舌が黒い:医師が考える原因と対処法|症状辞典
東京歯科大学オーラルメディシン・病院歯科学講座 主任教授、東京歯科大学市川総合病院 歯科・口腔外科
松浦 信幸 先生【監修】
舌は筋肉で形成される味覚の受容器であり、自在な運動を行うことで複雑な発音や食べ物の飲み込みを可能にしています。健康な舌は薄紅色を帯びていますが、さまざまな原因で変色することがあります。なかには舌が黒くなるといった症状が見られることもあり、注意すべき症状のこともあります。
これらの症状が見られた場合、原因としてどのようなものが考えられるでしょうか。
舌の黒い変色は、日常生活上の好ましくない習慣などが原因で引き起こされることがあります。原因となる主な習慣とそれぞれの対処法は以下のとおりです。
コーヒーやコーラ、カレーなどの色素の濃い飲食物を口にすると、舌苔に着色して舌が黒っぽく見えることがあります。
色素の濃い飲食物の摂取を完全に中止する必要はありませんが、過剰な摂取は控えることが大切です。また、飲食後は水を飲む、口をゆすぐ、歯磨き・舌磨きをするなどして色素が口の中に長い時間残らないようにしましょう。
タバコに含まれるタールなどの成分は、舌苔を黒く着色し、舌が黒っぽく見える原因になることがあります。
喫煙による舌への着色を防ぐには禁煙することが大切です。自分の意思のみでは禁煙に失敗する場合、禁煙外来で禁煙補助薬を処方してもらうなど、医療の介入を利用するのも1つの方法です。
口の中は不衛生になりやすい部位であり、細菌が異常繁殖すると舌苔が黒くなることがあります。
毎食後と就寝前に歯ブラシを丁寧に行うのはもちろんのこと、歯の隙間などはデンタルフロスや歯間ブラシなどを使用して丁寧に汚れを落としましょう。舌専用のブラシで舌表面を優しく磨くことも効果的です。また、セルフケアでは落としきれない歯垢は定期的に歯科医院でクリーニングするとよいでしょう。
日常生活上の習慣を改善しても症状がよくならないときには、思わぬ病気が潜んでいる可能性があります。軽く考えずに早めにそれぞれの症状に適した診療科を受診して、検査・治療を受けるようにしましょう。
舌の色はさまざまな要因によって変化しやすく、健康状態を示すバロメーターと考えられています。その中でも黒い舌は比較的よく見られる症状であり、原因は多岐にわたります。セルフケアで治るものもあれば、治療が必要な病気が原因となっているものもあり、注意が必要な症状の1つといえます。
舌が黒くなる病気には以下のようなものが挙げられます。
黒い舌には、舌自体に生じる病気によって引き起こされるものがあります。原因となる主な病気は以下のとおりです。
舌の表面には“糸状乳頭”と呼ばれる無数のザラザラした小さな粘膜の突起物が密生しています。糸状乳頭の角質が過剰に延長して毛が生えたように見えることがあり、この角質部分が黒色または黒褐色に変色したものを黒毛舌といいます。主な原因は、飲食物や喫煙などによる外来性の色素沈着によるものであったり、抗菌薬や免疫抑制剤、副腎皮質ステロイドの長期服用による免疫力低下から菌交代現象(口腔内細菌叢のバランスの変化)が起こり、黒色色素を産生する細菌が増殖することによるものであったりします。通常は痛みなどの症状を伴うことはありませんが、角化した糸状乳頭が伸びることで口腔内の違和感が増したり、舌苔が付着して細菌の繁殖による口臭を自覚したりすることがあります。歯ブラシや舌ブラシ、うがい薬などを使用して口腔内を清潔に保つことで、症状が次第によくなるのも特徴の1つです。内服薬による菌交代現象が原因の場合、自己判断で薬を中断するのではなく、必ず主治医に相談するようにしましょう。
舌に生じるがんで、口腔がんの約半数以上を占めます。舌の辺縁などに好発し、早期の段階から潰瘍やしこりを形成し、進行に伴って徐々に病変は広がっていきます。潰瘍の表面は脆弱であるため、ささいな刺激で出血しやすく、血液が固まって黒く見えることがあります。
メラニン色素沈着や、色素性母斑(いわゆる“ほくろ”)が悪性化したもので、皮膚がんの一種です。舌に発症することはまれですが、口の中では上あご、口唇、歯肉、頬粘膜などに発症し、さまざまな形や大きさの黒褐色病変として認められます。進行すると徐々に病変が広がっていき、しこりを形成することもあります。血行性またはリンパ行性に肺、肝臓、脳などに転移しやすく、予後が不良な病気です。
血管が拡張や増殖などの変化をして塊を作ったもの(血管奇形)をいいます。口の中にできるものは、粘膜から透けて淡青色から暗紫色の膨らみとして認められます。一般に痛みなどの症状はありませんが、誤って咬みやすく、それにより出血を生じることがあります。
舌の黒い変色は、舌以外の部位に生じる病気によって引き起こされることがあります。原因となる主な病気は以下のとおりです。
胃や腸に生じる病気によって消化管の機能が低下し、ビタミンやたんぱく質などの栄養素が不足することで免疫力が次第に落ち、口腔内細菌叢が変化することで黒毛舌を発症することがあります。
血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌量や作用が低下することで、血糖値が上昇しやすくなる病気です。重症化するまで自覚症状はほとんどありませんが、徐々に免疫力が低下し、唾液分泌量も低下するため、口腔内に細菌が大量に繁殖して黒毛舌を発症することがあります。
舌が黒くなる症状は比較的よく見られる症状であるため、特別不快な症状を伴わない限り病院を受診する人は少ないでしょう。しかし、なかには思わぬ病気が潜んでいることもあり、早急な治療が望まれるケースも少なくありません。舌の黒さが気になったときは病院を受診するようにしましょう。特に、舌に潰瘍やしこりが形成されている場合、出血や痛みを伴う場合、全身に何らかの症状がある場合にはなるべく早めに病院を受診するようにしましょう。
受診に適した診療科は口腔外科や一般歯科ですが、全身症状を伴う場合にはかかりつけの内科などで相談するのもよいでしょう。受診の際には、いつから舌が黒くなったのか、その誘因の有無、随伴する症状、現在罹患している病気、内服している薬などを詳しく医師に説明することが大切です。
翌日〜近日中の受診を検討しましょう。
気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。