概要
脳静脈洞閉塞症とは、脳内の各静脈洞や皮質を走行する小静脈に血の塊ができたり、炎症が起きたりすることによって、血管が閉塞する病気のことです。
人の脳は硬膜という膜で覆われており、左右の半球の間などにいくつかの大きな溝があります。これらの溝には、脳内を通ってきた血液が集まる太い静脈が存在し、硬膜静脈洞と総称されます。硬膜静脈洞のなかには、余分な脳脊髄液を吸収する役目を持つものがあり、脳圧の維持にも非常に重要な役目を果たしています。
脳静脈洞閉塞症は、硬膜静脈洞のなかでも特に横静脈洞や上矢状静脈洞にできやすく、発症すると脳脊髄液の吸収が正常に行えなくなります。これにより脳圧が上昇し、生命の危険に陥ることもまれではありません。
非常に珍しい病気であり、全脳卒中の1%を占めるに満たないといわれています。しかし、若者に発症しやすく、血栓ができやすい病気がある方は注意が必要です。
原因
原因は、脳内の静脈洞や皮質の小血管が詰まって、脳の血流がうっ滞することです。これによってさまざまな症状が引き起こされますが、多くは血栓による静脈の詰まりであるとされています。
健康に問題がない方が発症することはほとんどなく、経口避妊薬の服用者や高度な脱水症、がん、血液の異常、ベーチェット病を始めとした炎症性腸疾患などを有する方がなりやすいといわれています。
血液の異常とは、多血症、鎌状赤血球症、プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症、アンチトロンビンⅢ欠損症などの血液凝固能に異常をきたしやすい病気を指します。また、女性では妊娠中や分娩後に発症することが多いため注意が必要です。
その他、髄膜炎や骨髄炎など脳内に生じた炎症によって血管が物理的に閉塞することがありますが、衛生環境や医療資源が整った日本での発症はまれです。
症状
脳静脈洞閉塞症では、静脈洞に閉塞が生じてから症状が現れるまでの時間に個人差があります。3割程度は発症してから48時間以内に何らかの症状が生じますが、半数以上は徐々に症状が現れ、1か月以上かけてゆっくりと症状が現れることもあります。
静脈が詰まることによって脳梗塞や脳出血などが生じると、神経症状が現れます。また、硬膜静脈洞が閉塞して脳脊髄液の吸収が妨げられると、脳圧が上昇することによる症状も出現します。
神経症状
脳梗塞や脳出血をきたすことがあり、ダメージを受けた脳の部位に応じた神経症状が現れます。
脳圧上昇による症状
脳圧上昇が軽度である場合は、頭痛や吐き気、眼痛などの症状が現れます。脳圧上昇が高度になると、けいれん発作や視覚障害、精神症状が現れ、進行すると昏睡状態となります。特に脳ヘルニアなどを引き起こして呼吸中枢のある脳幹がダメージを受けると、呼吸が停止し、命に関わることもあります。
検査・診断
発症直後の急性期には、頭部のCT検査やMRI検査が行われ、脳病変の評価が行われます。しかし、脳出血や脳梗塞、急性水頭症を合併していない場合には、これらの画像検査を行っても病変を捕らえることはできません。また、これらを合併していても脳静脈洞閉塞症によるものかを単純な画像だけで判断することは困難です。
そのため、脳血管撮影検査やCTでの3D撮影法によって静脈の閉塞を確認する必要があります。また、脳静脈洞閉塞症を引き起こす基礎疾患の確認を同時に行う必要があり、血液検査や種々の画像検査が行われます。
治療
脳静脈洞閉塞症の根本的な治療は、詰まった静脈を再開通することです。ヘパリンの投与が有効と考えられており、点滴による投与や、カテーテルを閉塞部まで通して血栓を溶解する治療が行われます。また、ビタミンK拮抗薬やアスピリンの投与が3~6か月継続されることもあります。
対症療法としては、脳圧低下効果がある濃グリセリン・果糖注射液や抗けいれん薬などが必要に応じて使用されます。また、脳静脈閉鎖症の原因となる病気がある場合には、その病気に対する治療が行われます。
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