熊本県熊本市にある医療法人田中会 武蔵ヶ丘病院(以下、武蔵ヶ丘病院)は、ケアミックス型病院として二次救急から在宅医療まで幅広く担い、地域に根ざした診療を行っています。
そんな同院の特長について、副理事長を務める田中 慎一郎先生にお話を伺いました。
当院は1977年に開院し、来る2027年に開院50周年を迎える歴史ある病院です。開院当初は、療養型の病院として介護やリハビリテーショなどの慢性期医療を主軸としていましたが、2015年に新病院へと移転した際にケアミックス型へと移行し、急性期から慢性期まで幅広く地域医療を担うようになりました。現在は、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟を含めて145床の病床を備え、救急から在宅医療までワンストップの診療を行っています。
救急については、2024年度は毎月100件以上のペースで救急車を受け入れており、数年前の受け入れ台数と比べて倍増しています。これは、専用のホットラインを開設することにより、地域のクリニックや三次救急に対応している基幹病院からの紹介が増えたことに起因しています。また職員の意識改革を行い、全職員が一丸となって救急医療に向き合うようになったことも大きく影響していると思います。
当院は60床の回復期リハビリテーション病棟を備えており、常に最新機器を導入し先進的なリハビリを行えるよう努めています。たとえば、脳卒中などで下肢麻痺になった患者さんのリハビリテーションを支援する“ウェルウォーク”をはじめ、歩行リハビリテーションを補助する装着型アシストロボット“オルソボット”、VR(仮想現実)を活用した“メディVR”などを活用しています。
また、近年のリハビリテーションは客観的なデータに基づく治療が主流となっており、三次元動作解析装置を導入して患者さんの歩行や動作を分析しています。さらに、手指麻痺の患者さんについては、AI解析技術によって手指の運動をアシストする“MELTz”の導入を検討中です。
訪問診療については、嚥下内視鏡検査(VE)のほか言語聴覚士(ST)による嚥下訓練などを2025年度からスタートする予定です。これらの取り組みを行っている医療機関は少ないため、当院は地域医療の要として、高齢者やからだの不自由な方々を積極的にサポートしていく方針です。
当院は、診療における3つの柱として救急医療、リハビリテーション、在宅医療を掲げています。
近年、高齢化社会に伴って複数の疾患を抱える患者さんが急増しています。そのため当院では、専門分野の医師も総合的な診療に対応するなど、全人的な診療に努めています。昨今の医療業界では、専門分野を追求するか、幅広い医療に対応するかという二極化が進んでいますが、当院は地域に根ざした病院として、幅広い分野をカバーできる病院でありたいと考えています。
当院は、2022年に武蔵ヶ丘臨床研究センター(MCRC)を開設しました。同センターには私を含めて5名の研究員が在籍し、医療の発展を目指して日々研究活動に邁進しています。臨床研究員は臨床も担当しますし、研究だけに専念することもできます。
現在は特に、民間企業との共同研究を積極的に行っています。民間企業からは、医療介護に関する共同研究をはじめ、多方面でさまざまな業種の企業からお声がけをいただいています。一例を挙げると、京都府丹後市で温浴施設「ゆかとぬげ」を運営する企業とともに、2023年から米ぬか酵素風呂やサウナの効果検証に取り組み、研究成果を学会などで発表しています。
MCRCは、こうした活動を通じて社会に貢献するとともに、臨床研究員としてのユニークなキャリア形成に一役買っています。
当院では毎年“むさし健康祭”を開催し、地域の方々と積極的に交流しています。このイベントでは、お子さんが参加できるお仕事体験コーナーを設けるほか、歩き方の診断や健康測定などを通じて予防医療を推進しています。
また、1か月に1回のペースで開催している“むさし健康まなヴィレッジ”では、認知症のトレーニングや、100人以上の参加者が集まる音楽療法士*の人気講座などを提供しています。そのほか、町内会の皆さんの要望をお聞きしたうえで、医師や看護師などを派遣して健康に関する勉強会を開催しています。
このように、当院は地域に開かれた病院を目指し、地域の方々が当院を身近に感じていただけるように努めています。当院の周辺地域には独居の高齢者が多いため、将来的には介護施設や地域交流の拠点となる施設も整備したいと考えています。
*音楽療法士……日本音楽療法学会など民間団体の認定資格。
当院は、当法人の掲げる“まっすぐに、人と向きあう”に沿って、地域の皆さんのご意見を積極的に受け入れ、さまざまな施策を打ち出していきたいと思っています。
私は、医療を“究極のサービス業”であると考えていますが、職員の心身が満たされていなければ、真のホスピタリティを発揮することはできません。そのため当院では、職員から“日本一働きたい病院”と思ってもらえるような働き方改革を推進しています。その一環として、2024年からAI問診を導入して業務の効率化に取り組んでいます。また多職種のコミュニケーションを促進するため、院内での部活動やサークル活動を始められるように準備中です。
これからも当院は地域に密着した医療活動を行い、職員一丸となって全力で地域の皆さんを支えて参ります。
*病床数や診療科、提供する医療の内容等についての情報は全て2024年10月時点のものです。