院長インタビュー

循環器医療の専門病院としての使命をもって新しい医療に取り組む 榊原記念病院

循環器医療の専門病院としての使命をもって新しい医療に取り組む 榊原記念病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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榊原記念病院は、東京都府中市に位置し、循環器・心血管疾患においては日本全体で見ても非常に多くの症例数を誇る病院です。この分野で日本をリードする医療を提供する一方で、院長の磯部(いそべ) 光章(みつあき)先生による病院改革でも全国の注目を浴びる同院独自の取り組みを、磯部先生に伺いました。

榊原記念病院は循環器医療に特化した専門病院として、心臓や血管の病気をお持ちの患者さんに対し高度で先進的な医療を提供しています。質の高い医療を維持するため、新しい設備や術式の導入も積極的に行っており、特殊な半導体心筋シンチグラフィ検査の医療機器を日本で始めて導入したり、カテーテル肺動脈弁置換術​​を日本で初めて行ったりしています。

また当院は、小児循環器疾患については難易度の高い手術を行える数少ない医療機関です。赤ちゃんの本当に小さいサイズの心臓に対し、手術の際は将来の影響も考えてできる限り低侵襲(体への負担が少ない)を心掛けるのはもちろんのこと、産科と共同して出産も含めて周産期から管理しています。

当院は2024年4月に東京都における脳卒中・心臓病総合支援センターのモデル事業施設として選定されました。これは、厚生労働省主導のもと脳卒中や循環器の病気の対策を効果的に進めるために各都道府県に原則的に1つの医療機関が選定されるもので、当院は都内の2つの病院とチームを組んで東京都の施設として認定されました。市中の民間病院としては全国初の選定となり、当院の循環器疾患への医療が評価されたものと自負しています。

2014年には24時間無痛分娩に対応した産婦人科を開設し、新たに周産期・婦人科医療の提供も始めています。ここでは心血管疾患をお持ちのお母さんや心臓病を持つ胎児、新生児の出産にも、産科と小児科・外科の医師の協働によって対応しています。

当院の重要な役割として、救急医療があります。我々はどんな難しい症例も24時間断らない救急をモットーに患者さんを受け入れ、地域医療を支え質の高い医療の提供をお約束できるよう努力しています。そのためにも地域の先生方との連携は大変重要で、当院にご紹介いただいた患者さんをしっかりケアした後は引き続き先生方に診ていただき、何かあればまた当院がお力添えをするような体制を作っていきたいと考えています。現在、逆紹介率(当院から地域の病院に紹介した患者さんの割合。紹介状が必要となる地域支援病院の逆紹介率の目安は50-70%以上とされる)は200%を超えており、今後ますます増えていくと考えています。

安定的に高度な医療を提供する責任を全うするため、院長としては経営面でも力を尽くす必要があります。そのために大小さまざまな取り組みを行いました。

一番大切なことは職員の意識改革です。まず病院改革の目標が、最高の診療を提供するために診療の質を向上させることにあると繰り返し説きました。それを実現するために必要なのが、まず職場の改革、つまり効率が良く、気持ちよく働くことができ、モチベーションが高まるような職場の実現です。

赤字の状況でしたが、まず思い切って職員全員の給与を見直し、大幅に給与水準をあげました。土曜診療を止め、全職員の4週8休を実現しました。多量にあった紙資料を徹底的に削減してIT化を進めました。医師や看護師など有資格者の業務を事務職や外部等にシフトして患者に直接携われる時間を増やしました。さらにこれらの改革を実現して診療の質を高めるために必要なのが資金であり、そのためには経営の安定と増収が必要であると説きました。院内全体のコスト意識を高め、委託業務、物品の購入価格を全て見直しました。収入の増加は診療件数を増やすことで達成します。そこでより緻密に毎朝ベッドコントロールを行うようにしました。広報を充実し、私自身も様々に機会を作って情報発信を行っています。こうした職場や経営の情報、例えば病床の稼働率から職員の残業時間、有給休暇の取得状況までざまざまの指標を毎月院内情報としてアプリで全職員に公開しています。こうした情報共有の取り組みも職員の意識改革につながります。

