院長インタビュー

心臓疾患、脳血管疾患に高度医療を提供しつつ、地域医療への貢献も目指す 千葉県循環器病センター

心臓疾患、脳血管疾患に高度医療を提供しつつ、地域医療への貢献も目指す 千葉県循環器病センター
村山 博和 先生

千葉県循環器病センター 元病院長

村山 博和 先生

この記事の最終更新は2018年04月27日です。

千葉県循環器病センターは、千葉県の県立病院のなかでも特に循環器疾患に強い病院です。その専門性を保ちながら、一般診療も行い、地域の中核病院としての役割も果たしています。

市原市の豊かな自然のなかに建っており、循環器病の診療施設としてよい環境にある病院です。

診療科の数は18科、病床数は220床です。同院が現在、取り組んでいることや、病院としての強み、今後めざす病院像などについて、病院長である村山博和先生にお話を伺いました。

画像提供:千葉県循環器病センター

当院の前身は結核療養所でした。1960年代に一般病院に変更され、千葉大学、岩手医科大学と連携し、心臓外科の手術を行える施設として設備を整えることとなりました。そして、心臓外科医が多く集まるようになったのです。1966年には心肺センター設備を樹立しました。今でこそ、この設備を備えた病院は多いですが、当時はあまりありませんでした。

このように心臓疾患に特化した病院だったのですが、1998年に千葉県循環器病センターとなる際、脳卒中などの脳血管疾患の救急医療も開始しました。

現在、力を入れているのは、循環器疾患と脳血管疾患に対する高度医療の提供です。千葉県循環器病センターの南東には循環器疾患や脳血管疾患の高度専門治療に対応できる施設が少なく、2次医療圏の外からも患者さんを受け入れています。これまで救急搬送を年間2,000件以上受け入れています。ヘリポートがありますので、遠隔地からの搬送受け入れも可能です。国際空港のある成田からでも15分程度で到着します。災害拠点病院でもありますので、千葉県内外の広域災害に対応できる設備も備えています。

画像提供:千葉県循環器病センター

「最新医療」とされる技術も、時間の経過とともに多くの施設で提供される「一般的」な医療となっていきます。かつて当院は、千葉県内で「大動脈ステント治療」と呼ばれる治療ができる数少ない病院でした。今では、当院で研修された先生方がご自分の施設で治療を行っています。

最近では新たな取り組みとして大動脈弁の不具合を、手術せずに治療するTAVI(たび)と呼ばれる治療も、県内の公的病院としていち早く取り入れました。

このように常に最新の循環器医療を取り入れるべく努力しています。学会にも積極的に参加していますし、新たな技術があると聞けば、国内のみならず外国にも修得に足を運びます。また、大動脈弁形成術など、新しい分野の手術にあたっては千葉大学心臓外科の教授を招くなど、外部からのエキスパートによる手術の指導を依頼しながら導入することも行っています。今後も患者さんによい技術を提供できるよう研鑽してまいります。

ハイブリッド手術室の様子 画像提供:千葉県循環器病センター

持って生まれた心臓の病気、すなわち先天性心疾患を持った成人を対象とした診療も、当院の特徴です。小児科で診ていた患者さんも16歳からは成人として診療されます。

近年は手術成績がよくなり、先天性心疾患のお子さんたちが長く生きられるようになりました。これはとても素晴らしいことです。しかしながら、成人先天性心疾患の方に全人的な治療を提供する施設が少なく、また病態そのものもかなり複雑であるというのも成人先天性心疾患の難しいところです。幼い頃に手術を受けている心臓は体の成長とともに再手術が必要となる場合や不整脈が出現する場合もあるのです。「アブレーション治療」と呼ばれる不整脈を治すためのカテーテル治療も行っています。

また、心臓の病気を持った子どもが成人することによって生じる、心の悩みにも対応しています。出産に関する悩みや、就職に関する悩みをかかえる患者さんも少なくありません。そのような精神的な問題には、専任の看護師、臨床心理士、精神科医師などがトータルでサポートしています。

2016年から、難治性てんかんに対する外科治療を始めました。千葉県内では当院が唯一手術に対応している施設です。対象となるのは、薬でコントロールできない難治性てんかんの患者さんです。脳波を記録し、発作の出現についてビデオモニタ記録で詳しく検査します。てんかん発作の原因部位をしっかり特定することにより、手術が可能となるのです。1年目だけで17件の手術がありました。

