院長インタビュー

「誠の医療の実践で世界に冠たる病院を目指す」 岩手医科大学附属病院(岩手県盛岡市)

「誠の医療の実践で世界に冠たる病院を目指す」 岩手医科大学附属病院(岩手県盛岡市)
杉山 徹 先生

杉山 徹 先生

この記事の最終更新は2017年05月18日です。

120年以上もの歴史をもち、創立当時より病気だけではなく“人”を診る、患者さん中心の医療を真摯に続けてきた岩手医科大学附属病院。こちらの病院では多くの特色ある診療科を揃え、様々な取り組みを実現させることで岩手県だけでなく青森県や秋田県など幅広い地域の方々へ垣根のない医療を提供し続けています。

本記事では、病院長の杉山 徹先生にインタビューから、地域の方々から厚い信頼を得る岩手医科大学附属病院の特徴、そして地域の患者さんや若手医師の方へのメッセージについてお話いただきました。

杉山 徹先生

地図を見てみると分かりますが、岩手県は四国と同じくらい、または東京、千葉・神奈川・埼玉を合わせたものと同程度の面積をもつ、とても大きな県です。岩手県はこうした広い県土を有しますが、高度先端医療行為を必要とする患者に対応する病院として厚生労働大臣認可の特定機能病院は岩手県では岩手医科大学附属病院のみです。そのため当院は47の標榜診療科を揃え、最新の医療設備・医療機器を備える大規模拠点病院として、地域の患者さん方と真摯に向き合い続けています。

さらに当院には岩手県のみならず、隣接する青森県の南部や、秋田県の北部からも多くの患者さんが受診されます。盛岡市は北東北の中核都市であり、交通の利便性に優れています。北東北には大きな山脈があり、その山を越えて県内の病院へ向かうよりも、岩手県にある当院へいらしたほうが利便性に優れることも大きな理由だと思います。こうした地理的要因からも、当院には岩手県内だけにとどまらず非常に広範囲の地域の急性期医療を担っています。

医療圏でみると、岩手県で約120万人、青森県東南部の八戸市周辺より約30万人です。そのほかにも秋田県北東部鹿角市などの地域から受診される方も多く、これらの医療圏を合わせると年間200万人近くに上ります。私立の病院が、これほど広範囲で多数の医療圏を抱えているということは、全国的にとても珍しいことです。

当院は創立120周年もの長い歴史をもつ病院です。「誠の精神に基づく、誠の医療の実践」を基本理念に掲げ、永年にわたり地域医療の中核としての責任を果たし、高度医療を提供してきました。

また当院は120年以上前からチーム医療を実践してきた歴史があります。創立者の三田先生は、1897年に今でいう医師の養成機関である「私立医学講習所」、看護師・助産師の養成機関の「産婆看護婦養成所」を併設したことで、現在では医療の常識といわれるチーム医療を先駆けて行った人物です。そのため当院はチーム医療の原点とも呼ばれています。

【岩手医科大学附属病院の標榜診療科】

※2017年5月現在

当院は上記のように幅広い診療科を揃えています。なかには近年新たに立ち上げた診療科もいくつかあります。幅広い診療科を揃えることでそれぞれ高い専門性をもつ診療体制作りを進めています。

ここではそのなかでも特色ある取り組みを行う診療科をご紹介します。

当センターは県内唯一の高度救命救急センターで、救命救急センター内で患者さんの治療を完結させる「自己完結型救命救急センター」としての機能を持っています。自己完結型の救命救急センターというのは全国的にもめずらしい体制です。

そうした体制を持つことから、一般的な救急疾患以外にも重度多発外傷、広範囲熱傷、中毒、重度四肢外傷、特殊感染や重症敗血症などの初期治療から、手術、集中治療、急性期リハビリまで、迅速かつ円滑に施行可能です。また、院内、県内外からの紹介やドクターヘリ搬送も多い点が特徴です。岩手の救急医療を担う最後の砦として日々救急の患者さんと向き合っています。

