

イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教
ビールが美味しい季節になると、にわかに発症リスクが高まる「痛風」。風が吹くだけでも激痛が走ると言われるこの病気は、いまや国内に約130万人もの患者がいるとされる身近な病気だ。
しかし、痛風は治療を途中でやめてしまうケースが非常に目立つという。イーヘルスクリニック新宿院(東京都新宿区)が2026年6月に行った調査では、痛風と診断された人の4割以上が自己判断で治療を中断しているという衝撃的な実態が明らかになった。
痛くないからと放置すれば腎機能の低下を招き、将来的に人工透析が必要になるリスクもある痛風・高尿酸血症の罠について、同院の院長であり腎臓内科が専門の天野方一(あまの ほういち)先生に詳しく話を伺った。
体に電気が走るような、あの凄まじい痛風の痛みを経験したことがある方は少なくないでしょう。
痛風は、血液の中に過剰に増えてしまった尿酸という物質が結晶になり、足の親指といった関節に溜まることで激しい炎症を起こす病気です。
この痛みを引き起こす主な原因となる高尿酸血症は、血液の中に尿酸が多くなった状態のことで、尿酸の値が7.0mg/dlを超えると高尿酸血症と診断されます。
高尿酸血症はプリン体の豊富な食事やアルコールの飲みすぎ、運動不足といった、働き盛りの男性に見られがちな生活習慣と深い結びつきがあります。実際、高尿酸血症は30代から50代以降の男性に発症しやすいのが特徴といえるでしょう。
しかし、尿酸値が高い状態が痛風を引き起こす原因となっていることを知らない方は、思ったよりも多いという状況があります。私たちのクリニックで実施した調査では、約半数(47.4%)の方が「知らない」と回答しました(図1)。
日本ではまだまだ痛風と高尿酸血症の基礎的な知識不足が続いており、その改善がこれからの大きな課題だと実感しています。
また、今回の調査では、痛風と診断されたことがある方に現在の治療の状況を伺いました。
その結果、「痛みが治まったため通院をやめた」と回答した人が35.1%で最も多くなっています。「診断されたが一度も通院しなかった」という方も10.5%おり、半数近くの方が自己判断で治療をやめている状況です。
さらに詳しく見ると、とくに20代から40代で治療を中断する方が多いことも分かりました(図2)。
痛風の発作は数日で治まることが多いものです。しかし、だからといって自己判断で治療を中断してしまうことは、さまざまな理由からおすすめできません。
この点について、さらに掘り下げて説明しましょう。
実は、痛風の激痛が数日で消えたとしても、尿酸値が下がったとは限りません。したがって、尿酸値を下げる治療を続けることが重要になります。
痛風の治療では一時的に目の前の痛みを鎮めるだけでなく、尿酸値を健康な範囲である6.0mg/dL以下までしっかりと下げて、その状態をずっと維持していくことを目指します。ここで仮に痛みが消え去ったからといって治療をストップしてしまうと、尿酸値は元の高い状態へと戻るでしょう。
そうなれば、あの激痛を再び経験したり、あるいは自覚症状のないまま大切な臓器にダメージが蓄積されて怖い生活習慣病へと進行したり、といったリスクが生じてしまいます。
「尿酸値が高いままだと、大切な臓器にダメージが蓄積される」――。このことは、もっと知られてよい事実です。
実は、尿酸の結晶が積み重なっていくのは関節の周りだけではありません。血液をろ過して綺麗にしてくれる腎臓にも、その結晶はどんどん溜まっていきます。その結果、腎臓のはたらきに深刻な悪影響を及ぼすようになり、これが新たな国民病とも呼ばれている慢性腎臓病、いわゆるCKDを引き起こします。
CKDが静かに進行してしまうと、最終的には自力で老廃物を排出できなくなり、人工透析を導入せざるを得ない事態にもつながりかねません。
さらに、血管の弾力性が失われる動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳卒中といった命に関わる重大な病気のリスクを上昇させるとの報告もあります。
非常に残念なことに、今回の調査では高尿酸血症が慢性腎臓病の危険因子であるという事実を、半数近い47.4%の方が知らないと答えました(図3)。
私は、高尿酸血症のリスクが正しく理解されていないことが、健康診断で指摘を受けても受診を後回しにしたり、生活習慣を改めようとしなかったりする悪循環を生む原因の1つになっていると考えています。
実際、健診で尿酸値が高いと指摘された方の3割以上が「特に改善に取り組むつもりがない」と回答されており(図4)、非常に危機感を覚えています。
ここまで述べてきたように、痛風やCKDにつながる高尿酸血症は、決して痛みがあるときだけ向き合えばよいという病気ではないのです。
そこで、これからもご自身の血管や腎臓を健康に保ち続けるために、ぜひ心がけていただきたい行動が3つあります。
まず1つ目は、プリン体を多く含む食べ物を少し控えめにし、適度な運動を毎日の生活に取り入れて習慣を整えていくことです。プリン体は白子やレバー、イワシやアジ、サンマといった干物に多く含まれています。また、アルコールはそれ自体に尿酸値を高くするはたらきがあるため、お酒は控えめにしましょう。
2つ目は、年に1回は健康診断を受けて、ご自身の尿酸値を示すUAという項目をきちんとチェックすることです。UAの値が7.0mg/dlに近い方はとくに注意をしましょう。
そして3つ目は、健康診断などで数値が高いと指摘された場合、たとえ痛みがなくとも内科や痛風外来のドアを叩き、医師の診察を受けることです。
お仕事を頑張っていらっしゃる世代の方々からは、忙しくてどうしても定期的な通院が難しいというお声をよく耳にします。最近はオンライン診療に対応しているクリニックも増えているので、ご自分のライフスタイルに合わせて通いやすいところを探してみてください。正しい治療を地道に続けていくことこそが、将来の深刻な合併症からご自身の体を守るための大切な基盤になるでしょう。
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イーヘルスクリニック新宿院 院長、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 非常勤講師、久留米大学医学部公衆衛生学講座 助教
埼玉医科大学卒業後、都内の大学附属病院で研修を修了。東京慈恵会医科大学附属病院、足利赤十字病院、神奈川県立汐見台病院などに勤務、研鑽を積む。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。予防医療に特化したメディカルクリニックで勤務後、2022年4月東京都新宿区に「イーヘルスクリニック新宿院 (eHealth clinic 新宿院)」を開院。複数企業の嘱託産業医としても勤務中。