原因となる病気がない、または原因が分からない病気。

**続発性:ほかの病気が原因となって起こる病気。

CADの患者さんが持つ赤血球に対する自己抗体は、体の中心部よりも低い温度で赤血球にくっつきやすいという性質があります。そのため、気温が下がったときや、手足の先のように体温が下がりやすい場所に症状が出やすいのが特徴です。

自己抗体が赤血球にくっつくと、赤血球の大きな塊が血管の中にできてしまいます。手足の先にある細い血管は、大きな塊ができると血液の流れが悪くなり、指先が紫色になったり、痛みが出たりすることがあります。症状が進むと、指先が壊死(えし)してしまうこともあります。

自己抗体と赤血球がくっついた塊は、体の中心部分の温かいところに戻ってくると、再び離れてバラバラになります。

CADが発症する仕組みには、赤血球に対する自己抗体だけでなく、補体というタンパク質も関わっています。補体が本来持っている役割は、体の中に入ってきた病原体にくっついて病原体を破壊したり、病原体を食べてくれる別の細胞に病原体を異物として認識させたりすることです。一方で赤血球などの自分の細胞に対しては、補体がはたらかないような仕組みが備わっていて、異物と自分の細胞を区別しています。

しかし、CADの患者さんで自己抗体が赤血球にくっついてしまうと、補体をはたらかせるスイッチが誤って入ってしまうのです。赤血球の上で補体がはたらくようになってしまうと、その赤血球は異物と認識されて、主に肝臓にいる病原体を食べてくれるような細胞(免疫細胞)に誤って食べられてしまいます。

また、補体がはたらくことで、赤血球そのものに穴が開き、壊れることもあります。赤血球が血管の中で壊れると、中身が血管に漏れ出てきて、最終的には尿として排出されます。これが、CADの患者さんで色の濃い尿(ヘモグロビン尿)が出ることがある理由です。

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末梢循環障害(まっしょうじゅんかんしょうがい)は、体の中心部よりも、末端の体温が低いことで起こります。CADの患者さんで、冬になると手足の先や鼻、耳などが紫色になったり、痛くなったりするという方がよくいらっしゃるのは、末梢循環障害が原因です。

指先や鼻の先、耳などは、熱を放散しやすいことから体の中心部と比べて温度が低く、自己抗体が赤血球にくっつきやすくなります。そして前述のとおり、末端の血管は細いので、赤血球と自己抗体の塊が細い血管の中にあると、血液の巡りが悪くなってしまうのです。

貧血は、赤血球が壊れて足りなくなることが原因です。慢性的な貧血により、体がだるくなったり、息切れがしたりします。CADの患者さんでは、一般的な貧血以上に、体のだるさや疲れを非常に強く感じることが多いでしょう。

体温が下がると症状が出るということで、冬になると症状が強くなるイメージがあるかもしれませんが、必ずしも冬場だけではありません。夏にクーラーで体が冷えたり、冷たい飲み物を飲んだりすることで症状が出る方もいます。

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症状の程度や出方は、患者さんによって異なります。一般的な貧血よりもだるさや疲れを強く感じやすい傾向はありますが、程度は人によってさまざまです。末梢循環障害、貧血、倦怠感(けんたいかん)のうち、どの症状が強く出るかも人によって異なります。

症状の程度や出方に個人差がある理由ははっきりとは分かっていません。ただ、症状が強く出ている方の場合、血液検査によって補体との関連や貧血の程度を確認することは可能です。

CADの患者さんは、血栓塞栓症(けっせんそくせんしょう)のリスクが高まるといわれています。日本においては、血栓塞栓症の中でも深部静脈血栓症心筋梗塞(しんきんこうそく)などのリスクが高いというデータも報告されています。

