日本の循環器診療の質を向上させ、一人でも多くの患者さんを救うために

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日本の循環器診療の質を向上させ、一人でも多くの患者さんを救うために

循環器疾患の解明とともに、後進の育成にも力を入れる小室一成先生のストーリー

日本循環器協会 代表理事、東京大学院医学系研究科 内科学専攻器官病態内科学講座 循環器内科学 教授
小室 一成 先生

「人を救いたい」という思いから臨床の道を志した研修医時代

私が医師を志した理由は、「人のためになりたい。人を救いたい」という思いがあったことです。人を救う職業に就くことを決め、医師になろうと決心したのは、高校生の頃でした。水俣病などの公害が社会問題になっていたときで、公害による健康被害を受けた方と接した経験から、患者さんを救う側に立ちたいと思うようになったのです。そこで、研修医の頃はひたすら臨床を学び、とくに関心をもった循環器疾患の臨床医の道に進もうと考えていました。

転機となったのは、東京大学の医局に入局したことでした。研究に打ち込んでいた先輩の話を聞くなかで、「臨床だけでなく研究も大事だ」と考えるようになったのです。循環器分野における研究とは、一般的にはカテーテルや心電図を用いた研究を指しますが、私が関心を持ったのは、生物学や分子生物学でした。当時はまだほとんど研究が進んでいない分野だったため、この分野に挑戦してもよいものかと私は迷いました。

恩師に導かれ、生化学・分子生物学の研究を開始

循環器分野では、たとえば心臓はどのように動くのか、血管はどのように収縮するのかといった生理学的な研究が進んでいました。しかし、これだけでは、疾患発症の機序を説明することはできません。循環器疾患を解明するためには、生化学・分子生物学に取り組んでいかなければならないと考えていました。

こうして、研究を始めるべきか、臨床を続けるべきかと迷っていたとき、恩師の矢崎義雄先生(東京大学名誉教授、現日本心臓財団理事長)に声をかけられました。矢崎先生は、「循環器でも、これからは生化学や分子生物学をやらなければだめだ」と、私を東京大学第三内科に誘ってくださったのです。

実際に研究を始めてみると、私が予想していた通り、解明すべき多くの謎があることが分かり、取り組むべき課題もたくさん見つかりました。少しずつ新しいことが分かっていく研究に、大きなやりがいを感じました。

後進の育成にかける思い――千葉大学大学院における「K project」の実施

東京大学旧第三内科において5年間臨床と研究を行い、4年間のハーバード大学への留学を経て、再び7年ほど東京大学医学部附属病院で助手や講師を務めたあと、千葉大学大学院に9年、大阪大学大学院に4年在籍しました。そして、2012年に再び東京大学大学院に戻ることとなりました。

私にとって、医師を続ける原動力となったのは、「いまだ治すことのできない患者を救うためによりよい研究をしたい」という思いです。それとともに、「一人でも多くの優秀な若い人を育てたい」、「循環器内科の診療レベルを向上させたい」という思いも強く抱いていました。

たとえば、2001年に赴任した千葉大学大学院では、医学部学生を中心として、『臨床に役立つ循環器ベーシックテキスト』(メディカルレビュー社、2008年)の作成に取り組みました。循環器疾患の基礎的なメカニズムについて述べた病態生理の教科書です。この取り組み、通称「K project」に参加した学生はとても優秀で、凄いパワーを持っていました。私たちは、医師の間でも知られていないような情報を詳細に記すため、深夜まで論文を読み込んだり、ディスカッションを重ねたりと、多忙な日々を送りました。完成したときには、学生でもこんなに凄い教科書が作れるのだと驚いたものです。また、このような教科書を作った学生たちを誇りに思いました。

現在は、東京大学大学院でも「K project」を発足し、循環器分野における新たな教科書の作成を進めています(2019年8月時点)。これまでに出会った学生の皆さんのなかには、やる気があっても何をしたらよいのか分からなくて、燃焼しきれずにパワーを持て余している方も見受けられました。若い方には、自分の人生を賭けるものを見つけてほしいですし、それを見つける手助けができたらと思っています。

重症心不全の診療のレベルを上げ、患者さんを一人でも多く救うために

2009年に赴任した大阪大学は、重症の心不全患者さんの受け入れを行っている大学でした。私は、重症心不全の患者さんが入院している近隣の病院に往診するシステムを構築し、重症心不全治療の指導を行いました。往診先の病院ではそれ以上の治療が困難だと判断した場合は、ドクターヘリで大阪大学に搬送し、迅速な対応を行う体制も整備しました。

私は、大阪大学から東京大学に戻ったあとで、この往診システムを取り入れた心不全チームを発足させました。心臓移植を実施できる施設が限られる日本において、日本全国の重症心不全の診療レベルを上げ、患者さんを一人でも多く救うことを目指し、全国に往診しています。それとともに、東京大学医学部附属病院に搬送されてくる患者さんも増えています。

現在、東京大学医学部附属病院の循環器内科病棟には、心臓移植を待つ重症心不全の患者さんばかりでなく肺移植を待つ重症肺高血圧の患者さんなど、重症の患者さんが多く入院しています。大変なことも多いですが、私たちは、「あらゆる循環器疾患の最後の砦になろう」との合言葉のもと、最後まで諦めずに、循環器疾患と闘っています。「最後の砦になる」ことは決して容易ではありませんが、それを目標に今後も努力を続けていきたいと思います。

循環器診療医として伝えたいメッセージ

私が若手の医師に伝えたいのは、「目の前の患者さんがどのようにしてこの病気になったのか、常に考えながら診療してほしい」ということです。循環器分野に限らず、いまだ分かっていないことがたくさんあります。ただ漫然と診断し、治療するのではなく、患者さん一人ひとりが皆違うと考え、患者さんの状態や背景をよく観察するとともに、病気のメカニズムを考えて診療することが大事です。このことを一人でも多くの若い医師たちに伝えたいと思います。

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