鹿児島市鴨池新町にある今村総合病院は、地域の急性期医療の中核を担いながら、血液内科やスポーツ整形外科、がん診療といった専門的な医療に力を入れ、幅広い診療を行っています。一方で、救急・総合内科(ER)や精神科といったさまざまな診療科をそろえており、“調子が悪ければいつでも気軽に頼ってほしい”というスタンスを大切にしている病院でもあります。
地域に根ざした医療を提供しながら、最新鋭の医療機器導入や手術室の増設、DX推進など新たな取り組みも積極的に進める同院について、院長の常盤 光弘先生にお話を伺いました。
当院は、鹿児島市鴨池新町に位置する急性期病院です。近隣には古くから続く住宅団地があり、地域の皆さんと自然な交流が生まれる環境が整っています。救急搬送の受け入れは年間3,000件*を超え、地域医療の要として多くの命を支えています。
病院の立地は、公共交通機関の利便性が高いとはいえませんが、その分お車で来院される方が多く、最近では隣接地に駐車場を増設しました。これにより、アクセス面での不便さが軽減され、患者さんにもスタッフにも利用しやすい環境づくりが進んでいます。
私たちが大切にしているのは、“専門的な医療を提供しつつ、調子が悪ければいつでもかかれる”という安心感のあるような、気軽に頼ってもらえる存在であることです。医療の専門性と地域に根ざした姿勢の“二本立て”こそが、当院が大切にすべきスタンスだと考えています。
*救急車受入台数……3,167件(2023年度)、3,093件(2024年度)
当院は総合病院としてさまざまな診療科をそろえています。中でも特長的な診療科としては、血液内科やスポーツ整形外科、救急・総合内科、精神科などが挙げられます。
当院の血液内科は、県内でも数少ない幹細胞移植に対応できる医療機関として、鹿児島県内全域から多くの患者さんが訪れる診療科です。移植医療は高度な専門性と安全管理が求められる分野であり、当院では大学病院からの派遣医師を含む、信頼できる医療チームが診療にあたっています。
血液内科では、白血病や悪性リンパ腫といった疾患に対して、化学療法はもちろん、患者さん自身の細胞を用いた自家移植など、さまざまな治療選択肢を提供しています。また、現在は次世代治療として注目されている“CAR-T細胞療法”の導入に向けた準備も進めており、これまで以上に治療の幅が広がることが期待されています。
県内では幹細胞移植を行える施設が限られていることもあり、当院は広域から頼られる診療科としての責任を担いながら、患者さんに安心して治療を受けていただける環境整備に努めています。感染対策や個室環境にも配慮し、重症度の高い患者さんにも対応できる体制が整っているため、遠方からも紹介を受けるケースが少なくありません。
スポーツ整形外科は、スポーツによるけがや関節障害に対して専門的な診療を提供する診療科です。部活動に励む学生や、中高年の市民アスリートなど年齢や競技レベルに関わらず幅広い層の患者さんが来院されます。
スポーツ整形は医師の専門性が問われる分野でもあり、当院にはこの分野を専門とする整形外科医が在籍し、蓄積された知識と経験をもとに診療を行っています。手術では低侵襲(体への負担が少ない)な鏡視下手術を導入しており、早期の競技復帰を支援しています。
また、運動機能の回復だけでなく、再発予防やトレーニング方法のアドバイスまで含めて、総合的なサポートを行っている点も当院ならではの特徴です。リハビリテーション部では、スポーツ整形リハビリテーションを行っており、“競技に復帰するための医療”を意識した診療体制を整えています。
救急・総合内科は、地域密着型の診療と急性期医療を両立する“地域の医療の入り口”としての役割を担っています。
診療の中心は、特定の診療科に分類しづらい複数の疾患を抱える高齢患者さんや、どの科を受診すればよいか分からない初期症状の患者さんです。こうした“まず相談できる場所”として、幅広い症状に対応できる体制を整えています。まさに、地域住民にとっての“最初の医療窓口”とも言える存在です。