これらが功を奏し、赤字だった経営は数年でV字回復し、民営の中規模病院としては高い収益を上げるまでに至りました。

現在は非常に多くの患者さんに頼っていただける医療機関へと成長しました。日本医療機能評価機構による患者さんの満足度調査においても、ありがたいことに毎回大変高い評価をいただいています。とくに医療内容とその説明、診療の質、コミュニケーションの良さなどでご評価いただき、院長として誇りに感じています。

マクドナルドハウス

2023年12月、公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン(以下、DMHC)と当院の共同で、日本で1号となるドナルド・マクドナルド・ファミリールームを小児病棟内にオープンしました。ここは入院中のお子さんに付き添うご家族が、お子さんのすぐ側にいながらも医療スペースからひととき離れて食事や休憩をとりつかの間のくつろぎを得ることを目的としたスペースです。

当院では基本的に完全看護のためご家族によるケアは必須ではないのですが、乳幼児の患者さんの場合、授乳や抱っこなどでご家族の力が必要なことが多々あります。両親と一緒に過ごし愛着形成するためにも、付添は大切です。入院が長引くことも多い中、24時間院内にいて食事も粗食になってしまう、満足な睡眠をとる場所もないという環境は、ご家族にとって苦しいものです。ただでさえ実生活との二重生活で、経済的にも肉体的、精神的にも負担が重い中、お子さんの闘病に伴走するためにもしっかり息抜きすることが大切です。付き添うお母さんには、お子さんのそばを離れて涙を流す空間と時間が必要となることもあります。お子さんと付かず離れずリラックスできる場所が院内にあればと、多くの方のサポートをいただき、この施設を作ることができました。

ルーム内では休息だけでなくご家族同士の交流もあり、他者と会話することで癒しにつながることもあると思います。入院中のお子さんにとっても、元気なご家族を見ることで治す力につながると考えています。

多くの方にお祝いいただいた開所式では、加藤鮎子こども政策担当大臣や、Team DMHC アンバサダーで俳優の石田ひかりさんも駆け付けてくださいました。設立だけでなく、運営に関しても多くのボランティアやご寄付・募金で成り立っており、たくさんの応援に感謝申し上げます。このような活動が他の病院にも広がり1人でも多くの患者さんやご家族の助けとなればと願っています。

当院は、病院内で治療するだけでなく病気になる前の予防が重要と考え、力を入れています。一般的に予防というと、生活習慣の改善や予防接種など、病気にかからないようにする方法を指しますが、当院ではより実践的で、より興味が持てるアプローチを行っています。

心臓病において、患者さんが能動的にできる予防や治療への参加は食事、運動、そして服薬です。食については、2020年から“講演と調理実演・実食”という新しい形のイベントを定期的に開催しています。日清医療食品さんとのコラボレーションで、心臓を守る健康レシピ、心臓病を持つお子さんの“医”と“食育”、榊原のお料理教室などと題し、2024年までで6回開催していずれも大変ご好評いただきました。私自身料理が好きなので毎回楽しみにしています。また、これをきっかけとして心臓を守る教室をシリーズ化し、現在は運動教室やお薬の教室も行っています。

予防だけでなく地域の方々との交流を目的にしたイベントも開催しています。例えば、地域の小中学生向けにエコー検査や聴診器の体験、救急車体験イベントや、市民公開講座を定期的に開催しています。2023年の市民公開講座では、心臓弁膜症をテーマにして現地とオンラインで全国から合計約1,200人もの方にご参加いただきました。複雑な心臓病を良く知ってもらい、よりよい生活を目指すために何ができるのか、実際治療はどんなことをやるのか、予防するにはどうしたらいいのか、など外来などでもよく聞かれる質問も交え、活発なイベントとなりました。

当院は、心臓の専門病院として多くの患者さんに対し診療をしています。さらにこの分野において、患者さんと地域や医療機関とのハブになるような病院になればと考えています。

地域の皆様との交流を大切に考え、当院が専門とする心臓病対策で地域に貢献できればと考えています。我々はこれからも努力を惜しまず専門性を持った質の高い医療を提供してまいります。

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