舌のしびれ:医師が考える原因と対処法|症状辞典

舌のしびれ

受診の目安

夜間・休日を問わず受診

急ぎの受診、状況によっては救急車が必要です。
どうしても受診できない場合でも、翌朝には受診しましょう。

  • ろれつの回らなさ、顔の半分が下がっているなどの症状がある
  • 手足などにもしびれがある

診療時間内に受診

翌日〜近日中の受診を検討しましょう。

  • しびれが続いている
  • 痛みがある
  • ひび割れ、変色など舌の見た目の変化がある
  • 食事などに支障がある

場合によって受診を検討

気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。

  • しびれが短時間で、繰り返さない

東京歯科大学オーラルメディシン・病院歯科学講座 主任教授、東京歯科大学市川総合病院 歯科・口腔外科

松浦 信幸 先生【監修】

舌は筋肉で形成された味覚の受容器です。また、自在に運動することができ、スムーズな嚥下(えんげ)や発音にも寄与しています。舌は非常に重要な器官ですが、日常的にさまざまなダメージを受ける機会が多いため、トラブルが起こりやすい部位でもあります。中でも“舌のしびれ”は比較的、発症頻度の高い症状であり、その原因は多岐にわたります。

  • 突然言葉が出てこなくなり、舌がしびれて動きにくくなった
  • 舌に時折強い痛みを伴うしびれが生じる
  • 検査をしても舌や神経などに何の異常がないにもかかわらず舌のしびれを自覚する

これらの症状が見られた場合、原因としてどのようなものが考えられるでしょうか。

舌はさまざまなトラブルが生じうる器官ですが、“舌のしびれ”はよく見られる症状の1つです。原因は多岐にわたりますが、中には非常に重篤な病気が潜んでいることもあります。舌のしびれを引き起こす病気には以下のようなものが挙げられます。

舌のしびれは、舌に生じる病気によって引き起こされていることがあります。原因となる主な病気は以下のとおりです。

帯状疱疹

体内に潜んでいた水痘(すいとう)帯状疱疹(たいじょうほうしん)ウイルスが再活性化することによって発症する病気です。水痘帯状疱疹ウイルスの初感染は水痘水ぼうそう)として発症します。

水ぼうそうが治った後も水痘帯状疱疹ウイルスは体内の神経節の中に潜んで休眠した状態となります。しかし、加齢や、ストレスや疲れがたまって体調が悪くなったときなどに免疫力が低下すると、ウイルスが再活性化して潜んでいた神経節から神経に沿って水疱(すいほう)を形成し、激しい痛みやしびれを生じます。

再発を繰り返すことも多く、顔面や口腔(こうくう)内に発症した場合には舌のしびれを自覚することも少なくありません。

帯状疱疹
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舌がん

舌に発症するがんで、口腔がんの約半数以上を占めます。早期の段階では舌の辺縁(へんえん)部などに潰瘍(かいよう)やしこりを形成するのみですが、進行に伴って徐々に病変が広がり、潰瘍も大きくなります。

また、カリフラワー状の凹凸を形成することもあります。がんが舌の深部にまで達し、知覚を支配する神経を巻き込んで生育している場合には、舌の痛みやしびれを生じることがあります。

舌がん
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舌のしびれは脳や神経の病気によって引き起こされることもあります。原因となる主な病気は以下のとおりです。

三叉神経痛・舌咽神経痛

舌の知覚をつかさどるのは三叉(さんさ)神経(舌神経:三叉神経第Ⅲ枝の下顎神経の枝)と舌咽神経と呼ばれる脳神経です。これらの脳神経は脳の(きょう)延髄(えんずい)と呼ばれる脳幹から出て、頭蓋骨(ずかいこつ)の隙間を通ってその一部は舌に達しています。

腫瘍(しゅよう)や脳動脈瘤(どうみゃくりゅう)、または神経のすぐ近くを走行する血管(動脈)がこれら神経を脳幹から出てきたすぐのところで圧迫することがあります。圧迫された神経はその刺激により、舌に電撃様の強い痛みやしびれを生じさせるようになります。

