日本赤十字社那須赤十字病院が開設されたのは、1949年のことです。日本赤十字社栃木県支部大田原赤十字病院として開設されたのが始まりで、2012年に移転新築し、新たに「日本赤十字社那須赤十字病院」として誕生しました。現在は460床を有し、救急医療や災害医療をはじめとした高度な医療を住民の方々へ提供しています。そんな同院では、現在どのような取り組みを行っているのでしょうか。現状や課題などに関して、院長である白石 悟先生にお話を伺いました。
当院は、全国に92か所ある赤十字病院のひとつです。もともとは、大田原赤十字病院として長いあいだ地域住民に頼られてきた病院でした。
2011年の東日本大震災で建物が被害を受け、一時は病床数を大きく減らしていました。その後、新築移転し460床の病床と29の診療科を構え、高齢化する地域住民の幅広い疾患に対応しています。
当院は日本赤十字社の病院であるため、災害拠点病院としての役割を当然、求められます。飛行機の墜落事故や中越地震、東日本大震災など、数々の災害時に当院からも早い段階で救護隊が出動しました。それ以外にも、那須や鬼怒川の水害など、多くの事故や自然災害に対応しています。
当院の救命救急センターは、県北地域では唯一、三次救急に対応しています。屋上と駐車場の2か所にヘリポートがあり、風の強い日でもヘリが降りられるようになっているのが、当院の特徴です。ドクターカーも導入しました。
心臓血管外科で行うカテーテル治療は、所要時間が極力短くなるように工夫しています。当直体制を整え、一般的に90分以内といわれる治療時間を、当院では40分以内というとても短い時間で行っており、救命率はとてもよいです。
血管造影のシステムは、通常は1方向からしか撮れないところ、2方向から撮れるものを導入しました。獨協医科大学病院との連携が取れるよう、画像を送信できるシステムも取り入れ、遠隔でやり取りできるようにしています。
当院では、年間700件超の分娩を取り扱っています。小児科と密に連携を取っており、ハイリスクな分娩にも対応可能です。
助産師外来やバースセンターを設けているのも、当院の産婦人科の特徴です。リスクの低い妊産婦さんであれば、同科の助産師による健診を受けたり、院内に設けられたバースセンターで自然分娩をしたりすることも可能です。
また、年に1度、「バースの会」をという集まりを開いています。大きな会場に当院で出産したご家族が集まり、元気な顔をみることができます。2016年は100名ほど集まり、好評をいただいています。
NICU・GCUの入院数は年間で200件近くあり、28週で生まれた子どもからみています。早く生まれた子どもの最大の問題は、呼吸がうまくできないことです。早期に対応することで、合併症などを予防するよう努めています。
また、当院には県内でも数少ない小児腎臓の専門医がいます。特にネフローゼの治療を得意としています。
ネフローゼは原因がはっきりせず、早く発見して治療を開始することがカギです。発見が遅れると重症化し、症状を繰り返してしまいます。専門医の先生が来てから、さまざまな検査の体制を整えてくれ、今は腎生検の実施を検討中です。
整形外科では疾患の診療を行っています。特に、珍しい専門外来を設けているのが特徴です。
仙骨と腸骨をつなぐ部分にある仙腸関節の障害は、些細なきっかけで起こることが多く、妊婦さんでも痛みを訴える方が多くいます。仙腸関節障害という名前が広く知られていないため、腰痛や股関節痛で受診される方が多くなっています。
当院ではこの仙腸関節障害専門の外来を金曜日に開設しており、ブロックなどの治療を行っています。
高齢化が進んでくることで、高齢者のQOL(生活の質)をどうやって保つかということが課題となってきます。それを考えて2017年末に立ち上げ予定なのが「ロコモ・サルコペニア外来」です。
ロコモティブシンドロームとは、筋力だけではなく関節など運動器全体のバランスが取れていない状態のことです。サルコペニアは、筋力の衰えた状態を指します。
そのような状況に早めに対応し、ご高齢の患者さんの転倒や骨折などを防着、QOL(生活の質)を保つことが目的の外来となる予定です。
当院は「地域がん診療連携拠点病院」に指定されており、栃木県内で7か所あるうちのひとつとなっています。がん患者さんを支えるために、治療をはじめとしたさまざまな取り組みを行っています。なかでも特徴的なのが「就労支援」と「緩和ケア病棟」、「がん患者会」です。
当院は、県内でもいち早くがん患者さんの就労支援に取り組み始めました。社会保険労務士の先生に来ていただき、就労に関する相談を受け付けています。
その取り組みが評価され、宇都宮にあるハローワークとの連携もできるようになりました。