血栓塞栓症のリスクが高くなる原因はまだ明らかになっていませんが、現時点で考えられている原因は2つあります。1つは、血管内で赤血球が壊れて、中身が漏れ出てしまうことです。赤血球の中身が漏れ出ることで、血小板が血管の中で集まり、血栓ができると考えられています。もう1つは、補体のはたらきの活性化そのものです。補体と血小板のはたらきはお互いに関連し合っていることが近年の研究で分かってきており、補体が活性化されると、血小板が血管の中で集まりやすくなると考えられます。そのほか、血管内で赤血球と自己抗体の塊ができて、血液の流れが悪くなることも、血栓のできやすさに影響している可能性があると考えられています。

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まずは問診で、どのような症状があるかをお聞きします。寒いときに指先などの末端が紫色になったり、痛みを伴ったりといった末梢循環障害が出るかどうか、色の濃い尿が出るかどうか、冷たい飲み物を飲んで症状が出るかなどを確認します。診断のためには、症状が出始めたのはいつからか、症状は季節によって異なるかなども重要な情報です。

血液検査では、赤血球が壊れることによって起こる“溶血性貧血”になっているかどうかを調べます。血液を入れている試験管が室温まで冷えたときに、赤血球と抗体の塊ができる“凝集”を起こすかどうかを確認するのも重要です。

また、患者さんの血液の成分とO型の赤血球を混ぜて、4℃の低温で赤血球と抗体の塊ができるかを確認する“寒冷凝集素価測定”や、赤血球に抗体や補体がくっついているかどうかを調べる“直接クームス試験”を行います。

骨髄の検査は、CADまたはCASの診断がついた後、原因になっているほかの病気が隠れていないかを調べる目的で行います。骨髄組織の一部を採取する骨髄生検で、自己抗体を作るB細胞がどのような増殖パターンを持っているのか、増殖が悪性リンパ腫などの病気によるものなのかどうかを調べます。寒冷凝集素症のうち原発性のCADか続発性のCASかで治療方針が変わるので、どちらかきちんと調べることが必要です。

CADまたはCASの診断がついたら、リンパ節の腫れが隠れていないかどうかを調べるため、全身のCT検査を行います。

内視鏡検査は、がんが隠れていないかどうかを確認するために行うことがあります。

鑑別すべき病気として、レイノー現象がみられる自己免疫疾患が挙げられます。レイノー現象とは、体の末端が冷えたときに、指先が白くなったり痛くなったりするもので、自己免疫疾患に多い症状です。

自己免疫疾患以外では、クリオグロブリン血症が挙げられます。クリオグロブリン血症は、赤血球と抗体ではなく、抗体だけが固まって塊を作ってしまう病気です。赤血球に対する自己抗体ができて起こる貧血かどうかを確認することで区別できるでしょう。

もっとも鑑別するのが難しいのは、リンパ腫に伴うCASとの見極めだと考えています。血液のがんが隠れていたとしても、初期であれば鑑別は難しいこともあります。ただ、悪性リンパ腫であるかどうかによって、その後の治療方針や見通しが大きく変わるので、明確にしておく必要があります。

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CADは珍しい病気であることから、診断までに時間がかかることも少なくありません。CADの可能性に気付かれることが多いのは、健康診断で採血をしたときに赤血球が凝集を起こしていて、血液検査の結果で異常値が出たという場合でしょう。

まれですが、心臓血管外科で見つかることもあります。血液を取り出して機械できれいにしてから体内に戻すといった治療を行っている際に、体温よりも低い温度の機械の中で血液が固まって気付かれるというケースです。

患者さんご自身で症状に気付く場合としては、寒いときに手足の指先が紫色になって痛くなったり、色の濃い尿が出たりした場合でしょう。また、赤血球が肝臓で壊されると黄疸(おうだん)を起こし、肌が黄色っぽくなることがあります。そのほか、下肢や手に網目状の紫色の模様(網状皮斑)が出ることもあります。このような症状が現れた場合は、血液専門医*のいる総合病院を受診していただければと思います。

