沖縄県宜野湾市にある独立行政法人 国立病院機構 沖縄病院(以下、沖縄病院)は、肺がん診療の拠点や難病診療連携拠点病院としての役割を担いつつ、急性期から緩和ケアまで幅広い地域医療を展開しています。
2023年に高精度放射線治療装置“TrueBeam(トゥルービーム)”を導入するなど、先進的な医療に挑み続ける同院の特長について、院長の大湾 勤子先生にお話を伺いました。
当院は、終戦後の沖縄に蔓延していた結核の診療を行うため、1948年に沖縄民政府公衆衛生部金武保養院として開設されました。現在は、脳・神経・筋疾患、肺がん、緩和医療などの領域に力を入れた300床の病院として地域医療をリードしています。
300床の内訳は、一般病床60床、結核30床、筋ジストロフィー・神経難病145床、緩和ケア25床、地域包括ケア40床で構成され、総合的な診療体制を整えています。2019年に開設した地域包括ケア病棟は、沖縄県の新型コロナウイルス感染症重点医療機関としてコロナ病棟に転用していた時期もありましたが、2023年の10月からは再び地域連携を推進し、患者さんの在宅復帰をサポートしています。また、時代の流れとともに結核患者は年々減少し、専用病床も1998年の150床から現在の30床まで大幅に縮小しましたが、今でも当院は沖縄県の結核医療における最後の砦であると自負しています。
当院は、ほかの医療機関では治療が困難な“セーフティネット医療”にも力を入れており、難病診療連携拠点病院として筋ジストロフィーを含む神経・筋難病や結核などの患者さんを沖縄県全域から受け入れています。
また2023年には、紹介受診重点医療機関に指定されました。当院は、これまで以上に専門的で高度な診療に専念しながら、地域の医療機関との連携体制強化に取り組んでいく方針です。
当院の肺がんセンターは、沖縄県の肺がん診療の拠点として県内全域から患者さんを受け入れ、診断から緩和ケアまでワンストップの診療を行っています。近年は、年間100例*前後の肺がんの手術に対応しており、胸腔鏡下手術による低侵襲(からだへの負担が少ない)な治療に努めています。
特に同センターでは、高度な治療を必要とする進行肺がんの症例が多いため、呼吸器外科、呼吸器内科、放射線科、放射線治療科、病理診断科の医師によるキャンサーボード(検討会)を開催し、慎重に治療方針を決定しています。また、それぞれの患者さんに合わせたオーダーメイド医療(個別化医療)を推進し、遺伝子レベルでの検査(バイオマーカー)によって治療方法を選択しています。
2023年には高精度放射線治療装置“TrueBeam(トゥルービーム)”を導入し、最新の放射線治療を行えるようになりました。この装置は、がんの根治治療だけでなく、がんの転移による痛みなどにも適用できるため、一般病棟や緩和ケア病棟での入院治療にも積極的に取り入れています。
*肺がん手術例……2022年度:77例、2023年度:101例
当院の脳神経内科は、県内で唯一の筋ジストロフィー病棟を備える難病診療連携拠点病院として、変性疾患(運動機能や認知機能が低下する疾患)や神経難病を中心とした診療を行っています。
同科では精度の高い診断を目指し、増加傾向にある認知症やパーキンソン病などの脳神経内科疾患に対して、MRIをはじめ核医学、脳波、神経超音波検査、筋電図などのさまざまな検査を行っています。
神経・筋疾患に対する血漿交換療法は沖縄県内でも多くの症例数を誇り、着実に実績を重ねています。また、これまで治療法がなかった脊髄性筋萎縮症に対して核酸医薬品をはじめ、以下に述べる最新の治療法に挑み続けています。
直近の取り組みとしては、免疫性神経疾患の多発性硬化症や視神経脊髄炎に対して疾患修飾薬を採用するほか、重症筋無力症に対する抗体医薬の適用などが挙げられます。中でも、アルツハイマーの治療薬を県内で初めて導入した際は多数のメディアに紹介されました。
その一方で、当院は沖縄型神経原性筋萎縮症という稀少疾患と向き合い続け、治療法の確立に向けて外部の施設と共同研究を行っています。この疾患は、患者さんの大半が沖縄県民なので情報を集めやすく、創薬につながることを期待しながら日々研究に励んでいます。
当院は、世界初の装着型サイボーグ“HAL 医療用下肢タイプ”を2017年に導入し、身体機能が低下した患者さんのリハビリテーションに活用しています。
HALの適用は筋ジストロフィーをはじめ、脊髄性筋萎縮症(SMA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含む10の疾患が対象となり、画期的な治療法として期待されています。
当院では、毎月3名以上の患者さんにHALを活用したリハビリテーションを行い、QOL(生活の質)の維持や体幹のバランス調整などに役立てています。
当院では現在隔月で、地域の先生に参加していただく“レントゲン勉強会”を開催しています。2004年からすでに20年以上も継続しており、年1回は講師を招き、医療技術の研鑽に努めています。
また年に3回のペースで“呼吸器外科道場”を開催するほか、県内の中核病院の医師が集まって脳神経内科に関する情報交換会を行うなど、地域の医療機関と力を合わせながら医療水準の向上に取り組んでいます。
当院は、独立行政法人 国立病院機構の一員として2019年に臨床研究部を発足し、医療の発展に貢献できるよう臨床研究に努めています。たとえば、新型コロナウイルス感染症の治療薬について、県内の医療機関の中で唯一治験に対応するなど、時代が求めるさまざまな医療ニーズに応えてきました。
また当院は、より質の高い医療を提供するために新たな治療法を日々模索しており、1981年に創刊した“国立沖縄病院醫學雜誌”(2024年第44巻)などで研究活動の成果を発表しています。
当院は、患者さんに信頼される病院を目指しています。そのためには職員が生き生きと働ける職場づくりが重要となります。
私が院長に就任してからは、病院全体で取り組むテーマを3か月ごとに漢字一文字で打ち出し、電子カルテに表示させて職員の意識統一を図っています。今月(2024年10月)のテーマは“資”です。これは、当院にとって職員の一人ひとりが宝であり、欠けがえのない財産であることを表しています。職員の皆さんが、自分たちの仕事を誇りに思い、患者さんのために最高のパフォーマンスを発揮してくれることを期待しています。
これからも当院は沖縄県の中核的な病院として地域医療を支えるとともに、最新の医療によって一人でも多くの患者さんを救えるよう全力で取り組んでまいります。
*病床数や診療科、医師、提供する医療の内容等についての情報は全て2024年11月時点のものです。