当院では2013年に緩和ケア病棟を開設しました。がん患者さんを対象に、医師や看護師など他職種間で構成された緩和ケアチームが治療にあたっています。緩和ケア病棟で行うのは治すための治療ではなく、痛みなどの苦痛を取り除くための治療です。落ち着いた空間で過ごし、ご家族との時間もゆっくり取れるように、治療だけでなく環境づくりにも配慮しています。
当院にはがん患者会が2つあります。ひとつは「がん患者と家族の会 ピアサポート那須」、もうひとつは「乳がん患者会 マンマぴあルーチェ」です。
どちらも代表となっているのは、元患者さんの方です。月に1回ほど院内の会議室に集まって、患者さんやご家族同士で交流をしています。
当院では研究なども積極的に行っています。現在行われているものは、大きく分けると小児分野と糖尿病の分野です。
小児科分野で行われている取り組みは、生活習慣病や肥満に関するものです。Developmental Origins of Health and Disease(DOHaD)といって、低出生体重児などの小さく産まれた子どもは、生まれてから大きく成長しようとするために生活習慣病になりやすいという説があり、問題視されています。
これについて、子どものBMIをチェックすることで肥満を予測しようという取り組みを行っています。体重と身長をチェックするだけですから、子どもにも大きな負担はかかりません。
健康寿命をのばすためには、生活習慣病を減らすことが重要です。小さいころから傾向を把握し、対策をすることが必要なのです。
子どものBMIチェックを普及させようと、新聞に掲載するなど、さまざまなところでアピールしています。
糖尿病の分野においては、SGLT2阻害剤という糖尿病の薬に関する調査を行っています。この薬は腎臓のはたらきに作用する薬です。しかし、大規模な試験で心血管イベントによる死亡率が低くなるという結果が出ているのです。
しかし、なぜそのような結果になるのかはわかっていません。冠動脈のプラークをつくることを阻害する効果があるのではないかということで、当院で調査を行っています。
課題のひとつは、救急医の数です。まだまだ医師数が少ない現状があります。
そしてもうひとつの大きな課題は、高齢化です。地域の高齢化が進むのはもちろん、都内や埼玉など都市部から高齢者が流入してくる可能性があります。実際に、老後は那須周辺で過ごしたいという声もあるようで、療養型施設もつくられています。こういった、高齢者の医療をどう進めるか、救急搬送の増加にどう対応するかが大きな課題となってくるでしょう。
また、国は在宅医療を進めていく方針です。しかし、訪問医療を行う医師やスタッフも常にご自宅へいられるわけではありません。在宅では絶対にご家族の協力が必要です。
そういった状況も見据えて、開業医をはじめとした地域との連携も強化していかなくてはと考えています。
市中病院である当院は、大学病院と違いさまざまな病態をみられるのが特徴です。そのうえ、三次救急や災害拠点病院としての機能も持っているため、初期対応や一般病院でみられない部分を学べます。
また、診療科同士の垣根が低く、ちょっとしたことでも相談しやすい職場環境なのも、当院の強みです。
私が採用の際に重視していることは、当院で何を望んでいるのか、道徳観やコミュニケーション能力があるかどうかです。医師同士だけではなく、看護師などのスタッフ、患者さんやご家族と関わるうえでコミュニケーション能力は大切です。そしてもうひとつ大切なのが、行動力です。一生懸命に勉強することも重要です。しかし、患者さんのもとに足を運んで、実際に顔を合わせて診ることもとても大切です。この部分は研修医の方には強くお伝えしていますし、研修医を指導する医師にも話すようにしています。
若手の方には、どんどん学会などに参加して、発表をたくさんしてもらうようにしています。専門性を高めるためにも、早いうちから発表の仕方を覚えて、機会を持つことが大切です。
院内では、医療安全や感染症など、年間で280以上の勉強会や研修を行っています。しかし、参加することがストレスになっては困るため、たとえば育児中の方でも参加できるように、早めの時間に始めるなど工夫をしています。
医師や看護師など、すべての職員にとって働きやすい、やりがいを持てる職場環境をつくりたいと考えています。患者さんやご家族にありがとうと感謝してもらえるような仕事ができるよう、教育も含めてみんなで一緒に協力して病院を盛り立ててくれるような方に来ていただきたいですね。
当院は、県北地域の中核病院として、「何かあったら日赤へ」と昔から住民のみなさまに親しまれてきた病院です。
地域には新しい医療機関もでき、それぞれ特徴や強みをうまくいかして、役割分担することで協力し合っています。これからも、みなさまに信頼される病院であれるよう、努力してまいります。