記事1『写真でみる皮膚がんの種類と症状 皮膚がんとほくろ、シミとの違いは?』では、基底細胞がんや有棘細胞がんといった皮膚がんについて幅広くご紹介しました。今回は、皮膚がんの中でも悪性度の高いメラノーマ(悪性黒色腫)について詳しくご説明します。引き続き、聖マリアンナ医科大学皮膚科准教授の門野岳史先生にお話をお聞きしました。
メラノーマとは、悪性黒色腫ともいう非常に悪性な皮膚がんです。皮膚細胞の中の基底層にある「色素細胞」ががん化したもので、黒みをおびた色素斑が出現することから、一般的には「ほくろのがん」「ほくろのような皮膚がん」などと理解されています。
表皮の断面図
メラノーマは顔よりも手足(手のひらと足の裏)に多く発生し、日本人の50%程度は手足に発生するタイプであると考えられています。足の裏などに発生する皮膚がんは日光とは無関係にできるがんであり、日光に当たることで発生するがんとは分けて考える必要があります。
メラノーマは、できやすい部位や形態などにより主に次の4つのタイプにわけられています。
1.末端黒子型:足のうらや手のひら、手足の爪部(正確には爪下部)などに発生しやすく、日本人のおよそ50%はこの末端黒子型だと考えられる
足裏に発生した初期のメラノーマ。病変は横に這うように広がっている
2.表在拡大型:胸・腹・背中など、体の中心部や手足の付け根に近い部位に発生しやすく、白色人種に多くみられる
3.結節型:部位に関わらず発生し、結節のようながん細胞の塊が徐々に大きくなってくるタイプ。結節のまわりには色素斑がみられず、4つの中でも圧倒的に予後が悪いと考えられている
臀部に発生したメラノーマ。がん細胞が大きな塊となっている
4.悪性黒子型:おもに高齢者の顔面に発生しやすく、不規則な形の色素斑(しみ)が徐々に拡大してくるタイプで、時間が経つと、色素斑の中央に結節が生じる
メラノーマの検査には、記事1『写真でみる皮膚がんの種類と症状 皮膚がんとほくろ、シミとの違いは?』で述べたダーモスコピー検査が主に行われます。
早期のメラノーマでは、ダーモスコープを通すと下記のように見えます。
手足には指紋があり、凹んでいる部分を皮溝、凸の部分を皮丘と呼びます。メラノーマでは皮丘中心に色素斑がみられ、皮溝に沿った線ははっきりしません。
一方、良性のほくろの場合は下図のように皮溝に沿った線がみられ、一部では格子状にみえ、くっきりとした線を形成します。
前項で述べたダーモスコピー検査に加えて、メラノーマを診断する際は色素斑が「メラノーマのABCD(E)」と呼ばれる特徴的な形状をしているかどうかが重要になります。
この診断基準はメラノーマと良性のほくろを見分けるために重要な指標となりますが、診断はあくまでも総合的になされるので、たとえばこの分類の「A」に当てはまったからといってメラノーマと決まったわけではありません。
実際、大きさだけでいえば良性のほくろでも6mm以上に拡大する場合があります。
たとえば、上図の「ほくろ」は6mmを越えており、前述した診断基準の「A」に該当しますが、メラノーマではありません。
日常的にメラノーマの可能性を心配し過ぎる必要はありませんが、上記のような診断基準が定められており、これらに該当するほくろはメラノーマの特徴に類似しているということを覚えておくことは大切です。
少しでもご自分のほくろに違和感があると思った場合は、早い段階で病院を受診しましょう。
発症初期では痛みはほとんどありません。逆にいえば、自覚できるような痛みが現れる場合はがんが非常に進行してしまったと考えられ、完治が困難になります。
手術による腫瘍の摘出が第一です。メラノーマは一旦進行すると急速に転移してしまう特徴がありますが、早期発見・早期診断がされれば手術のみでの治療が可能であり、再発のリスクもほとんどありません。
がんが多少深く、厚みがある場合は、手術のほか、必要に応じてセンチネルリンパ節生検を行います。
術後は、基本的に5年間の経過観察が必要です(患者さんの状況に応じて期間は変動します)。
経過観察中の外来診療では局所診察やリンパ節の触診などを行い、転移の可能性がある等のケースではCT、PETなどの画像診断や超音波検査を行います。
また、がん再発予防の目的でインターフェロン療法を行うことがあります。
インターフェロンとは、ウイルスに感染した細胞が作り出すタンパク質の一種です。このタンパク質にはがん細胞を攻撃して免疫の働きを高める役割があります。インターフェロン療法では、このタンパク質を注射して補い、メラノーマの再発を予防します。
メラノーマの再発や転移のリスクは術後2年までが最も高いのですが、メラノーマは他のがんより遅い時期(術後5年~10年以上)に再発することもあります。