当院産科では最新の超音波断層装置を使用し検査を行い、岩手県総合周産期母子医療センター(MFICU)と連携して治療を行っています。MFICUは2001年4月より開設された機関で、小児科新生児集中治療室(NICU)との綿密なる連携をとりながら24時間体制で重症産科疾患の入院加療を行っています。産婦人科のなかでも周産期医療は地域医療においてとても重要な治療領域です。周産期とは妊娠22週から生後満7日未満までの期間のことで、合併症妊娠や分娩時の新生児仮死など、母体・胎児や新生児の生命に関わる事態が発生する可能性が常にあります。当院では正常妊婦を含めて、岩手県総合周産期母子医療センターや小児科新生児集中治療室との密な連携により、より安心な周産期医療を提供しています。このように周産期医療体制が確立しており、岩手県内はもちろん、青森県・秋田県からもドクターヘリで早産妊婦等が当院へ緊急搬送されてくることもあります。

また婦人科では良性腫瘍、悪性腫瘍など婦人科疾患の最新技術による診断・治療を行い、婦人科がんでは日本をリードする施設1つです。世界で開発している新薬での治療も受けられます(治験)。現在、内視鏡手術を充実させ、ロボット手術の導入準備中です。また、生殖医療専門医による高度不妊治療(体外受精・胚移植)、不妊相談外来(不妊相談)、遺伝相談外来(遺伝カウンセリング)など、産科・婦人科疾患全般の診療を行っています。診療を希望する方はいつでもお問い合わせください。

当院の強みには循環器領域も挙げられます。循環器内科心臓血管外科循環器小児科循環器放射線科循環器麻酔科を揃え、それぞれ専門性をもって診療にあたっています。

1997年より附属循環器医療センターが開設され、虚血性心疾患心不全不整脈心筋症心筋炎弁膜症先天性心疾患、大血管疾患など高度専門的な診断と治療を要する疾患を扱っています。

また附属循環器医療センターでは誰もがリラックスして医療に専念できるよう、随所にすごしやすい空間を設けた近代的な施設にしています。北日本唯一の専門施設として高い専門性をもつスタッフと最新の設備を揃え、また地域医療機関との連携により21世紀の最先端医療を目指す当センターには、県民・市民から大きな期待が寄せられています。

当院は国が定める都道府県がん診療連携拠点病院に指定されており、専門的ながん医療の提供、地域のがん診療の連携協力体制の構築、がん患者に対する相談支援および情報提供などを行う病院です。都道府県のがん診療施設と連携をとりながら診療を進めています。

当院の腫瘍センターに付属されているがん患者家族サロンでは、患者さんやそのご家族ご遺族が、がんの相談をできるよう専任の職員が常任し、いつでも患者さんやご家族の方が立ち寄れるようにしています。がんの相談室は全国数々の医療機関でも取り組んでいると思いますが、当院のように常に職員がサロンにいるということは少ないと思います。

またがん患者・家族サロンでは毎日のように行事やミニレクチャー講座などが開催され、さまざまな取り組みが行われています。またなかには患者さんご自身もボランティアとしてサロンの活動運営に関わり、相談相手として患者さんやご家族のお話に耳を傾けていることもあります。

がん患者・家族サロンは立ち上がってから約10年が経ち、これまでの来訪者数は25,028人、1日平均14.0人です。都心ではない場所でありながら、これだけ多くの方が利用されているということは、非常に価値のある活動を行っていることの表れだと感じています。

※平成28年7月29日現在

また最近、血液腫瘍内科から独立して臨床腫瘍内科を設立し、より効率的な内科的ながん医療を目指していきたいと考えています。さらに、2017年4月から肺がんの専門医が教授として赴任し、東北地方の肺がん医療の中心となると思います。2019年に完成する新病棟には緩和ケア病棟を25床つくる予定です。この新病棟開設に向けて、さらに高度なレベルに加え、患者さんに優しいがん治療領域を充実させていきたいと考えています。

杉山 徹先生

東日本大震災から約6年が経ち、今年から、被災をきっかけに医師を志すようになった方が医師を目指し、医学部に入学・卒業を経て研修医となる年になりました。そうした彼らにどのような研修を行っているのかをご紹介します。

当院には現在15名(県立病院で勤務する者を合わせると約70名)の研修医がいます。

当院の研修ではたすきがけ研修を採用しています。これは研修期間中に1つの施設だけではなく、ほかの施設での研修を何か月間か行うことで、新しい体験や人脈形成ができます。研修医は行きたい病院を選び、数か月の間他の医療機関で経験を得ることで生き生きと研修に励んでいます。

女性の医師にとって、結婚・出産・子育てといったライフイベントのなかでどのように医師としてのキャリアを積むかということは大きなテーマです。当院ではより女性医師が働きやすい環境を作れるように取り組みを進めています。