三叉神経痛
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脳梗塞

脳の血管の一部が閉塞(へいそく)した病態で、閉塞した先の血管への血流が途絶えてしまうため、その支配部位の脳に広範なダメージと障害が生じる病気です。三叉神経(舌神経)や舌咽神経をつかさどる脳幹部の血管に梗塞が生じると舌の痛みやしびれを引き起こすことがあります。また、舌の運動をつかさどる舌下神経にもダメージが加わることが多いため、舌の運動障害(摂食嚥下障害呂律(ろれつ)が回らない)も現れます。脳梗塞でも一時的に脳血流が途絶える“一過性脳虚血発作TIA)”では、発症部位が脳幹付近の場合、舌のしびれや運動障害などの症状を呈しますが、数分から数十分で急激に症状が改善します。しかし、これを繰り返す場合には、その後脳梗塞を発症する可能性が高いため、早めの専門医受診が必要です。

脳梗塞
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脳出血

慢性の高血圧動脈硬化などによって硬くなった脳の血管の一部が破れ、脳内に出血を生じる病気です。

通常は発症時から激しい頭痛や嘔吐、めまいなどの症状が現れ、障害された脳の部位に一致した神経障害を引き起こします。脳幹部での脳出血では、摂食嚥下障害、舌のしびれ、呂律が回らないなどの症状を認めます。重症の場合には、意識消失、呼吸停止など命にかかわることもあります。

脳出血
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骨折・外傷

頭蓋骨や顔面骨の骨折外傷、手術による損傷などによって三叉神経(舌神経)や舌咽神経にダメージが加わるとしびれや麻痺を引き起こすことがあります。一度ダメージを受けた神経は完全に修復するのが難しいことも多く、慢性的なしびれに移行することも少なくありません。

骨折
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外傷
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舌痛症

中高年女性に多く見られる病気で、舌や神経、脳には異常がないものの舌にピリピリ、ヒリヒリとした痛みやしびれを引き起こす病気です。発症メカニズムは解明されていませんが、強い心理的ストレス、ホルモンバランスの乱れ、自律神経失調などの後天的な要因が関与していると考えられています。

舌の痛みやしびれ以外に症状はありませんが、症状が長期間にわたって続く場合もあります。

舌痛症
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舌のしびれはよく見られる症状であるため軽く考えられがちですが、重篤な病気発症のサインである可能性もあります。そのため、重症度にかかわらず舌に異変を感じたら病院を受診することをすすめます。特に、突然強いしびれが生じた場合、口腔内に何らかの病変(できもの)を伴う場合、全身症状を伴う場合には早めに病院を受診しましょう。

受診に適した診療科はそれぞれの症状によって異なり、口腔内の病気が疑われる場合には皮膚科や口腔外科、全身症状を伴う場合にはかかりつけの内科などで相談するのもよいでしょう。また、舌のしびれだけでなく手足の麻痺や呂律が回らないなどの構音障害を突然発症した場合には休日・夜間を問わず救急車を要請して迅速な検査・治療を受けるようにしましょう。

受診の際には、いつからしびれがあるのか、その誘因、随伴する症状、現在罹患している病気や罹患したことがある病気などを詳しく医師に伝えることが大切です。

舌のしびれは日常生活上の好ましくない習慣によって引き起こされていることがあります。原因となる主な習慣とそれぞれの対処法は以下のとおりです。

口腔内は唾液によって潤されており、過度な乾燥が生じると舌にピリピリとした痛みを生じるとともに、舌のしびれを引き起こすこともあります。

口腔内を潤すには

こまめに水分補給を行うのはもちろんのこと、外出先ではガムなどを口にして唾液の分泌を促しましょう。また、口の乾燥が非常に気になる場合には、口腔用保湿スプレーを使用するのもおすすめです。

ストレスによる自律神経の乱れが関与している可能性があります。日常生活での不満や不安は舌の痛みを増悪させる場合もあります。

ストレスをためないためには

日頃からストレスを解消できる趣味などを身につけ、ストレスをため込まないよう注意しましょう。また、適度な運動、十分な睡眠や休息時間を確保することも大切です。

日常生活上の習慣を改善しても症状がよくならない場合には思わぬ病気が原因となっている可能性も否定できません。看過せずにそれぞれの症状に合わせた診療科を受診して適切な検査・治療を受けましょう。

原因の自己判断/自己診断は控え、早期の受診を検討しましょう。