*血液専門医:日本血液学会または日本専門医機構が認定する血液専門医。

日常生活で工夫できることとしては、なるべく寒さにさらされないようにすることです。体を冷やさないようにするのが主な対策となるため、患者さんの中には、寒い地域から暖かい地域に移住した方もいらっしゃるようです。引っ越しまでは難しくても、クーラーで部屋を冷やしすぎないようにする、ただし熱中症にはならない程度の室温を保つといった工夫が大切です。

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病院で受けられる治療としては、自己抗体を作ってしまうB細胞を標的とした薬と、補体を標的とした薬の2種類があります。CADに対して保険適用になっているのは、補体を標的にした薬のみです(2024年9月時点)。従来使われていたステロイドは、効果が今ひとつで副作用が多いため、現在は推奨されていません。

B細胞を標的とした治療は、自己抗体を作り出す細胞にアプローチする方法です。B細胞に対する抗がん薬を単体で用いる方法や、2種類を組み合わせる方法があります。抗がん薬はCADに対しては保険適用にならず、血液のがんによるCASに対しては保険適用です。

B細胞はもともと体を異物から守る際にはたらく細胞なので、治療によってB細胞の数が減ると、免疫も低下するという副作用が考えられます。感染症のリスクが高まるので、高齢の方にはやや不向きな治療法です。

治療法と効果

点滴で行われる抗補体薬による治療は、赤血球と自己抗体がくっついた後に、補体がはたらき始めるのを防ぐ方法です。補体がはたらかなくなることで、赤血球が壊れるのを防ぎ、貧血の改善につながります。一方で、赤血球と自己抗体がくっつくこと自体は止められないので、末梢循環障害には効果が期待できません。

抗補体薬の治療効果が期待できる可能性があるのは、補体のはたらきが活性化されている患者さんです。中には、貧血が改善するとともに、体のだるさがかなり改善する場合もあります。補体のはたらきが活性化されているかどうかは、血液検査で確認することができます。

副作用

副作用については、特定の菌に対する感染リスクが上がることが予想されます。補体は本来、重要な免疫システムの1つです。そのため、補体のはたらきを止めることで、髄膜炎菌や肺炎球菌などの感染リスクが上昇します。抗補体薬による治療を始める前には、これらの菌に対するワクチンの接種が必要です。発熱や頭痛、吐き気などの髄膜炎が疑われる症状が出た際には、すぐに病院に連絡することが大切です。

通院の頻度は、患者さんによって異なります。たとえば、夏場でも補体の活性化が強くて月に1回通院している方もいれば、季節によって症状が変わるため夏場は2〜3か月に1回、冬場は1~2か月に1回と通院頻度を変えている方もいます。また前述したとおり、CADの患者さんは血栓塞栓症の合併にも留意する必要があります。寒い季節に限らず、通年にわたって定期的な診察や検査を受けることが大切です。

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現在日本で保険適用のある治療薬は抗補体薬の1種類のみですが、今後はB細胞を標的とした治療と、抗補体薬を組み合わせた治療が発展すると期待しています。抗補体薬は全ての患者さんに効果があるわけではないので、その原因を究明することと、抗補体薬が効きにくい患者さんに対する新たな治療のアプローチを発見することが必要です。また、血栓塞栓症のリスクを下げて予後を改善することも、今後の課題と考えています。

CADは非常に珍しい病気で、以前は治療法が限られていました。しかしながら、新しい治療薬が登場するなど医療が進歩したことで、より上手に病気と付き合っていけるようになっています。患者さん一人ひとり症状や適した治療法が異なるため、まずは血液内科の先生にご相談ください。

寒冷凝集素症の治療について、今はよりよい方法があることが分かってきています。担当している患者さんが寒冷凝集素症であるのか、あるいはCADかCASかと診断に迷われる場合には、ぜひ血液専門医にご紹介いただければと思います。

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