メラノーマが遅い時期に再発する理由は明らかではありませんが、免疫との関係も考えられています。
メラノーマには免疫チェックポイント阻害薬(詳細は後述します)が有効とされ、比較的免疫が働きやすいがんとされています。人によっては自身の持つ免疫の力によって長期間がんを抑えこんでいたところが、何らかのきっかけでがんが免疫をすり抜けることによって急激に増悪し、がんが進行してしまう可能性が考えられています。
残念ながら、メラノーマが再発あるいは他の臓器に転移した場合は薬物療法が検討されます。
最近はこれまで一般的に使われてきたような抗がん剤治療は次第に用いられなくなり、より効果の高い免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療が行われるようになってきています。
まずは免疫とがんの関係についてご説明しましょう。
ヒトの体には免疫機能が備わっており、ウイルスや細菌などの体内に入ってきた外敵を攻撃して体を守っています。また、免疫はがん細胞を排除しようとするメカニズムも持っているため、一般的には免疫が低下するとがんになりやすいといわれます。たとえば加齢などによって徐々に免疫機能が落ちていくことで、がん細胞が監視の目をすり抜けられるようになり、その結果体ががん細胞に侵食されていき、発症に至るのではないかと考える方もいます。
最近では、がん細胞は人が自覚しないときから体内に発生していると考えられています。
たとえば1度がんを治療して、再発なく暮らしている患者さんに血液検査をしてみると、血液中からがん細胞が見つかることがあります。このとき、免疫ががんの発症を防いでいることが考えられます。
免疫チェックポイント阻害薬には、PD-1やCTLA-4といった免疫抑制作用を持つ分子の働きをなくす作用があります。免疫チェックポイント阻害薬はこれらの分子に働きかけ、がんに対する免疫を高めて、がん細胞の排除を促進します。メラノーマにはこの免疫チェックポイント阻害薬による治療効果が高いことが分かっています。
※一方で、免疫チェックポイント阻害薬にはリスクもあります。免疫機能が亢進しすぎてしまうと、間違って自分の身体を攻撃してしまうことがあります(このような状態が続く病気を自己免疫疾患といい、膠原病や甲状腺機能低下症が代表的な疾患になります)。
免疫チェックポイント阻害薬の他、分子標的薬(低分子阻害剤)が用いられる場合もあります。メラノーマではBRAFというがん細胞の増殖に関わるタンパク質に、BRAFV600Eなどの変異が高い頻度でみられます。メラノーマに用いられる分子標的薬は、このBRAFV600Eというタンパク質を選択的に阻害し、がん細胞の増殖を抑える働きを持った新しいタイプの薬です。
TVECはまだ臨床試験の段階ですが、免疫療法の一種として研究が進められています。単純ヘルペスウイルスを発展させた特殊な薬剤を腫瘍に投与することで腫瘍選択的に免疫が働くようになり、腫瘍細胞を破壊します。
TVECはメラノーマにのみ選択的に働きかけるよう工夫されていますが、単独での使用ではまだ効果は十分ではありません。しかし、免疫チェックポイント阻害薬など他の治療との組み合わせによって効果が高くなることが期待されています。
しかし、免疫チェックポイント阻害薬、分子標的薬、さらにはこのTVECによる治療は非常に高価であり、コストの面での課題をどのように克服していくかが問題です。
しかし、転移してしまうと生存率は急激に低下します。ひとつのリンパ節に転移している場合の生存率はおよそ半分、それ以上の場合はさらに低下してしまいます。
たとえばステージⅣに進行した場合、5年生存率は10%程度です。この場合、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬がうまく効いてくれることを期待するしかありません。
ですから、がん細胞が表面を這っていて転移していない段階でいかにがんを取ることができるかが重要になってきます。
中には、自分のほくろが気になって仕方ないという方や、実際にほくろを除去している方もいらっしゃいます。しかし、顔のほくろがメラノーマに変化する可能性は低く、2~3mm程度の一般的にみられるほくろであるならばまず問題ありません。勿論、絶対にがん化しないとは言い切れませんが、形や大きさが長年変わっていないようであれば心配し過ぎなくてもよいでしょう。
聖マリアンナ医科大学 皮膚科 教授
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