たとえば、次に述べることは実際にあった産婦人科での事例です。京都大学よりいらっしゃった女性医師の方が出産予定のため、専門医を取得するかどうかを迷っていました。主任教授である私は、その方と相談を重ね、当科では無理のないペースで以前の環境よりもより多くの症例と向き合える場所だということをお伝えしていきました。すると彼女は「専門医資格を取ってみます」と決意を固め、出産を挟んで症例を積み、専門医の資格要件を満たすことができました。その後は京都大学へもどり、専門医として勤務されています。

このように当院では、女性ならではのライフイベントを両立しながら、たくさんの症例を担当することができます。都心では病院や医師の数から、一人の医師が多くの症例をみることはなかなか難しいかもしれません。一方当院は多くの症例と向き合うことができ、家庭と両立しつつ自身の能力を磨くことのできる環境だと思います。ライフイベントに柔軟に対応しながら働きたい人は働くことができ、着実にキャリアを積むことができるというところが当院の魅力でしょう。

こころのケア

当院には岩手県からの委託業務として東日本大震災によって被災した方の精神的ケアを行う事業を2つ行っています。

ひとつは岩手県こころのケアセンターです。当センターでは東日本大震災でつらい経験をされたことにより精神的負担を抱えている被災者の心身の健康を守るために発足しました。岩手医科大学の4か所に小規模事業所を設け、そこから日々、さまざまな地域へこころのケアに向かいます。きめ細やかで専門的なこころのケアを長期にわたって実施することで、被災者のこころに寄り添って精神的負担を軽減していく方法を一緒に考えていきます。

もうひとつはいわてこどもケアセンター(児童精神科クリニック)という、こどもを対象としたケアセンターです。特に震災をきっかけに眠れない、人とうまく関われない、登校拒否になる、落ち込みや不安が強いといった症状が現れるこどもに向けて、こころの悩み全般に対応し、様々な専門療法やデイケアなどを提供しています。

被災地を中心とした地域住民の方々の健康向上、そして次世代医療の実現のためにいわて東北メディカル・メガバンクという取り組みを行っています。

いわて東北メディカル・メガバンクは、被災地住民の方々に対して健康調査を行い、その結果の発表、その後の健康相談の実施を通して、住民の方々へ健康向上に役立てる取り組みです。またこの活動と併せて、被災地住民の方々のゲノム情報を含む地域住民コホート研究や三世代コホート研究を計画してデータを集積することで、東北地域発の予防医療・個別化医療の実現を目指すことができます。

岩手医科大学では、このいわて東北メディカル・メガバンク機構を2012年に設置し、2013年より地域住民の方々へ健康調査を開始、医療相談などを通じて健康向上に取り組んできました。2015年からは本プロジェクトが国の機関であるAMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)の統括のもと進められるようになり、AMEDが進めるゲノム医療実現推進プラットフォーム事業の推進にも貢献しています。

今後この活動が真に被災地域の医療復興と、新たな地域医療の実現に向けた基盤づくりに繋がるよう、最大限の努力をしていきたいと考えています。

岩手医科大学附属病院は、約2年半後の2019年9月には現在の岩手県盛岡市内丸から約10キロ離れた矢巾町(やはばちょう)へと新築移転する予定です。高速道路に矢巾インターの設置や道路網、交通機関の拡充も計画され、新病院内にはホテルの建設も予定されています。

これまでは来院される方の人数に対し、当院の駐車場のキャパシティーが不足しており、来院される方にはご負担をおかけしていました。新たな病院になることで、みなさまに利用しやすく、施設面でもきれいな環境を提供できるようになります。

新病院移転後は、さらに急性期医療に特化し、高機能で地域の患者さんの誇りになるような、世界に冠たる病院を作っていくことが当院の目標です。

ぜひ地域の方々にはご自身の状態に関心をもって、いまの体調を知っていただき、何かわからないことがあれば自分だけ悩まずに来院していただきたいと思っています。当院にはさまざまな支援センターも設けており、あらゆる相談を受け付けています。自分がより良い医療を受けるためにはどうしたらいいかということを考え、診療が必要なときに医療機関を受診できるようにしていただきたいと考えています。そして当院に来院された方には信頼関係に基づく当院のもつ最良の医療を提供して、地域と一緒に医療を作っていきたいと思います。