当院は精神科病棟を備えており、総合病院の中にある精神科として、身体合併症を伴う精神疾患の患者さんも受け入れています。たとえば、精神疾患のある方が肺炎や虫垂炎など身体的な病気を併発した際、精神科と身体科が連携しながら治療にあたることができるのは、総合病院ならではの大きな強みです。
精神科と身体科が同じ施設内にあることで、身体的な治療が必要となった際にもスムーズに対応でき、転院や複数施設の受診といった患者さんやご家族の負担を減らすことができます。他の医療機関からのご紹介が多数寄せられることもあり、地域の医療機関との連携も進んでいます。
当院では、がん医療にも幅広く取り組んでおり、手術・放射線治療・薬物療法など、複数の治療法を組み合わせながら患者さん一人ひとりに合わせた治療選択肢を提供しています。
特に放射線治療では、2025年春に“ガンマナイフセンター”を開設し、最新鋭のガンマナイフ(Esprit)を導入しました。この最新機器は現在九州では初の導入となります。
ガンマナイフは、脳腫瘍や脳への転移病変などに対してメスを使わずに行う精密な放射線治療機器で、治療にかかる時間や身体への負担が少ないという特長があります。最新鋭の装置を導入したことで、鹿児島県内はもちろん、福岡や山口など県外からの紹介も増えており、これまで以上に広い地域のがん患者さんを支える体制が整いました。
また、当院では“ダビンチ”を用いた低侵襲ロボット手術にも対応しており、前立腺がんや消化器がんの治療においても、出血や術後の痛みを抑えた質の高い手術を実現しています。その他、トモセラピー(強度変調放射線治療)や小線源治療といった、多様ながん治療機器を導入しており、部位や病態に応じて柔軟に対応できる点も当院ならではの強みです。
さらに、前述のとおり次世代のがん免疫療法として注目されている“CAR-T細胞療法”の導入に向けた準備も進められています。これにより、治療が難しかった血液がんへの対応も期待されており、今後の地域医療において大きな役割を果たすものと考えています。
当院は、単に“病気を診る場所”ではなく、地域にとっての“基盤”となるような存在でありたいと考えています。その一環として、鴨池地区を中心とした地域行事への参加や交流を大切にし、病院と地域が一緒に歩む姿勢を育んできました。
また、近年では医療現場のデジタル化を進めるため、院内に“DXテクニカルチーム”を立ち上げました。医師や看護師の視点だけでなく、情報システムの専門職が常駐し、現場の声を反映しながら使いやすい仕組みを整備しています。これにより、業務効率の向上だけでなく、職員間の連携や教育体制の整備にも貢献しています。
直近の大きなトピックスとしては、手術室の増設があります。従来は6室でしたが、2025年度から9室へと拡張しました。これにより手術の回転率が上がり、以前よりも短い待機期間で治療に臨んでいただけるようになりました。
こうした設備や仕組みの整備は、患者さんのためであると同時に、職員の働きやすさにもつながっています。“人が集まる病院”であるためには、スタッフがやりがいを持って働ける環境づくりが不可欠です。当院ではその両方を同時に実現できるよう、日々改善を積み重ねています。
当院では、患者さん一人ひとりに寄り添いながら、質の高い医療を提供することを大切にしています。病院の役割は、単なる医療提供だけではありません。地域全体の暮らしやすさを守る“地域の拠点”としての機能が、これからはますます求められていくと感じています。
そのためにも、医療の専門性を磨くだけでなく、“困ったときに気軽に相談できる場所”であることも大切にしたいと思っています。「調子が悪いから、ちょっと行ってみよう」――そんなふうに思ってもらえる存在であり続けられるよう、これからも努力を重ねてまいりますので、よろしくお願いいたします。
様々な学会と連携し、日々の診療・研究に役立つ医師向けウェビナーを定期配信しています。
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