治療分野だけでなく将来的には、社会復帰支援や啓蒙的活動まで包括的にサポートする「てんかんセンター」施設に発展させようと考えており、現在、千葉県の担当部署と相談中です。てんかんを持つ患者さんは、いつ発作が起きるかわからず、精神的にも不安な方が多いです。就職や日常生活などを考えるために、医療ソーシャルワーカーなども入れて社会的なサポートも行っていきたいと考えています。

ガンマナイフは転移性脳腫瘍、良性腫瘍(聴神経腫瘍髄膜腫、下垂体腺腫など)、脳動静脈奇形などの患者さんに対して、開頭手術をすることなく治療する治療装置です。当院は千葉県で先駆けて導入し、1998年1月からガンマナイフ治療を開始し、15年間で6,500例・26,000病変以上の治療を行いました。現在は年間500例ほど施行しています。

当院では医師、看護師、放射線技師、医療事務が4つの柱となりチームを構成してガンマナイフ治療を行っております。このシステムの導入により安全に高精度で効率的なガンマナイフ治療が可能になりました。2018年度以降に新しいバージョンの更新を検討中です。新しいバージョンでは硬いフレームによる頭蓋骨の固定を必要としないため患者さんの負担がより緩和されるという、大きな利点があります。また、より大きな病変に対しても分割照射によって治療が見込める可能性など、多くの優れた特徴をいかしながらガンマナイフ治療に積極的に取り組んでまいります。

画像提供:千葉県循環器病センター

当院では、年間3,000名ほどの救急患者を受け入れています。救急車で搬送されてくる患者さんだけでも2,000名近くいます。

心臓疾患に関しては、365日24時間いつでも対応します。患者さんの病状によっては夜間の手術も行っています。手術が必要となれば、心臓外科医だけでなく、麻酔医や人工心肺を動かす臨床工学技士、手術担当看護師が駆けつけるシステムを整えています。

脳疾患に対しては医師の移動などにより、現在は週3日のみ24時間救急対応を行っています。今後、365日24時間体制を周辺の三次医療施設とともに連携対応して行くことが課題です。

循環器や脳疾患は救急隊の判断が重要な疾患ですので、救急隊への勉強会も定期的に行っています。同じ医療圏にある周辺の医療施設と連携して救急医療に対する検討会も定期的に実施しています。

当院の医師数は40名ほどです。これくらいの数ですとみんな顔見知りですから、診療科間の垣根はありません。電話一本で、他科での検査や診察を依頼できます。フットワークがよいことが特徴です。

このコミュニケーションのよさは、医療の「質」や「安全」という観点からも大きな強みだと思います。医師間だけではなく医療に携わるさまざまな職種の方とコミュニケーションを円滑にするようスタッフには伝えています。

また、患者さんとの対話は特に大切です。医療従事者が患者さんと同じ方向を向いて一緒になって治療に臨めるよう、一方的な説明でなく対話を大切にするようにとスタッフに教育しています。患者さんとのよい関係性をしっかり築いていけるよう、今後も取り組んでまいります。

当院の医療圏の人口は減っており、高齢化率も上がっています。周辺には医師が不足している地域もあり、一人でさまざまな病気を診ることができる総合診療医の育成が重要であると考えています。当院は近隣の病院と連携して、新たに始まる「総合診療専門医」の研修施設として申請をしたところです。私自身も総合診療の外来を行っていますし、多くの総合診療医を育てて行くために今後も尽力いたします。

この地域には医療機関が少なく、総合内科や小児科、耳鼻咽喉科や皮膚科などは、当院をかかりつけにしている患者さんも少なくありません。そのような患者さんがいつでも気軽に来てくださるような病院であり続けたいと思っています。

その一方で、心臓疾患と脳血管疾患については、高度医療を提供していく使命があります。この2つの病気に関しては救急で運ばれてくる患者さんが多い疾患でもありますので、いつでも質と安全を保った医療が提供できるよう、人員の確保や最新の技術の研鑽を続けてまいります。

今後も「私たちに何が求められているのか」、地域のみなさまの意見に常に耳を傾けながら、柔軟に対応していきたいと思っています。何かご希望などございましたら、いつでもご相談ください。

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